82.ハッピーバースデー②
翌日。普段通りの学校だが、私には特別用事があった。
それは今日、なんとしても千里くんの欲しいものを聞くということだ。
脇道に雪が積もる様を見ながら登校すると、ターゲットである千里くんの姿があった。
急いで走る。
「お、おはよう!千里くん!」
突然の挨拶に驚いたのか、彼は肩を震わせた後、幾度か瞬きをする。
「おはよう…。走ってきたの?」
「うん!その、千里くんを見かけたから…!」
「…………そう。…凍ってるし、気をつけなよ。転んで頭でも打ったらテストで僕に勝てなくなるよ。」
「よ、余計なお世話だよ!頭打っても千里くんに勝つから!」
「それは楽しみ。」
並んで歩く。
話はそれてしまったが、どうにかして彼の欲しいものを聞かなければ。
と、考えるもののスムーズに話題を出すアイディアはない。
なので、率直に聞いてみることにした。
「あのね。千里くんってそろそろ誕生日でしょ?だから何か贈りたいんだけど…欲しいものとかある?」
直球すぎたか、とやや後悔したが、千里くんの反応は特別悪いというわけではなさそうだ。
しかし、良いわけでもない。
彼は眉尻を下げて、頬を掻く。
「欲しいもの…。特にはないんだよね。」
「そ、そうなの!?服とか、靴とか、アクセサリーとか…!」
「別に事足りてるかな。」
「ほんとにないの…?遠慮とか、いらないからね!」
「そう言われても…。」
様子を見るに、欲しいものが無いというのは本心からの言葉だろう。
千里くんの母親は遠慮しているのではないかと心配していたが、杞憂だったらしい。
だとしても、誕生日のプレゼントを決めかねてしまうので問題自体は解決していないのだが。
「…………実を言うとさ。欲しいものとか、好きなものとか、そういうの僕には関係ないって思ってたんだよね。」
「関係ないって、自分のことなのに…?」
「うん。………自分のことなんて二の次にするべきだって、考えてたから。だから、いざ振り返ると何もないんだ。……分からないんだ。」
寂しそうに笑う千里くん。
それも無理はないのかもしれない。
彼の家庭から父親が居なくなってから、恐らく千里くんはずっと後悔していたはずだ。
自分がいなければと、そう思ってしまったのかもしれない。故に、自身を抑え込み生活していた反動がこうして表れてしまったのだろう。
「……よし。じゃあ、探そう!」
「え?」
「探すんだよ!好きなもの、欲しいもの、楽しいこと、何でも良い!とにかく千里くんのことを探しに行こう!」
「僕のことを、僕が探しに行くの?」
「そう!」
千里くんは小さく口を開けたかと思うと唇をぴったひ閉じてしまう。
しばらく返事を待つため、しばらく歩くとようやく彼の声が聞こえた。
「………ふっ。変だね、それ。」
「そう?でもほら!自分を探しに行くって、良くない?若者の特権だよ!」
「そうかもね。……じゃあ、探しに行こう。……まずは学校に行かなきゃだけど。」
「あははっ。だね。」
方針は定まった。
彼の言うとおり、まずは学生として登校が第一だがそれが終われば千里くんと、千里くんらしさを探しに行こう。




