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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
2nd BRD  触れないカノジョのハナシ
33/37

昔は希望を信じていた

「…………」

 翌日、言われた通り裏門に向かうと舞子さんが俺達を待っていたように腰に手を揃えて佇んでいた。女性と接触してしまう万が一の可能性を考慮するとこういうのは本来一魅に任せたいのだが認識されないのでは仕方ない。俺から見た絵面は不自然極まるが物理的な距離に割り込んでもらう事で接触の可能性を絶たせてもらう。

「お疲れ様です、神坂様。弓水様もいらっしゃるのでしょうかぁ」

「ああ、どうも。傍に居ますよ……見えないでしょうけど。昨日の放送は敢えて何も伝えずに終わらせましたが、今日は約束通り榊麻についての情報を伝えに来ました。ですがその件で……伽堂結衣さんにもう一度聞きたい事が出来ました」

 姫篠の降霊術では主犯が伽堂結衣という結果が出たらしい。俺達のこっくりさんでは何故かどう質問しても同じような答えを得るどころかあるまじき曖昧な返事しか返してこなかったので真相は闇の中、使った十円と紙の処分は一魅に任せた。挑発するような物言いはNGらしいから、無理に聞き出そうとするのは良くないと諭されたのだ。

 だったらもう、本人に聞くしかないだろう。

「もう放課後ですし、今から会わせてくれませんか?」

「お嬢様は基本的には誰ともお会いになりませんがぁ、そういう事でしたらご案内いたしますねぇ。何か、訳アリのようですから」

「すみません」

「私が間に居る意味、ある?」

「……あるよ」

 これも舞子さんには独り言に聞こえているのだろうななどと考えながら彼女の背中を追って再度伽堂家へ。二度足を踏み入れたのは俺達が初めてになるのだろうか。最初に会った時の口ぶりだと恐らくそうなる。名誉と思っておいた方が良いのかもしれないが幾ら相手がお嬢様でも同級生を相手にゴマをする気にはならなかった。

「本題に関しましてはお嬢様とお話なさってくださればよろしいですが、こちらからも確認してよろしいですか?」」

「はい」

「榊麻小太郎様は……今日は登校なさっていないようですね。お二人の内どちらかが何かなさったのでしょうかぁ」

「私は何もしてないけど」

「俺がやったんです。やったって言っても一昨日の放送で挑発しただけですけどね。そしたら向こうから来て……色々あって先生に注意されたんで学校に来なくなりました。もしかして俺達が尾行されてそのまま流れで伽堂と接触されるリスクでも考慮してますか?」

「おや、察しがいいですねぇ。全くその通りでして、私は所詮家事しか出来ない身ですし、神坂様はあまり喧嘩が強そうではないものですから―――いえ、暴力的でないのは美点ですけどねぇ」

「そういう事なら問題ないですよ。一魅がここに居ますからね」

「弓水様には武道の心得が?」

「ないですけど、絶対に認識出来ない相手に喧嘩で勝てる奴なんて居ませんよ」

 真の透明人間をみんなが甘く見過ぎている。見えないだけで触れるとか、足跡や熱源探知や物音と言った外的要因で位置を把握出来るなんてもんじゃない。やっぱり実際に付き合っていかないといまいちついつい想像では軽視されてしまうのだろうか、一魅は見えないだけで触れるし殴る事だって出来るしそれでダメージも入るが、殴った側がそれを認識出来ない事がどれだけアドバンテージをもたらしているか。

 放送のお陰で皆存在は認知出来ているが、仮に榊麻が不意打ちするような流れになっても一魅相手には空気の背中を取るようなもので絶対に不可能だ。そしてどれだけ一魅から攻撃されてもそれを一魅のせいとは認識できない、何か違う事象のせいでそうなったと脳が勝手に補正する。

「もしそんな事になったら舞子さんは先に家に帰って籠城してください。俺達の方は何とかするので」

「……お嬢様を気遣っていらっしゃるのですかぁ?」

「あんな細っこいと喧嘩に巻き込まれるだけでも大けがしそうじゃないですか。リスナーに被害まで及んだら部活が廃部になっちまいますよ」

「……ふふ。なるほどぉ、それは素晴らしい建前ですねぇ」

「はい?」

「いえ、何でも。リスク管理の素晴らしさに驚いただけですから」

 本当に何の事か見当もつかないが、心当たりのない事で褒められてもそう悪い気はしない。一魅の存在を認知させる試みは遥か昔に失敗して深夜放送部活動まで何の成果も得られなかったが、一魅だけは『頑張ってくれてありがとう』と言ってくれた。それだけで十分、あれには意味があった。

 伽堂家の門を抜けてまた客間に通される。今度も急な訪問には違いないが本来舞子さんにだけ情報を伝えれば済む話だった。主人はまだ起きていない可能性も……などと邪推している内に伽堂結衣は襖を開けて現れ対面に座った。

「まさか二度もこのような形でお会いするとは思いませんでしたの。神坂さん、弓水さん、こんばんは」

「こんばん……は? まあ夜っちゃ夜か。息災か?」

「その挨拶は暫く会わなかった人がしますのよ? 無理してそのような言葉を使わなくてもよろしいですわ。何だか以前もこんな事を言いましたわね。報告については舞子から聞く予定でしたのに、二人きりで話したい事があるとか。弓水さんはいらっしゃいますが、この場では省略いたしますの。私には声が聞こえませんから」

 それはいつもの事で、一魅も今更傷つかない。横目で了解を取ると、当たり障りのない話題から話すのもどうかと思い、率直に本題を切り出した。

「中学生の頃、降霊事件があったそうだな。事件の詳しい中身は知らないが主犯はお前だって話を聞いた。榊麻はどうも憑りつかれてるらしくてな、誰になんてのは分からないが、心当たりがあるんじゃないか?」

「…………」

「主犯ってのも初めて知った話だ。確か前に聞いた時はその場に居合わせただけみたいなニュアンスで言ってたよな。主犯とはまるで意味が違う。疑う訳じゃないし、榊麻がおかしくなったのは伽堂のせいだっていうつもりもないが流石に話は聞くべきだろ」

「―――その情報は、誰から聞いたんですの? 花影さん?」

「いや、こっくりさん」

「こっくりさん…………え? こっくりさん?」

 張り詰めた空気が嘘のように柔らかくなる。伽堂は笑いを堪えようとしたが誰が何をするでもなく耐えられなくなったらしい、可愛らしい笑い声が掌の奥から漏れ聞こえてくる。

「こ、こっくりさん……! ま、まさかそのような……子供騙しな遊びで……そ、そのような……あは、あははははは!」

「守命クン、馬鹿にされてるみたいだけど?」

「あんまり悪し様には言えないな。最初聞いた時は俺もどうかと思ったし、発想に行きついた姫篠がどうかしてる。でもその情報は間違ってるのか? それとも……合ってるのか?」

 嗤ったからと言ってまだ真偽は確定していない。裏付けも特に済んでいないがから否定されればそれまでの話を、伽堂は急に静まり返って頷いた。

「……はい。その通りですの。とはいえ語弊があるのも事実ですが。主犯という言い方は正しくありません、私はこの町の真実について知りたかっただけですから」

「この町の……真実?」

「まさかこのような事になるとは思いもしませんでした。私が真実を知ろうとしたその手段もこっくりさんに酷似した降霊術ですの。ずばり……何故町の人々は他人の恋路を気にし、時には強制さえするようになるのか、気になったのです。神坂さんには似たような経験がございませんの?」

「…………今は、もうないかな」

「私は伽堂家の娘、いうなれば権力者ですの。ですからそのような話は一度や二度では済まされず、外を出歩けば老いさらばえた方々に一挙手一投足を観察される始末、とても安らかではいられません。男性と仲睦まじく帰らねばそれだけでお父様に迷惑がかかる程でしたわ」

「……でも許嫁が居るんだろ? 結局そういう相手を見つけたならもうその心配は」

「あれは建前ですの。強制される恋愛には何のトキメキも感じられませんから、お父様にも協力していただいてそういう事にしただけです。文脈が多少前後してしまいましたが、私が家に引き籠るようになったのは架空の許嫁を暴かれないようする為と―――さっきも言った、降霊術の結果を聞いての事です」









「この町は、邪教に呪われておりますの」

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