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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
2nd BRD  触れないカノジョのハナシ
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呪い合って さようなら

 学校の鍵を受け取り自由に出入りできるようになるのは深夜放送部だけだ。今回の作戦は特権を完全に活かした物でもある。一魅の姿があれば作戦をすぐにでも共有するつもりだったが流石に少し気が早かった。しかし問題ない、事後報告の方がアイツも断りにくいと思うから。

「さて、早速準備か?」

「その前に部室を見せて下さらない? 私、興味がありますの。お二人が普段どのような場所で放送しているのか」

「そんなの学校に来ればいつでも……ってそうか。お前はずっと家に居たんだもんな」

 まだ放送もしていないから榊麻が既に潜伏している可能性は皆無だ、そもそも鍵だって開けていないし。まあ学校は広いから見落としていて実は侵入口がある可能性も否めないが……アイツが狙っているのは伽堂のみ。俺に突っかかってきたのは伽堂の話をしたからに過ぎない。今さっき思いついたような計画が漏れている場合でもない限り気にしなくていい。

「階段を上るのに手を繋ごうか?」

「嬉しい申し出ですけど遠慮しますの。私を箱入りのお嬢様か何かと勘違いしてますの?」

「ある意味間違ってないように思えるけどな……」

 学校を案内してくれと言われているような物だ。それに久しぶりの学校だからかきょろきょろと辺りを見回して新入生のように落ち着かない様子を見せている以上言い訳なんてきかなそうだ。

「そういや高校に行く前から引き籠ってたんだから、校舎を見るのは初めてだよな。ついでに制服も……か。感想はあるか?」

「みすぼらしい田舎の校舎ですの」

「おお、田舎のお嬢様がお高く留まってるな」

「神坂君は、リスナーに手厳しいですのね」

「いやあ事実だしな。何なら家系的にはここの権力者寄りだし、そう悪く言うなよ。真新しいとは思わないけど俺は結構気に入ってるんだぞ」

「……ひょっとすると私も感覚が麻痺しているのかもしれませんの。学校に行かなくなってからはドラマや映画の中の学生生活に入り浸っていた物ですから……もっと煌びやかで華やかだとばかり。ここの制服も今まではそれ用ですの。私、これでもカタチから入るタイプなので」

「まあ、煌びやかかどうかはそいつ次第だと俺は思うけどな。花影なんて正に青春って感じを過ごしてそうだし。逆に俺や一魅はそういうのからかけ離れて、何かとんでもない事に首を突っ込んでる気がする。そうじゃなくても体内時計に反した生活を強制されて、寿命は縮んでるな」

「ふふ、私達はまだ若いのですから寿命など気にする必要はありませんのよ? それに、お二人のお陰で私は毎日楽しませてもらっていますの」

「録音した放送を翌日聞いてるんだろ? 寿命が縮んでるのはお前じゃなくて舞子さんの方だよ」

 楽しそうに廊下をふらふらと歩き回る伽堂を見守り続けて大体一〇分。最短ルートで来た筈がえらく時間をかけて部室に到着すると、鍵を開けた途端に伽堂が部屋へ飛び込んだ。

「ここが二人の放送場所ですのね。もっと綺麗な場所を想像していました」

「文句は学校までよろしく頼む。ってかしょうがないだろ、うちはそもそも特殊なんだ。深夜放送部は一年で入部した奴が三年まで続けて、卒業と同時にまた一年が入るシステムなんだ。二人か三人しか使わない部室なんて予算を充てられると思えない」

「……ではどうしてこの部活は廃部されないのですか?」

「さあ? この部活と縁のある奴に交流がないもんで、悪かったな。『先輩の放送に憧れて俺も放送部に入ろうと思ったんです!』って、俺も言いたかったよ」

 一部の同級生以外には全く交流を深める気のなかった男だ、仮にOBが近くに居てもだからってお近づきにはならなかったと思う。入部して初めて部活の存在に気付き、これは一魅の捜索に使えると思い立っただけ。

「…………少し不思議なのだけれど、どうして一魅さんの声は普段聞こえないのに機材を通せば聞こえるのでしょうか」

「俺に言われても……昔からそうだからな。そういうもんだと思うしかない」

「どうして神坂君には見えるの? 先祖に高名な陰陽師が居るとか?」

「それだと一魅がお化けみたいだな。アイツは見えないだけで壁は通り抜けられないし人も別に呪えないぞ」

 見える理由なんて俺にも分からない。ただ見えるからには出来る事をしたいだけだ。ましてその困ってる相手が好きな人だったら―――頑張りたいと思うのが男心ではないだろうか。

「もう十分ですの。そろそろ準備に移りましょう」

「よしきた」

 学校探索なんて登校するようになったらいつでも出来る。だがこの決戦はこの一夜にかけられている。待ったなし、そして失敗も許されない。

「鍵束を貸して下さらない? 教室に入らないと」

「教室は鍵かかってないぞ。先生が面倒くさがってるからな」

「……防犯意識の低いこと」

「個人情報が入ってる場所は別だろうけど、教室なんて普通用事ないからな。置き勉は黙認されてるだけだし」

「では少しお待ち下さい。私が指示を残してきますの」

 そう言って伽堂は手近な教室から一つずつ訪ね、少し時間をかけてから次の教室に移動していく。


「黒板の通りに机を動かして下さらない? それが大切な陣になりますの!」

 

 三年の教室に入ると黒板に分割された□が立ち並び複雑な模様を描いている。数を数えてみたが□の数はきっちり机の数と一致しており、あの短時間でこれを書いたとするならその画力に驚愕だ。一魅が来れば話は早いが、今は俺しか力仕事をこなせる人材が居ない。精々放送開始までに頑張ろう。

「…………」

 一時間も猶予がないのか。


 結構大変かもしれない。

















「どういう事? 一体全体何があったらこんな作業をしないといけないの?」

「説明は後だ! 時間がない!」

「放送開始までもうすぐですものね!」

 多分、彼女は驚いた筈だ。今日も放送前に軽く情報共有をしようと思っていたら無関係の教室に入っては机をあちこち動かす深夜放送部長の姿に。声をかけてきた時も随分慎重だった、戸惑ったのだろう。

「後でちゃんと説明してよ? 出来れば放送までに!」

「分かってる! もっと早くやるべきだった事も、作戦がついさっき決まったばっかりな事も!」

「……一年生の教室は私が全て済ませておきましたの。後は二年生の教室だけですの」

「おっけー! じゃあそっちは次の手順をやっといてくれ。机は俺等でやるから」

「弓水さんが来ましたの? それなら一応手順を伝えておきますの。二年C組の机の内側を縄で覆い、その中で私が蝋燭をつけますの。その後、お二人で放送を開始し、私の存在を榊麻君に伝えて下さい」

「……何となく吞み込めたよ。要するに、彼に憑りついた霊を除霊するのね」

「察しが良くて助かる! 一魅、この作戦は失敗出来ないぞ、俺以外の誰にも見えないお前に伽堂の命はかかってる。呼び出したらすぐ防衛に当たってくれ」

「当然の様に頼ってくれるのは嬉しいけど、私って見えないだけで武闘派じゃないのよ」

「……か弱い女の子は無理があるぞ。 一人だけ無限に不意打ち出来るのに」

 そこに一魅が居ると分かっていても、存在を認識する事は誰にも出来ない。例外は機器越しに声を聞くか、俺そのものか。さっきも言った通り理屈なんてさっぱりだが今は重要ではない。そんなのはいずれ明らかになる。

 大事なのはそのアドバンテージを活かさない道理はないという事だけなのだ。

「じゃあ、放送室に向かいましょうか」

「ああ!」

 細かい確認は省いたが机の移動は完璧だった筈だ。放送開始まで残り三分。二重確認をしている余裕もなければ部室について一息つく暇もない。もうすぐここは戦場になる。

 榊麻小太郎は伽堂について知りたいが為に俺を殺そうとした。本人を殺せるチャンスとなれば今度こそ全力だろう。先生が何かの間違いで警告に来てもきっとその手は止まらない。何なら一人殺す為なら二人殺しても三人殺しても同じだとついでに殺意を向けられる可能性だって。


 ―――ついでに俺に憑りついた奴も除霊されてくんないかな。


 学校に結界を張るなら俺だって内側に居るのだからそれくらいの恩恵を受けたっていい。それくらいは期待してしまうが。




『今夜も暗闇からこんばんは。深夜放送部、弓水一魅です』

『そんな挨拶を作った覚えはない。黄昏の逢魔が時、神坂守命だ』

『え、二つ名ダサ』




 今は、榊麻を助ける事に集中しよう。




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