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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
2nd BRD  触れないカノジョのハナシ
35/37

秘密は男女に伴い蜜のよう

 夜の十二時を過ぎる前に、部室を開けたのは初めてだ。普段は一魅が先に開けているからただ行くだけで良かったが今日は間違いなく荷物を持っている。放送の準備くらい整えてやれなくて何が部長だ(厳密に言うと部員は俺一人だからその肩書に威厳はない)。


 ―――。


 思えば普段は俺が来て間もなく放送が始まるから物置を見ようともしなかった。物置は書いて字のごとく物を置く為の場所であり、俺が入部するまでは放送室として利用しているこの教室でさえ物置の一区画として使われていたせいで今現在の物置には物凄い密度の雑多な品が貯め込まれている。普段は見る暇もなければ理由もないが今は暇だ。準備なんて機材の調整とマイクを準備するだけで終わるし、まさか彼女が来るまで机に突っ伏して睡眠時間を確保しようなんて言う筈もない。

 ほんの興味だ、直ぐに終わる。

「…………んーまあ、ゴミか」

 テープレコーダーを見つけたが壊れていた。使えたら……いや、特に使い道を想定して手に取ったつもりはない。見かけただけだ。


 カタン。


「え?」

 それは一魅のやってくる音かと思ったが、違う。物置の奥に安置されていた人形が何故か放送室の机に立っていたのだ。

「え、え……え」

 怪奇現象に驚いている……のではない。そんなの透明人間の時点でとっくに怪奇現象だ。問題は物置を開けた途端に、しかし俺はまだ手前の物を触っただけなのにもかかわらず奥に立てかけてあった人形が机に移動した事だ。そんなポルターガイスト染みた現象は深夜放送を続けて今初めて遭遇した。

「…………」

 それ以上、動かない?

 不思議に思って人形を手に取ってみるが何の変哲もない人形だ。電池で動く機構もなければ髪も伸びていない。日本人形というのはどうも心霊に結び付けられがちで深夜という時間帯も相まって不気味に見えるが、そんなのは俺の思い込みにすぎず、明るくして見れば普通の顔立ちであった。

 携帯のライトを頼りに鑑定人仕草で細かく観察していると、人形の着物に紙切れが挟まっているのを見つけた。無理やり差し込んだのだろう、紙は大層しわがついてしまっている。


『ヒトミはいない?』


 ただその一言を伝える為に随分無理をしたような。このくしゃくしゃの紙からは筆者の尋常ではない慎重さと妙なそそっかしさが見て取れる。

 ”ヒトミはいない?”

 ヒトミ、瞳……一魅。俺に”ヒトミ”という単語を投げかけて来るならアイツの事を指している筈だ。いない? とは所在の有無を聞いていて……アイツは俺にしか見えないからその判断は正しいが。

「俺はどう返事すりゃいいんだ? えっと……今は居ない。もうすぐ来るだろうけど」

 虚空に独り言を呟いてみるが返事はない。もうとっくに居なくなってしまったのだろうか。その後ろ姿さえ見えないなら透明人間と同質の存在と思われるがとりあえず敵意はなさそうで一安心だ。

 物置を漁る予定だったが人形の事を気にかけている内に校舎の一階から声が聞こえてきた。上に向かって呼びかけているくらいだし間違っても不法侵入者ではないだろう。

「今行く! 待ってろ!」

 一体どれだけの本を持ってきたのだろう。時刻は一時……しかし俺には一時間も人形と遊んでいた自覚がない。体感は十分くらいだ。自分の体内時間が狂っていると見込んでも三〇分。一時間なんて、それこそ過ごした事自体を忘れないとすぎないだろう。

 人形は不思議だったがそれ自体は別に楽しくなかった。どうして一時間も過ぎているのだろう。ふと気になって人形の方を一瞥すると、既にその姿はなく。

 物置の扉も閉まっていた。



















「お前、自分の行動が全部認識されないからってやりすぎだろ!」

「声が大きい! みんな起きたら君の責任だよ?」

「いや、お前が悪いだろ。幾ら何でもここまで本を持ってくるなよ!」

 山の様に持ってくるのはいいが、どこぞの畑から拝借したであろうリヤカーに乗せて運んでくるとは思わなかった。きちんと布を敷いて汚れない様にしているから文句はないだろうと言いたげだがそういう問題じゃない。リヤカーに本を積んで持ってきた事がおかしいと言っている。

「そりゃ俺を呼ぶだろうな、部室までリヤカーは引っ張ってこれないから!」

「そうなの、だから手伝って」

「はぁ、これ全部関係ありそうな本なのか? 悪いけど軽く中身を検めさせてもらうぞ」

 全部読破したとは思わない、見た目だけで一魅も持ってきた筈だ。本の九割はオカルトに関連する話題を取り扱っているっぽいが一部はこの地域に焦点を当てた郷土史本もあった。それは無関係に思えてこの町が呪われていると信じてやまない伽堂の発言と繋がっているだろう。信じるにしても疑うにしてもこの町の成り立ちや歴史について知っておくのはそう悪くない。

「……透明人間の件も図書館に行けば分かったんじゃないか?」

「それはどうかしら……とりあえず手分けして持って行きましょう。多分八回くらい往復すれば無理なく終わるから。あ、貸出記録に記載してないから本は暫く借りっぱなしにしておいてね」

「物置に突っ込んどけってか? はいはい」

 直前の一件については何となく彼女に黙っておく事に決めた。よく分からないが手紙の主は一魅に会いたくないようだから、それをしたからって別に不利益を被る訳でもないし、それならわざわざ打ち明ける道理もない。

 榊麻の一件にはどう考えても無関係だし。

「やっぱ部員欲しいかもな。部長としての強権でこういう力仕事を任せたすぎる」

「私は?」

「部員じゃないからお前の善意でしか聞いてくれないだろ」

「それを言い出したら守命クンも一年生だから力関係なんて無いと思うけど。年功序列に反しているわ」

「くそ、好き放題言ってくれるな。来年は絶対部員を募るからな!」

 しかし活動時間の関係上生活が不健康極まる部活動に果たして加入したがる人間がいるかどうか。本を六冊ほど胸に抱えて階段をゆっくり上がっていく。


「……その部員はワタシが見えないから、また空気にならないといけないのね」


 一魅は自分が透明人間である事を最大限に利用する、時にはその手のジョークも言ってくれる。けどそれは寂しさを紛らわせる為の振舞いにすぎず本音はずっと嫌がっている。きっと今みたいに俺と話せなくなる事を畏れているのだろう、普段は気を遣って話しかけないでいてくれるから。

「勘違いも甚だしいな。その時はお前にも正式に部員になってもらうんだぞ」

「え?」

「この一年でお前を見つけてみせる。そしたら新入生とも話せるだろ?」

 その志は彼女と出会った日から一秒たりとも曇った日はない。今日こそは、今週こそは、今月こそは、今年こそは。見つけると言ってもやり方が分からないがどうにかして悩みを解決しようと奔走し続けた。結果だけを見れば全てが無駄な努力だったが深夜放送部に加入してからは手応えを感じていた。

 怪奇現象とてんで縁のなかった俺が、早速透明人間なんかと戦わされたのだ。更に伽堂はこの町が呪われていると言っていた。真偽なんて今は問題じゃない、大切なのは高校生になるまでその手の話に縁がなかったという事だ。故に今年こそ。今年ならば。

 弓水一魅を助けられる。俺はそう信じている。見えない幼馴染を、アウトロー仲間を、好きな女の子を。

 部室と昇降口とを何度か往復した末、本は全て部室に運び込まれた。リヤカーに関しては知らない、何としてでも返却させるつもりだが。

「お前…………途中から全部俺に搬入任せて読んでんじゃねえよ!」

「放送まで時間がないんだし、役割分担は当然よ」

「そこまで言うなら、何たらオトメについて見つかったか?」

「”ミナシゴオトメ”ね。それ自体を直接見つけた訳じゃないけど、類例は幾つも見つけてあるわ。それらに共通する点は―――」






「現れるのは単なる幽霊で、将来の自分なんて大層な存在じゃないってコト」































 

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