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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
1st BRD 知らないクラスメイトのハナシ
11/25

のっぺらぼうは寂しがり

「先生!」

 職員室に用事のある学生は少ない。もし何度もお世話になっている奴が居るならそいつは大した問題児だ。生徒の声が響く事の少ない場所に駆け込んだ俺達の姿……一魅の姿は見えないので厳密には俺だけ……は目立つどころの騒ぎではない。担任一人に用事があったのに他の先生にも視線を向けられてしまった。

「…………神坂。ここには来るな。部活動に職員室は無関係だ」

「あ、すみません。でも先生の居場所が分からなかったので……」

「ついてこい。印刷室に用事があるから手伝え」

「あ、はいっ」

 今朝のトラブルもあって話すのも気まずいが、先生はまるで気にした様子がない。無愛想さで言えば一魅にも引けを取らない。違いがあるとすれば彼女は一見冷たいように見えて中々どうして世話焼きな側面があるところか。

「いたっ」

「失礼な事を考えてた気がする」

「…………気にしてるなんて意外だ」

「……別に。キミにしか見えないし。キミが気にならないなら」

 

 ……俺のフォローは読み取ってくれないのな。


「何してるんだ? 早く来い」

「あ、はい」

 先生の後を追って印刷室へ。扉に入る先生は持っていた書類を上部に挟んで印刷準備を始めた。 

「…………”見えない”奴には関わるな」

「え?」

「今、お前と手を繋いでる奴の話はしていないぞ。俺が言ってるのは消えた奴等の話だ」

 指摘されてふと自分の手を見ると確かに一魅と手を繋いでおり、彼女は彼女でしっかり指を絡めて握っていた。同伴させる為とはいえ、これはほぼ無意識。俺以外に見えないといっても恥ずかしくなってきたが、指摘されて放すのも恥ずかしいのでこのままで。

「先生は何か知ってるんですか?」

「………お前達に話す事は何もない。だが一つだけ言ってやる。見えなくなった奴を探そうとするな。卒業した前の深夜放送部が一年の頃にも同じ事を言ってやったらアイツらは深入りしなかった。それが正しいんだ」

「教師が生徒を見捨てていいんですか? 軽く調べた限り危害を加えられた話は聞きませんでしたが……どうもおかしい。三芦は正に投稿を取り扱った本人でついさっき部活に行ったところを見送りました。矢崎は先生が出席していないと言ったが、実際には違った。アイツの席にはきちんとアイツが居たんです。先生、危害があるなら対処するべきです」

「それはラジオの盛り上がりの為か? やめておけ、ふざけ半分に首を突っ込んでいい話じゃない。深夜放送なんて特殊な部活が存続してるから麻痺してるだけだ。お前達の先輩は俺の言う事を聞いて違う題材を取り扱うようになった。そして妙な話には首を突っ込まないようにしていた……それでも十分部活動は成立する。神坂、お前は自分の命が危険にさらされるとしても誰かを助ける覚悟を持てるのか?」

「…………持ってる訳ないでしょ。本当にこれがうっかり首を突っ込んだだけなら俺も先生の言う通りにします。でも今回は……譲れない」

 絡む指先に力がこもる。俺は最初からこの話を知っていたわけじゃない、このお題を出したのは偶然だが、意図はあった。誰でもいいから一魅が他の人にも見えてくれたら、もしくは透明人間に対する知見を得られたらと思ってあんなお題を思いついたのだ。この瞬間、確かに感じている温もりを真実だと証明したい。弓水一魅は実在する人物なのだと。

「先生、教えてくださいっ。矢崎や三芦に何が起きてるんですか? 見えないクラスメイトの正体は!?」

「…………残念だが俺に言える事は何もない。お前と違って俺は自分の命が惜しい。ただ……そうだな。アイツらが狙われたのは恋人がいなかったからだ」

「…………それは、恋人なら名前を憶えていられる的な?」

「……お前達は自分の親が交際関係を気にしてるのが単なるおせっかいや野次馬根性だと思っているかもしれないが、そうじゃない。恋人関係は生きる上で大切な契約だ」

「守命クン、そんな急かされてるの?」

 いや、俺は別だ。ずっと昔に一魅の件で大喧嘩してから両親は何も言わなくなった。時折心配そうに俺の様子を見てくるだけでそれ以上は何も。だがそんな特例を出して話をまぜっ返そうとは思わない。交際に自由恋愛以上の意味合いがあるなんて知らなかった。

 一魅に対しては頭を振るだけで済ませ、話を続ける。

「じゃあもしかして、この話が何年も続いてるのに深刻化しないのは」

「交際関係を築いてる奴が多いからだ。消えても一人、二人が精々。消えた事には誰も気づかない。俺もお前も名前をまだ覚えていられるのは消えて間もないからだ、その内誰も覚えていられなくなる。アイツらはカメラの中にしか映らなくなり

、顔を失い、いつか知らない時に跡形もなく居なくなる」

「……先生はどうしてそれを?」

「愛妻家で有名だった野球選手が実は十年以上も不倫をしていた。その事を誰も知らなかったが、死後になって取り上げられた」

「は?」

「根拠のない噂って意味だ。この話は、俺が直に見て確かめた訳じゃない。そういう話を聞いたってだけだ。対処法を知っているならとっくに広めている。だがどうしようもない、どうにもならない。誰も困らない以上調査の手も回らないんだ」

 印刷を終えたプリントを手に取ると、先生は印刷室を後にした。去り際、これ以上来るなと言ってから。


「何処に居ようが誰にも気づかれず、いずれ居なくなった事すら認識されなくなる。そんな奴らは無敵だ。自分の顔を取り戻す為なら平気で何でもやる。分かったらさっさと恋人を作れ」









 








 部室に戻ってきたが、あまり状況が好転したとは思えない。先生はまだまだ情報を握っているようにも思ったが、これ以上詰めたって何も言わなさそうだ。多分、一から十までは把握していない。先輩達を踏み込ませなかったなら、知ろうとしなければ危険な目に遭う可能性もないという事だ。生存者バイアスかもしれないが、それで少なくとも先輩達は卒業を迎えられたらしいから、ひとまず信じるしかない。

「ワタシの言える言葉じゃないけど、妙な力か存在が関わってるのはもう間違いないわね。問題は、誰もそれについて詳しくない事だけど」

「交際関係が造れてたら大丈夫ってのも変な話だけどな……全然意味が分からないけど、これからどうする? 先生の話じゃ、矢崎も三芦もいつか消えてなくなるらしい。存在した事も忘れられるなら、親が通報するって可能性もないんだろうな」

「あら、意外と受け入れるのが早いこと」

「お前が誰にも見えない癖に何かしら機材を通せば音声だけが伝わるのも十分変だからな。一旦そういうものとして考える土壌は出来上がってるよ」

 不安そうに視線を落とす彼女を見ていると、俺もその考え手に取るように分かった。長い付き合いだ、特殊な能力なんかなくたってたまには心が読める時もある。

一魅が……ずっと孤独を恐れてる事くらい。

「大丈夫だ。お前は違う。もう十年くらい一緒に居るけど俺はまだお前を忘れてないし、見えてるし、こうして触れる。いつか消えるんだとしても、その前に俺が見つけるから」

「…………そう。そうよね。ワタシは何も、不安に思わなくていい」

「ああ、今回の件とお前の件は絶対に違う。ただ同じ透明ってだけだ」

 両手を握って不安を紛らわせるのにも限界がある。表情の変化に乏しいせいで分かりにくいが一魅は常日頃誰とも触れ合えないストレスに晒されている。俺だって許されるなら二四時間一緒に居たいが、まがりなりにも女の子と一緒に居続けるのは理性が許さない。幾ら俺にしか見えないといっても……いや、俺にしか見えないからこそ。

 だから、早く解決しないと。逃げてはいけない。

「ありがとう。もう大丈夫だから、手を離して」

「…………改めて情報を整理するか」

「ええ。このハナシの真実は解き明かせないかもしれないけど、見えないクラスメイトの正体については何か言えるかもね。今夜の放送の為にも整理は必要。もしかするとまだ…………二人は助かるかもしれない」

「何? そんな情報を先生は一言も」

「飽くまで可能性の話。机に座って。始めましょう」

 念のために扉の鍵は閉めておく。これでも気休めの安全対策だ。相手が幽霊でないならこの扉は潜り抜けられないという程度。対面に座ると一魅は俺の携帯からビデオ録画を起動。音声記録を開始する。

「見えないクラスメイトのハナシ。今回の被害者は?」

「三芦。矢崎、それと長い間忘れられてる何十人か。ただ放送で上がった目撃情報は等しく女子だったな」

「そうね。その子は花影さんが話していた人……状況からしてC組のクラスメイトかと思ったけど、先生の話を信じるなら見えないクラスメイトその1に過ぎない。共通で目撃情報があったのが女子という点からして……”見えなくなって”から日が浅い可能性があるわ」

「この現象ってそういう時限式なのか? 徐々に見えなくなっていくみたいな……先生、そんな話してないよな」

「良く考えてみて。先生は私達が矢崎クンや三芦クンを覚えていられるのはまだそうなって間もないからと言っていたでしょ。先生はこの現象について全てを知らない。段階的に消えていくなら当然、記憶の方が先に消える可能性もあるでしょ。先生はもう覚えていられないし消えた事実すら忘れるだけで何人も被害者が居るような口ぶりだった。それなのに目撃された透明人間の性別が共通していて、その映像を持っている花影さんと撮影者のクラスメイトは同じC組で一年生……この可能性は荒唐無稽とは限らない」

 俺達用の活動日誌をたった今用意した。何の変哲もないノートだが情報をまとめるのにお金をかける必要はないだろう。今回のように調査をする事になってもその経過を書き記せばいい。今の結論については


・見えないクラスメイトの正体はC組の女子


 と。

 普通の調査ならこれで終わっても良いが、この謎の現象は危害をもたらす。人を忘れさせ、忘れた事さえ周囲に認識させないという摩訶不思議な状態を与えるのだ。こうなるともうその人間は存在しないも同然。俺が居ない時の一魅が抱えるストレスと全く同じだ。

「この現象には指向性、もしくは意思がある可能性もあったわね。狙われる相手はどんな人物だった?」

「恋人の居ない奴。殆どの奴は中学時点で誰かしらと付き合ってるのがこの町の現状だからな、今居ないんだったら事情があるか別れた直後かのどっちかだろ。三芦は共通の話題でちょっと盛り上がった程度で告白するくらい交際経験がなかった。矢崎は……どうだろうな」

「先生があまり教えてくれなかったという点から、この話をし過ぎるのは良くないと分かるわね。それは何故か……明言はしなかったけど気になる発言はした」

「自分の顔を取り戻す為なら平気で何でもやるって言ってたな。顔ってのは……この場合比喩だ、存在証明とかそういうのを指してる気がする。意思がある可能性…………条件を満たした人物を透明にするのは先に透明になった被害者か!?」

「現状、そう考えるしかない。C組の子が”見えなくなって”間もないであろう事を考慮すると、その子もまた恋人が居なかったんじゃないかしら。そして恋人がいないのを聞かれてしまった……とか」

 交際関係については暗黙の了解というか、公開も非公開も当人の自由だ。後悔していちゃついている人間も居れば、公にこそしていないが普段から距離が近いので交際しているだろうと確信できる人間もいる。だが確信と言っても飽くまでそう見えるだけだ。交際者のいる人物を”見えなくさせようとしたら”どうなるかは不明で……先生が噂ベースでもああ言うからには”見えないクラスメイト”はそれが出来ない。当てずっぽうも恐らく許されないのだろう。何のペナルティもないなら片っ端から試していけばいいだけだし。


・透明人間になりたくない人は恋人を作れ。


「…………お前さ、まだ助けられるかもって言ってたよね。それはどういう意味だ?」

「透明になるのに段階が踏まれると考えたら、一度私達で完全に明らかにしちゃえば助けられるかもしれないってだけ。例えば矢崎クン達の顔と名前と姿を皆に記録させるとか。C組の子は……もう難しいかもね。誰も名前を覚えてない時点で」

「いや、その可能性を追うなら…………その子も助けられるんじゃないか? 顔さえ映ってるモノがあればだけど」

「…………あっ、出席名簿?」

「そう。もしくは座席表だ。消えた事も分からなくなるなら名簿はワンチャン作り直した時に名前を消されるが、俺達は新入生だ。矢崎を探す為に俺達の方でもさっき確認しただろ。C組にだって存在する。俺達は違うクラスだから気づかなかっただけで確認方法は変わらないんだよ!」

 念押しするが、この対処法は可能性に過ぎない。全ては出鱈目、妄想、都合のいい辻褄合わせで”見えなくなったら”もう二度と取り返しなどつかないのかもしれない。それでもやる価値はある。助けられるならその方が良い。

 この希望的観測は縁起を担ぐ行為に近い。効果があろうとなかろうとやれるだけやろう。その方が、きっといいことが起きると信じて。

「顔の確認は…………職員室を後で探してみるわ。この学校が履歴書を送るような学校なら証明写真が見つかるかもしれないけど……あまり期待しないで。君は多分、もう一つの問題に対処した方が良いわ」

「―――え? それってなんだ? 俺に教えてないだけでまた被害者が?」

「透明人間が恋人の有無を探るにはストーキング以外方法がないわ。花影さんは告白を断ったんでしょ? 彼氏がこっそり居るならいいけど、居なかったら……次に狙われるのは彼女よ」

「は、は!? 断言出来る程か? 情報を集めるなら放課後じゃない方がいい。それにあんな可愛い女子に彼氏が居ないとは―――」

「恋人を公開しないのはわざわざ表立って言う意味を感じない程度の個人差よ。恋人が居るならあんな露骨に二人きりになるのを狙う誘いなんて『彼氏が居ます』って言えば良かっただけ。彼氏は居ない可能性が高い、それに―――」








「そのフられた三芦君が”見えなくなってる”じゃない」



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