84.ハッピーバースデー④
中華鍋を見ることにした私達は、早速家電売り場へと向かった。
洗濯機やエアコンのコーナーを通り過ぎ、キッチン用品の方へと行く。
中々広いショッピングモールなので、品揃いはしっかりとしていた。
幸い、中華鍋はすぐに見つかる。
「た、たくさんあるね…。」
思わず声を出すと、千里くんも押され気味に言う。
「ね。………これだけあると何が良いか分かんないや。」
「確かに…。あっ、でも色々書いてあるよ!」
しゃがむと値札の隣にその中華鍋のスペックがそれぞれ書いてあった。
それに加えて主な特徴もまた記してある。
黒いインクで示された説明を読み上げた。
「えーっと…これは空焼き?ってのがいらないんだって。あと、手入れが楽らしいよ。……空焼きってなんだろ…。」
すると千里くんは同じくしゃがんで隣に来た。
「空焼きってのは表面の油を飛ばすこと。フライパンをなんにもひかない状態で火にかけるんだよ。」
「へー。それがいらないってことは手間が省けるってこと?」
「ま、そうだね。」
話を終えると千里くんは膝を伸ばす。
そして見ていた中華鍋を手にした。
持ち手を強く握り、まるでシェフのように上下左右に振る。
「どう?いい感じ?」
「そうだね。僕でも振れるし。…これなら材料入れても問題なさそう。」
「おー!良かった!」
思いの外好印象のようで、安心した。
であればプレゼントは中華鍋に決定だ。
と、いきたいところだが、考えなければならないこともあった。
「………ねぇ千里くん。中華鍋って家庭用のコンロでも使えるかな。…火力とか足りなかったり…。」
自分で連れてきてなんだが、中華鍋といえば轟々と燃える火を使って料理するイメージがある。
家庭用のコンロには限度があるのではないか、と今更ながら不安がやって来た。
すると千里くんは中華鍋を置き、鼻を鳴らす。
「あぁ。それなら問題ないよ。むしろ、好都合。中華鍋は鉄製だから熱を通しやすいでしょ。だから、家庭用だろうと大丈夫。」
口角を僅かに上げて語る姿はどこか楽しそうだ。
「そうなんだ…。よし!それならプレゼントは中華鍋に決定だね!あとは…私からのプレゼントを選ばなきゃ。」
「?私用って…楓がコレくれるんじゃないの?」
「あっ。」
「あ…?」
つい口を滑らせてしまった。
このプレゼント選びは千里くんの母親に頼まれてのことだったのだ。
しかし、思えば内緒にしておく理由もない。観念して経緯を伝えることにした。
「えっと…。千里くんのお母さんに会ってね…何が欲しいか教えてくれないから聞き出すって、私言っちゃったの。」
「なるほどね。…まぁ、そういうことなら自分で伝えるよ。母さんに中華鍋が欲しいって。」
千里くんは口元に指を当てて続ける。
「楓には…。材料でもプレゼントしてもらいたいな。卵とかニンニクとか。」
「い、良いけど仕送りみたいじゃない!?」
「確かに。じゃ、仕送りよろしく。」
「………分かった!任せて!」
同級生へ贈るプレゼントとしては少しおかしなチョイスではあるものの、本人が望むのでそうすることにしよう。
とりあえず千里くんへのプレゼントは決定した。
あとは用意をして当日に渡すだけだ。




