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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
1st BRD 知らないクラスメイトのハナシ
12/27

向日葵の君に月影傾く


「はい。そうですか。花影は……居ませんか」

「家の予定で休みですよ。貴方は……深夜放送部の神坂君ですね。うちの部員に何か用でもあったんですか?」

「大切な用事があったんです。それで……よ、用事というのは?」

「うちはそこまで深入りしません」

 それはそうだろう、と自分でも納得してしまう。部活の顧問が私生活の全てを把握しているなんておかしな話だ。仮にこれが女子水泳部でなくとも全く同じ文言が返ってくるだろう。必要に迫られない限り個人の自由は侵害されるべきではない。或いは俺が警察なら未来は変わったかもしれないが、あり得ない仮定に頼っている時点で期待出来そうもない。

「それなら花影の家を教えてくれませんか? とても大切な用事でどうしても伝えなくちゃならないんです!」

「お断りします。神坂君、大切な用事というのは貴方が直接伝えなくてはいけないんですか? 用件を言えば私が伝えますよ」

「……」

 それとなく携帯を見せつけてくる辺り、部活のグループを通して連絡してくれると言っているのだろう。俺はこれを薄情とは思わない、むしろ最大限譲歩してくれている方だとも思っている。だが……俺は知っているのだ。教師や警察と言った存在は伝言をきちんと守るように見せかけてその伝言が荒唐無稽に思えるなら約束すらなかった事にすると。

 ”透明人間がお前を狙っている”なんて言葉、先生からすれば世迷言にしか聞こえない。その存在を証明しろと言われたって俺にも見えない以上手詰まりで、先生がこれを大切な用事と捉える可能性は非常に低い。すると今度は俺を穏便に帰らせる為に守りもしない約束をして追い返す。

 顧問の先生に落ち度はないかもしれないがここは譲れなかった。

「俺が! どうしても伝えたいんです!」

「それはどうして?」

 どうして。本当の理由を話しても納得されないと分かり切っているならこちらにも嘘を吐く準備が出来ている。問題はその代償―――あまりに重い。花影にとっても俺にとっても今後を左右する大問題の種を作ってしまう。

 けれど……無辜のリスナーが透明人間の餌食になってしまうくらいなら。




「お、俺は…………アイツの彼氏だからです!」



 

 二人は恋人の関係にあると偽る。それがどんな罪深い行動で変態的であるかを良く分かっている。まして俺は女性に触れない。証明として手を繋いでみろと言われるだけでもう手詰まりだ。もっと言えば俺の悲しいトラウマは一部のクラスメイトに知れ渡っている。彼らに知られた時点でもやはり詰みだ。

 でも仕方ない。これが一番納得させられる。

『……お前達は自分の親が交際関係を気にしてるのが単なるおせっかいや野次馬根性だと思っているかもしれないが、そうじゃない。恋人関係は生きる上で大切な契約だ』

 担任の言葉を思い出せ。彼は親でもないのにまるで親の行動を見透かしているようだった。つまりそこにはきちんとした理由があって、大人達はそれを知っているという事だ。顧問の先生の顔つきが変わったのを見て確信した、これしかなかったしこうするしかなかったと。

「へー。恋人なのにあの子のお家を知らないの?」

「交際したばかりなんです。幾ら恋人だからって先生はその日の内に家に誘うんですか? なんか……違うでしょ。もっと段階を踏んで」

「確かに……でもそれならやっぱり教えられないな。本人から聞いてこそロマンチックじゃないの?」

「だーかーらー! そういうの気にしてる場合じゃないくらい大切な用事なんですよ! 先生、分かってください! 俺だってこんな形で知りたくないけど、でも教えてもらわなきゃ困るんです!」

「うーん…………分かった。それじゃああの子の予定を教えてあげる。家よりはそこに居る可能性が高いと思うから、それでどうかな?」

「あ、はい! 予定があるのは知ってます! 何の予定かは俺にも言ってくれなかったけど……」

「今日は都会で働いてるお兄さんが帰ってくるそうよ。この町に入ろうと思ったらバスしかないし、バス停に向かえば会えるんじゃない?」

「あ、ありがとうございます!」

「でも後十五分くらいしかないと思うけど」

「問題ないです!」

 これ以上話している時間はない。弾かれたように足は校外に駆け、数少ないバス停に向けてペース配分など知った事かとかっ飛ばした。


 ―――なんでこうなるんだよ!

 

 一魅と俺の現状に沿って募集したお題がたまたま怪奇現象と被っていて、これ以上の犠牲を防ぐ為に取らないと行けない行動が恋人のフリ。何かがおかしい、何も間違っていないのに何かが致命的に狂っている。何故どちらも得をしないような選択をしないと最善手になり得ないのか。

「ふざけんなあああああああああああ!」

 俺が奇人、いつもの事だ。一魅と出会ってからずっとそんな目で見られてきた。隣に誰が居ても居なくても傍から見れば同じだ、俺の孤独は理解されない。だが似たような孤独を誰かに味わわせたいとも思わない。人生には誰かの存在が必要不可欠だ。

 の足に自信があるのは一魅が褒めてくれたからだ。もっと言えば、運動会で一番応援してくれたのが彼女で、喜んでくれたのも彼女だからだ。透明人間はそれすら許されない。単に見えないのではなく記憶に残らないというのは見えない以上に厄介だ。話しても、聞いても、目撃されても誰かも気にされず覚えられず忘れられる。そんな狂気の檻に囚われて―――どうやって正気でいられる。

 もう一〇分は経っただろうか、バス停シェルターの中に花影が立っていた。彼女はスマホを見ながら立ち尽くしておりこちらの接近には全く気が付いていない。

「おーい、花影!」

「…………?」

 背後から突然現れたとかならともかく、遠くから声をかければ存外驚かれないのだろう。彼女は携帯を鞄の中に放り込むと、俺の方を向いて後ろ手を組んだ。

「神坂守命君?」

「な、なんでフルネーム?」

「呼び方決まってなかったし」

「ああ、そういう……ってそうじゃない。えっと、俺がお前の居場所に心当たりがあるのは不思議だろうけど、大事な話があるんだ。命に……関わるかもしれない」

「えー?」

 困惑とも苦笑いとも取れる微妙な表情からは半信半疑の感情がありありと伝わってくる。俺は調査の結果得た情報を『見返り』として花影に提供した。確証はないとしつつもその可能性がある事、手遅れになった場合に助ける手段が多分存在しなくなるという事。全てを伝えた。

「…………ま、まさかあ! 三芦君はきっと予定があったんだよ。見えなくなったなんて」

「……俺もそう思いたいんだがな。部活に来てないってのは変だろ。休む為に話を通したならそう言われる筈だ。そして透明になったならそろそろパニックから落ち着いてどうするべきかを考える頃だ、先生の話を鵜呑みにするならそれでお前がターゲットになる可能性があるんだよ」

「え……気持ち悪……逆恨みじゃんそんなの! 私悪くないよね? だって好きでもない人と恋人なんておかしいもんね!? ってかどうすればいいのそれ!? 透明だったら警察を頼ったって」

「だから協力してくれ! 透明になった奴を戻す事が出来たらこの話は単なる痴情のもつれで済むし警察か学校が解決してくれる。俺達は深夜放送部としてこの事件を怪奇現象から解決可能な普通の事件に戻さなくちゃいけないんだ」

 花影の協力がないと見えなくなったクラスメイト……もとい一年生を助けるのは不可能に近くなる。もう一押しでも出来たら言質を取れそうだったが運悪くバスが来てしまった。すぐそこまで、もうすぐここに停車する。

「あ、まず……神坂守命君、コード出してコード! 友達追加するから!」

「え、ああ……」

「後でやり取りしよ! 今日はもう行って!」

 余程帰ってほしいのか遠慮なく蹴りを浴びせようとする花影。避けてはいるがここまでされたら帰らないと嘘だ、連絡先を得られただけでも十分だろう。これ以上蹴りを浴びせられて痣が出来ても困るし学校に退散だ。


















 その後、学校に帰ったはいいが一魅の姿を見つけられなかったので仕方なく帰路についた。人の出入りがある場所を調べるなら彼女を頼るしかない。俺からすれば運否天賦にも等しい賭けになる。


 ……あの蹴りを食らったら、俺はどうなってたんだ?


 脈絡もなくあの場で発狂を? もう何年も接触していないから想像もつかない。ただ事態が好転しないのだけは分かる。関係を築いたなら話すべきだったと思う反面、余計なノイズは加えたくない。ただでさえ話がややこしいのに。

 

『クラスの集合写真見つけたから送るね』

『映像に映ってる子は中央に居る子だよな』

『うん、全然記憶にないんだけど本当にクラスメイトだったんだ!? じゃあこの子は私と仲良く話せてた筈なのになかった事にされたりそもそも目撃されなかったりしてるって事? あれ、どういう事?』

『関係性っていうのは結局記憶だからな。そこに居た証ってのを誰も請け負ってくれなくなるって思えばいい。話してる間はお前に認識されても、外からお前が誰と話してるかは分からないし疑問にも思わない。話すのが終わったらお前も同じように考える……この子の名前は?』

『それが分からないんだよね。クラスグループに知らない名前があったから弾いたってのは聞いたんだけど、いつ弾いたのか分かんなくて……活発だからさ』

『一先ずそれで十分だ。名前はこっちでどうにかする』


 座席表を見ればいいだけと言いたいが、当てずっぽうになる可能性は高い。ラジオを聞いているなら連絡も取れるはずだからそれで対応しよう。


『ねえ、もし本当だったら私怖いよ。誰からも見えなくなるなんて……堪えられない』

『そんな事はさせない。リスナーが減ったら俺達が困る。家に帰ったなら戸締りはしっかりな、透明人間って言っても恐らく普通の人間だ。立ち入る隙がなければ家も十分安全地帯になる。特に夜は何があっても外に出ないでくれ』

『分かった。今日の放送、待ってる』


 俺の仕事はこれで終了。後は一魅の報告を待つだけだが何度催促しても返事がない辺り順調とは言い難い。矢崎はアカウントのアイコンが自前の顔だからまだいいとして、三芦をどうしたものか。まだ顔は思い出せるが、顔を映した媒体が欲しいのだ。透明化を解除するにはその人物の情報を明らかにし少なくともラジオリスナーには把握してもらう……仮説にすぎないが、対処らしい対処はこれくらいしか思い浮かばなかった。

 いずれ全てを忘れて対処すら出来なくなる前に個人情報を焼き付けてもらえば透明人間にはならないという真っ当な理屈だ。その後どうなるかなんて俺達は知らない。

 「…………ふぁ~あ」

 少し寝よう。俺達の活動時間にはまだ遠い。気持ちだけ焦って緊急放送をしたって誰もラジオをつけていないのでは意味がない。そう、決戦は深夜、草木眠る丑三つ刻。



 この世在らざる者と出会う時間。

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