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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
2nd BRD  触れないカノジョのハナシ
42/46

劇的事件公開収録

「一魅!」


『ちょっと、夜に大声出さないでよ。別にいなくなったりしてないから……あー、一旦CM行っとく?』

『誰がこの放送のスポンサーなんだよ! まあでも、リスナーの皆さん、少々お待ちください』


 普段から悪ふざけ丸出しの緩い放送をしていてある意味助かったかもしれない。誤魔化せたかどうかはともかく、放送に別の声が混ざるような異常事態もあるくらいだからこの行動が特別不自然と思われる事はないだろう、俺には聞こえなかったがさっきまで一魅が喋り続けていてくれただろうし。

 携帯がミュートになったのを確認すると、俺達は揃って二年C組へと踏み込んだ。中では準備を終えた伽堂が鏡の前で蝋燭を以て座り込んでいる。

「説明をまだ受けてないんだけど、してくれるのよね?」

「え? さっき察してくれたのにか?」

「百聞は一見に如かずだけど、別に中身くらい聞かせてくれてもいいでしょ」

「神坂君? どうしましたの?」

「一魅が計画を教えて欲しいって言ったんだ。えっと……ついさっき除霊方法が見つかったからここに榊麻を呼び寄せて除霊する。俺達はその手伝い! オーケー!?」

「放送を継続しながら? とりあえず言われるがまま抜け出してはきたけど無理があると思わない? これから残り時間どうやって放送するつもり?」

「…………そう、だな」

 無理やり会議時間を作ったがとっくに限界だろう。早く放送に戻らないと幾ら緩い雰囲気の部活と言えども文字通りの放送事故だ。伽堂には無関係でも俺達には大問題―――どうにかして放送を継続したまま除霊の手助けをしないといけないのだ。


「よし、実況スタイルで行こう!」


「どういう事?」

「榊麻を呼ぶにあたって俺達は無関係を装ったよな。伽堂が珍しく学校に来たかと思えば除霊をしてる……っていう流れが出来た。ついさっきお前はそれを興味本位で様子を見に行った体でここまで来てくれたよな? この流れを利用するしかない。何か色々あって、俺もお前も除霊騒動に巻き込まれたって事にすればいいんだ」

「…………?」

「神坂君? 弓水さんとどういう会話をしたらそのような発言が出ますの?」

「納得行かないならそれでもいい! 話の流れは俺が作るから合わせてくれ! 榊麻が到着したら準備してる場合ですらなくなるんだからな!」

「わ、分かった。キミの判断を信じるわ」

 頭の中で時系列を想定する。真実を知る当事者は榊麻を含めた俺達四人のみ。学校で何が起きようと、俺達が何をしていようと外に伝わるのは俺達の声だけだ。多少騒音があってもまあ、今は問題ない。大事なのは演出……好奇心から俺達はうっかり巻き込まれたにすぎず、放送前からこれを計画していたなどと悟られてはいけない事だ。

 特に榊麻が移動しながらでも放送を聞く手段を拵えていた場合は、せっかく待ち伏せをしているのに取り逃がす事になる。それだけは避けたい。

 ああ、入るなら深夜放送部なんて訳の分からない部活ではなく演劇部だったか。違和感を取り除く、自然体の演技とやらを身に着けていればきっと今も自信をもって臨めただろう。

 視線で開始を促すと、一魅はスピーカーミュートを解除して俺に携帯を渡した。


『ちょちょちょちょちょ! 何で俺達まで巻き込まれんだよ!』

『え? えーっと…………私は悪くないでしょ! だって私は見えないし!』

『いやあもうさ……えー、リスナーの皆さんはせめてこの放送を聞いていて下さい、間違っても学校には来ない様に。ちょっと……除霊を見に行っただけなのに巻き込まれちゃって』

『伽堂さんの様子がおかしくなってるの! 追いかけ回されて、怖くて……』

『追いかけ回されたのは俺! 見えない奴を誰がどうやって追うんだよ! はあくそ、大人しくなるまで待つしかないか?』

『放送なんてやめて帰るって選択肢はないの?』

『後で先生に怒られるだろうが! そもそもだな、悪いのは勝手に侵入した挙句除霊まで試みてるあっちだから! 俺らは悪くないのに何で逃げなきゃいけないんだ?』

 

 

「がああああああああああああああああああどおおおおおおおおおおおおおおううううううううううううああああああ!」



 時間帯が深夜という事も忘れた絶叫。誰かを殺しかけてまで求めた獲物が遂に学校に居ると分かって飛び出してきたのだろう。ここまでは順調だ、獲物は網にかかり、後は捕まえるだけだ。


『うわあ! なんだなんだ』

『やっぱり逃げた方が良いんじゃない!? 巻き込まれるわよ!』

『いやあだって俺等関係ないし……じっとしてたらいい……』


「神坂君。すこし時間を稼いでくれますか? 結界内に彼が立ち入ってからすぐでは効果を発揮できませんの。放送には口出ししませんからどうにか……」

 放送に入っていないかは微妙(混ざる声が誤魔化してくれていたら或いは)な指示に了解のポーズを出し、それとなく廊下へと移動した。放送では伽堂が校内で除霊を試みている話をしたが居場所については教えていないから榊麻が取る可能性のある行動は二つ。俺達を探し出して場所を聞き出すか、虱潰しに教室を当たって見つけ出すかだ。

 操られているなりに理性が残っているのなら、放送中である限り居場所がハッキリしている俺達の場所へ行くと考えた。


『いやあやっぱ無理だ! 火事になっても逃げださないみたいなもんだし帰ろう!』

『ちょ、待って! 真正面から帰ったら鉢合わせ―――』


 そう、それでいい。まるで予期していなかった強襲にビビッて最速で逃げ出そうとする間抜けを演じる。廊下を抜けつつ階段の方まで移動してゆっくり階段を下りていると、声を聞きつけた榊麻が凄まじい勢いで近づいてくるのがここからでも分かる。


『…………』

『守命クン?』


 踊り場に榊麻の姿が見えた。その視線が階段先を見上げて俺の姿を捉えた途端、無尽の敵意と殺意が溢れ出すのを肌で感じる。


『あー、ようこそ深夜放送部へ?』


「伽堂は何処だ!!!!!」


『何でお前に教えなきゃいけないんだよばーか!』


 軽く挑発しただけで榊麻は躊躇なく襲い掛かってきた。階段を駆け上がり、あがった途端に飛び出す様子はまるで猛獣。これから俺は四足歩行に抑えつけられ喉元を食いちぎられるのではと想起させる勢いだ。

 その絶対的な死を、横から一魅が抑え込んだ。

「もう! 何で私が武闘派にならなきゃいけないの!?」


『一魅! その声は多分放送にちょっとしか入ってない!』


「うるさい! もう……こき使うのはこれっきりにしてよね!」

 たとえ直接体に接触されようとも彼女の存在を俺以外の他者は認識出来ない、今が正にその例だ。話しかけているのに、会話しているのに、榊麻は手を掴んで振りほどくのではなく、力任せに手足を動かそうとしているだけ。意思に反して身体が力を抑え込んでいると誤解しているのだ。

「……そういえば、貴方って守命クンを殺そうとしたんだっけ? じゃあ少しくらい痛い目に遭っても文句言わないでよ!」

「ぁ、がっ」

 一魅は左足を引っかけて足を払うと、半分宙に浮いた榊麻の身体を階段に押し込み、踊り場まで突き落とした。頭の打ちどころが悪いと意識不明になってもおかしくないと思ったが、意識不明どころか榊麻の身体はもう起き上がって条件反射で駆け寄ろうとした俺の顔を睨んでいる。


 ―――憑りつかれると身体まで強くなんのか?


『だ、大丈夫か?』

『が……どうを……出せ。アイツ…………必ずううううううううう!』

『大丈夫そうだな! よし今のうちに逃げるぞ! えーリスナーの皆さん、もしくは先生方、明日生きてたらまたお会いしましょう!』

『早く帰りましょうか』


 スピーカーをミュートしておけばここからはオフレコ、部活外の活動。何をしてもいい、どんな結末になっても榊麻は学校で注目を浴びる事になる。

「はぁ。一魅、機材の電源を切りに行ってくれ」

「大丈夫? 彼、まだピンピンしてるみたいだけど」

「元気そうだけど、さっきまでの活きの良さがなくなった。それに呼吸も荒くなってるから結界の効果が出てるんだろう。ほら行った行った。俺はもう少し様子を見てるから」

「…………注意してね」

 部室に戻る一魅を見送りつつ、視線は決して榊麻から外さない。殺されかかったのは今回で二度目……だが、その二度目は窮地に陥るより前にやり返せた。邪魔が入らなかったら簡単に殺せるなどという傲慢があったなら、どうかそれを改めてもらいたい。俺の傍には頼れる友人がいるのだから。

「少し話せるか? それとも話す余裕なんてないか?」

「あの女は縄に繋がれていない! 繋ぎ直せば手遅れになる!」

「……良く分からんが、その過程で俺は死んでもいいのか?」

「多少の犠牲など重要ではない! この村が滅んでもいいのか!?」

「…………致し方ない犠牲? 数字で見たらそうかもしれないけど、犠牲になる側の気持ちを考えた事あんのかよ。俺は死にたくないし伽堂だって死にたくないだろ。それは無視するのか?」

「こいつが……こいつがやらねば滅びる! 滅びを避けるのだ!」

「…………そうか」

 時間が経つにつれて榊麻の意識は勝手に失われているようだ。声に覇気がなくなり、動きがどんどん鈍くなり、やがて頭が完全に下がって、その場に蹲るように倒れてしまった。

 

 ―――さて、こいつを持って行けばいいのかな?


 俺は少数派の味方だ。どうぞ、逆張り野郎と言ってくれても構わない。一魅然り、伽堂然り、俺を嫌いと言ったあの子も思えば一人だった。昔から多数派にならないように出来ているのかもしれない。

 まあ、単なる偶然だろうけど。




















「榊麻君の意識が失われているようで何よりですの。お二人共、協力感謝しますわ」

「一魅は放送室に行って後始末してるから居ないぞ。ここには俺だけだ」

「そうでしたの。ではそこに榊麻君を横たわらせて下さい。それと、手に縄の端を握らせてくれると嬉しいです」

「分かった」

「あ、鏡に彼が映るように置いてください。それで準備は完了ですから」

「……俺は中に居ない方がいいか? それとも中に居ればついでに除霊出来るって事なら居たいけど」

「それは……私も本を読んだだけで応用を利かせられる程の知識はないので不測の事態を避けるように動いていただけると嬉しいですの。」

 言われた通りに縄の端を握らせ、鏡の角度を気にしながら榊麻の身体を横たわらせる。全ての準備が完了したと思ったので自分から机の外側に抜け、事の成り行きを見守るように腕を組んだ。

「これで……ようやく終わりです。”ユクエ様、ユクエ様、伽堂結衣と榊麻小太郎の縁をどうか、跡形もなくお切りください”。”この縁を、この定めを、この役目を、私は貴方に捧げます”」

 火の付いた蝋燭を縄の中央に近づけると、縄は油でも塗ってあったのか易々と着火。瞬く間に燃え広がった火は二人の持ち手部分を残して焼け落ち、同時に何故か蝋燭も消えた。

「…………まともな儀式を初めて見たかも。これで終わり……でいいんだよな?」

「ええ。榊麻君もこれで……解放された筈です。私はこれで帰りますの。お二人共、特に神坂君。このお礼は確かな形でまた後日」

「ああ」

 鏡は戻しておいた方がいいだろう、何、ついでだ。机の位置を元に戻さなくてはいけない大仕事が俺達を待っている。適当に道を作ってから鏡を持ち上げて一先ずロッカーの方に押しのけると、反射した景色が伽堂の視線を薄暗く映していた。

「……何か用事でもあるのか?」

「いえ、伝え忘れた事がございますの。それだけです」

「何だ?」





「大切な話がございます。お礼の際はどうか弓水さんを同伴せず……うちに」


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