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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
2nd BRD  触れないカノジョのハナシ
32/37

高校生にもなってあった怖い話

 最初の透明人間の一件も、一魅の存在その物も、今回の謎の声も。あまり認めたくないが怖い話の類に入る怪奇現象だ。こっくりさんなんてありふれた話かもしれないが、ありふれているからこそこれまで俺も触れてこなかった。何というか、嘘っぽくて。

 透明人間はこっそり実害を出していたし一魅はそこに存在するし謎の声はクレームという形で認識できたが降霊術なんて……非現実的だ。傍から見ればどれもこれも同じだろうと言われても特に反論出来ないのだが、とはいえ当事者からするとややその発想は奇妙に映る。姫篠がそういう手段に頼るのも意外だった。


「でも、面白い発想ね」


 放課後、部室に戻ってこの事を共有すると殆どの人間からすれば怪奇現象寄りの人間こと弓水一魅からは高評価だった。

「こっくりさんに情報を聞こうとするなんてワイルドじゃない? この部活に所属してないのが不思議なくらいだよ」

「姫篠は友達だけど女子だから無理だよ。同じ部活に所属したらどうしても接触事故が起きる。お前と同じ状態だったら良かったのにな」

「それ、どういう意味?」

「触っても大丈夫な透明人間って意味だよ。それなら勧誘してたさ」

 とはいえ、それで来てくれるかどうかは微妙だ。見ての通り深夜放送部は放送だけに注力すればいいかと思いきや怪奇現象が次から次に発生するので話題作りと実績作りの為にもそれに対応しないといけない。そうしてラジオを聞く人が増えていけばいつかは一魅に関連する話が流れてきたり―――或いは捜索願を出してる人間が遂に登場したり。そういうのを期待してこの部活に入った。だから精力的に活動しているのだし、部員になったら俺はそいつにも同じだけの活動力を求める。だからあの物臭が一魅と同じような状況になっても入部するかは……改めて考えてみても微妙。

「仮に勧誘するつもりなら、私は反対するところだったわ」

「え? 肩身が狭くなる俺ならまだしも、お前が? 透明人間だとしてもか?」

「だって、せっかく二人きりの部活だったのに水を差されるのよ」

「…………」

 唯一姿の見える俺に絶大な信頼を寄せていると分かるのは嬉しいが、ある意味悲しい意見だ。放送を終えた翌日はいつも一魅の声ばかり褒められて、彼女の声が聞きたくてラジオをつけている人間も多いだろうに本人がこの様子では分かり合える日が来るかどうか。

 一魅から好かれていると分かるのは嬉しいが、やっぱりこの状況は卑怯だ。みんなと触れ合えるようになったら……俺なんて……

「疑う訳じゃないけど、情報源が明かされてるなら裏を取る為に私達もやってみない?」

「こっくりさんを……放課後に?」

「ぴったりでしょ? それに情報源がこっくりさんだったらそれをラジオの話題にも出しやすくなるわ。姫篠サンに危険が及ぶこともないでしょう」

「……これはこっくりさんから聞き出した有力な情報ですって言って信じてもらえるかは怪しいけどな」

「いいのよ適当で。私達は証拠を固めて逮捕する警察とは違うんだし」

「こっくりさんはお前を認識出来るのかな」

「それも含めてやるべきよ……降霊事件の事だけでなく、他の事を色々聞いたっていいのかもね。こっくりさんには質問の数で制限をかけられていた記憶なんてないし、話半分に受け取るにしても聞き得だと思わないかしら」

 俺が拒否するとはそもそも想定していないのか早速一魅はこっくりさんに使う用紙を作り始めた。この部室は元々鍵をかけているせいもあるが、校舎の中でも辺鄙な場所に部室があるせいで俺達に用事がなければ偶発的にも人は来ない。なんかの間違いで目撃される心配もなければ、通りすがりという言い訳も効かないのだ。

 こっくりさんには詳しくないが、やってはいけない事くらいは把握している。終了の手順をスキップする、最中に十円玉から手を離す、こっくりさんに挑発をしない。無関係の人間が来る限りそいつが面白半分に俺達の邪魔をする可能性は否めない(特に十円玉から手を離させるのは最も簡単だ)から、人が来ないのはそれだけで安全性を保障されているようなものだ。

「まさか高校生にもなってこっくりさんとはな……まあそろそろ非現実的だ、なんて言うのはバカらしいけどな。透明人間の実害がしっかりあった以上、そういう風に見えなくなってるだけって可能性が排除出来なくなったんだし」

「出来た」

 五十音と『はい』「いいえ」、こっくりさんの出入り口である鳥居のマーク。ぱっと見は不自由のない表だ、机の上に置いたらもう既にそれっぽい。始める前に改めて部室周辺を見たが人は居なかった。

「やっちゃ駄目な事は一通り把握してるつもりだけど、一応注意点を聞いても良いか?」

「―――質問は単純に。早い話、こっくりさんに数学の問題を聞くのは駄目って事。数字自体は用意してるけど基本的な返事には『はい』と「いいえ」しか用意してないから」

「あー…………そりゃ中間考査の告知がされる前に聞けて良かったよ。ま、聞かないけどさ」

 十円玉の上に二人で指を置いて準備は整った。


「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら”はい”へお進みください」

「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら”はい”へお進みください」

「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら”はい”へお進みください」


「……何でお前が言うんだ?」

「私が認識されるのか知りたいんでしょ? だったら私が呼び出した方が早いじゃない。あ、動いたみたい」

「……うご、いた?」

 俺は十円玉に力を入れていない。動かしたとすれば一魅なのだが引っ張られるような力は感じなかった。まさか本当に、こっくりさんが来て動かしている?

「質問しないの?」

「……うーん、じゃあ手始めに簡単な質問を少々。こっくりさん、こっくりさん。この場に居るのは何人ですか?」

 十円玉が動く。『ひ』『と』『り』『?』

「数字じゃないし、よく考えたらなんでこの表に”?”と”!”があるんだよ。使い時がないだろ」

「”?”は今使ったじゃない。私が居るのは分からないけど一人じゃない事も分かるって感じかな」

「…………こっくりさん、こっくりさん。弓水一魅の捜索願を出している人はこの学校に居ますか?」

 十円玉は動かない。

「返事なしはおかしいだろ。これは”はい”か”いいえ”で答えられるぞ」

「はいはい、質問じゃないけどそういう挑発はやめて。そろそろ本題に入った方がいいんじゃない?」

 この学校に居るならとっくにラジオを聞いているだろうと予想を建てられたし居ないと判明したならもっと外に向けた取り組みをしようと思っていたのに全てが無駄になった。元々そこまで乗り気でなかったとはいえこの時点で俺からのこっくりさん評価はとんだ無能になった。

「こっくりさん、こっくりさん。えー……中学校の頃に起きた降霊事件で榊麻に何が起きたのでしょうか」

 単純な質問かどうかはともかく、これこそこっくりさん実在の証明になると俺は考えている。今までの質問は一応、意図を汲んだ一魅が自作自演を行ったという可能性も否めないがこの質問に回答出来た場合俺達のいずれも知らない情報がもたらされたという事でもあるので……つまりこの十円玉の上に誰かが居る。居ても居なくてもそいつは無能だけど。

 十円玉が、動いた。

「お?」

「……お化けの目は誤魔化せないってところかしら」

 俺達の知らない事実。

 そして明日、場合によっては伽堂に伝えなくてはならない情報。



『と』『り』『つ』『か』『れ』『た』。



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