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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
2nd BRD  触れないカノジョのハナシ
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不可視の恋と不可知の友

「今すぐ伽堂について詳しく教えろ!」

「う………くっ」

 信じられないかもしれないが、屋上に向かった俺を待ち受けていたのは有無を言わさぬ絞め落としだった。幸い首と腕の間に自分の指を差し込めたから無抵抗で気絶する事はないが、あまりにも完璧な不意打ちに抗うので精一杯。大声を出す余裕なんかない。

「な、んだよ……! おまえは……!」

「伽堂に会ったんだろ! 教えろ、アイツの事! 何でもいい、外見、着ていた服、年齢、家族、趣味、部活、進路、何でもいい! 教えろおおおお!」

「ぐ、やめ…………」

 一魅が居れば良かったが、屋上に行くから合流が遅れるという連絡をさっきしたばかりだ。それは望めない、俺はこの状況を……自分だけで打開しないと。

「何で知り……それくらい教え……ぐぎ」

「さっさと教えろお! 死にたいのかああああ!」

 俺達が知りたいのは放送中に混ざった声についてなのになぜ話はここまでややこしくなった。伽堂に義理もなければ恩を売る動機もない。深い仲でもないから殺されたくなければ大人しく情報を差し出すべきだとは思う……例に挙げられた情報を教えたって伽堂が危機に瀕する事はない筈だから。

 とはいえ俺という人間は昔から天邪鬼だ。どんなに否定されても一魅の存在を虚偽とは認めなかったし、自分が女性に触れないと分かっても交流を絶つのではなく

接触を徹底的に控える形で飽くまで普通を演じてきた。俺は明確な答えが用意されても安易に選びたくない厄介者の性質を抱えている。今回も例に漏れず―――情報を渡す気にはなれなかった。

「おしえ…………ないぎ、ぎゃぐげ……」

「教えろ! 教えれば俺は救われるんだ! 早くしろぉ……教えてくれるだけで、いいんだぁ……俺を……助けると…………思って」




「おい、何してる!」




 救いの手は―――意外な所から差し伸べられた。声が聞こえても榊麻は手を離してくれなかったが、脇腹に力強い膝蹴りが叩きこまれ榊麻は間もなく悶絶。崩れ落ちる俺の身体を先生が受け止めてくれた。

「神坂、無事か?」

「…………せん、せい」

「榊麻ぁ。今回の事は親御さんに連絡させてもらうぞ。いいな?」

「く、くそぉ……クソ! 何で邪魔すんだよ! 俺はただ!」

「ただ……なんだ?」

「伽堂の事を聞こうと! 心配で! 学校に行ってないから!」

「ほお。それで知ってる奴に聞くのか。首を絞めながら」

「クソが! 俺だってこんな事したくねえんだよ! 死ね!」

 捨て台詞を吐いて榊麻は逃げるように去っていく。先生は俺が呼吸を整えるまで一言も喋らず、その場で黙って煙草を吸っていた。

「…………生徒の前で、煙草吸っていいと思ってるんですか?」

「これくらい見逃せ。見逃すなら、俺もこれ以降お前達の活動を邪魔したりしない」

 先生は屋上の縁に座ると、すっかり呼吸を整えた俺を見て安心したように煙を吐いた。

「……一応聞くが、大丈夫だな?」

「はい。もうお陰様で……助かりました。トラブルになる可能性は踏まえてたけど最初から首を絞められるなんて思わなくて。でも意外でした。先生が俺を助けるなんて。部活に入って初めて揉めたのは、アンタなのに」

「ま、敬う必要はないから好きに嫌え、見えない奴を認めろなんてのは難しい話だったってだけだ。俺に口答えしたお前は確かに嫌いだが、一方で教師として生徒が危険な目に遭ってる時は助けるさ」

「……先生は何処まで知ってるんですか?」

「何も。別に知りたくもない。透明人間の時もそうだがそれが生き残る秘訣だ。榊麻については……職務として親御さんに通報はするが本人が無敵の人になる可能性もあるから十分気をつけろ」

「無敵の人? 将来が犠牲になるとか絶縁の可能性がチラついても止まらないっていうんですか?」

 確かに伽堂の事を聞きだそうとするその声音には鬼気迫るものがあったが、そういう印象を受けただけで実際は違うだろう。俺達学生は未成年というただ一点で自由と同時に家族の制限を受けている。抜けだす方法は色々あるが、基本的には成人するしかない。

「……伽堂は長い間誰とも会おうとしなかった。もしまた会えるなら危険性を伝えておけ。屋敷の警備を厳重にしておけば突破される前に警察が来てくれるだろう」



「何か知ってますよね!?」



 一魅の存在を否定してきた事なんて、今は気にしない。この人はどうも他の教師とは違う。というか最初のトラブルもよく考えたら……

「先生。深夜放送部以外の人間が部活に参加しちゃいけない理由って何ですか?」

「そんなもん、部活に参加してないからだ。それともお前は陸上部に入ってないのに一緒にトレーニングメニューをこなしてもいいと思ってるのか? 真似するのは勝手だが部活に混ざるな。同じ事だ」

「俺には別の理由があるように思えるんですけど。そういう建前の話じゃなくて」

「せめて証拠を持ってきてから聞いてこい。この理由を建前だと思う決定的な証拠がなきゃ俺は同じ事しか言わないぞ」

 語るに落ちている気もするが、そのまま言う通り先生が建前を言わなくなるような物的証拠を持ってこないと話は進まないらしい。今は……無理だ。それどころじゃないし、何処にその証拠とやらがあるかも分からないから。

「―――じゃあ別の事を教えてください。先生が用事もなく屋上に来る筈がない、誰かが通報した筈だ。一体誰が?」

「姫篠だよ。あの時もそうだが、随分お前の肩を持つなアイツは」

















「お、カミサカ無事だったね。ま、安心? 榊麻小太郎にぶち殺されるところだったね」

「見てたなら助けてくれよな……」

 善意の通報者は教室で机に突っ伏しており、まるで俺の身など案じていなかったようにも見える。だが紛れもなく通報したのは彼女との話。俺の声にも突っ伏したまま反応しているから全く心配していたように見えないけど。

「やだよー。こーんな物臭女に何が出来るのさ。こういう時は先生に頼るのが一番。んね、言われた通り榊麻について調べたよ。有能、だね」

「ぶち抜けて今はヤバイ奴だってのが分かった。普段どんな学校生活送ってんのか気になるくらいだ。昔はどんな奴だったんだ?」

「調べた感じだと、空回りする良い奴? 困ってたらすぐ手を貸してくれるけど結構ありがた迷惑な結果に終わるみたいな話は聞いたかな。例えば……重い物を四人で持つじゃん? 片っぽが榊麻だったら勝手に転んで怪我するとか。他人の敷地に入ったボールを取りに行ったらボールは帰ってこないし榊麻がチクるから一緒に怒られるみたいな」

「チクるってのは……それに関しては正直なだけだと思うけど」

「ま、とにかく。善良って感じっぽいよ。善良な奴は首絞めんけどね。で、この情報をカミサカ報道官は如何利用いたす?」

「なんか役職になってないか? その性格の変化だけどさ……やっぱり変わったのは中学生の頃か?」

「ん。なんかクラスで降霊事件が起こったっぽくて、それの解決に乗り出したみたいな? 私が良い感じに調べた限りではそこが分岐点だけど……」

「降霊事件?」

 事件の詳細を聞いたのは初めてだ。降霊……降霊術。一般になじみ深いものと言えばこっくりさんだが、それならそんな言い回しはされず素直にこっくりさんと言われるだろう。やった事があってもなくてもトイレの花子さんとこっくりさんは有名すぎる。

「もしかして深夜放送に混ざってるらしい音声も降霊―――お化けなのか? その事件の主犯については?」

「伽堂結衣って聞いたけど‥‥…どうだろね。情報源―――こっくりさんだし」

「は?」

「え? こっくりさん知らない感じ?」

「そうじゃなくて……なんでこっくりさんに聞いてんだよ!」





「降霊術が原因だったらそりゃお化けに聞けばいいじゃんね。簡単な話っしょ?」

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