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忙し騒がし妖かし達  作者: とんぼ。


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80.お正月

 年が明け、お正月。


 私は家族と初詣に来ていた。


 昨日はお寺、そして今は神社。神仏習合とは言うけれど、神様や仏様自身は人の変わり身の早さに思うことはないのだろうか。


 賽銭箱までの列を並んでそんなことを思っていると、裾が引っ張られた。


 「?あ!」


 そこにはひとりの少女がいた。


 髪から肌、瞳に至るまで真っ白な少女。彼女はここの神社の神様だ。


 「えっと…あ、明けましておめでとうございます…?」

 「ほお。挨拶は出来るようじゃな。」


 あいも変わらず古風な言い回しは、幼い見てくれとミスマッチである。


 「かえで。お友達かい?」


 横にいた父親がひょっこりと顔を出す。


 さて、どう説明したものかと悩んでいる間に、神が口を開く。


 「はい!そうなんです!お姉ちゃんと仲良くさせてもらっています!」

 「あら。そうなの。ふふっ。可愛いわねぇ。」

 「えへへっ。ありがとうございます。」

 「…………………。」


 とんでもないものを目にした。


 あの傲岸不遜な神が、鼻につくような物言いばかりをする神が、私の両親相手に声を高くし可愛げを見せている。


 思わぬ対応に声が出なかった。


 彼女は私に気にもせず、顎に手なんか添えて続ける。


 「あの!お姉ちゃんと屋台に行きたいんですけど、良いですか?」

 「もちろんよ。………かえで。これでその子と一緒に回ってきなさい。」


 母はそう言って私に3千円を渡す。


 普段であれば臨時収入を得た喜びで飛び跳ねているところだが、今はそれよりも気になる事が多すぎる。主に、隣で愛嬌振りまいている神のことだが。


 「あ、ありがとう。それじゃあ行ってくるね。」

 「ありがとうございます!行こっ!お姉ちゃん♡」

 「……………うっ。」


 なんとも言えぬ不気味さに、背筋が伸びる。身の毛もよだつ、という状況はこの瞬間にこそ当てはまるだろう。


 一体、彼女は何が狙いなのだ。


 疑念の中、列から離れ、屋台へ向かった。


 「あっ!お姉ちゃん!私、あれ食べたいなぁ!」

 「………い、いつまでぶりっ子してるんですか?」

 

 その問いに、神はずっと顎に添えていた手を放す。


 「なんじゃ。乗ってやったというのに。つまらん奴じゃな。」


 心なしか声もワントーン下がった。


 「乗ってやったって…私、びっくりしましたよ。急に可愛こぶるんですもん。縁起の悪い夢でも見たかと…。」

 「はっ!だとすれば、お主の幸運もいよいよ尽きるころじゃな。」


 鼻で笑われたが、私としては一大事だ。


 もし、幸運の力が無くなってしまえば私に残るのは何もないのだから。

 なんて沈むと、神は小さく声を漏らす。声だけならば可憐でまさに可愛らしい。


 「そうじゃ。人間には縁起の良い夢があるのじゃろう?一富士二鷹三なすび…とやら…。お主は見れたのか?」

 「み、見れてないです…。」

 「そうかそうか。それは残念じゃなぁ。」


 やけに嬉しそうだ。


 全く。彼女が何を思ってここにいるのか皆目見当がつかない。


 「じゃが、喜べ。年明けからわらわと会えたのじゃ。咽び泣いて、わらわを讃えよ。」

 「急に大泣きしたら変な人だって思われちゃいますよ…。」

 「はたから見れば、幼子にかしこまっているのも充分奇妙な奴じゃがのう。」


 確かに彼女の言うとおりだ。


 事情の知らない人からすれば、少女に敬語を使っている状況は充分不思議な光景である。


 「………………貴方に正論を言われるなんて…。」

 「なんじゃ。失礼なやつじゃのう。ほれ!早う屋台とやらで貢ぎ物を用意せい!最初は焼きそばじゃぞ!」

 「は、はい…。」


 神に引っ張られ、焼きそばの屋台へと行く。


 賽銭箱前同様、長蛇の列を成していたが、何やら神が浮き足立っているようにも見えたので耐えることにした。


 新しい1年がいよいよ始まる。


 

 

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