79.クリスマス
荒井くんを救い出した翌日。それは丁度クリスマスの日であった。
「コホンッ。本日はお日柄もよく…。」
私の部屋で咳き込むのは純麗ちゃんだ。隣には荒井くんもいる。
彼を救い出したあと神と会い、荒井くんの存在を戻すことに成功したのだ。その為、彼の記憶は元通りというわけである。
一件落着、ということで今日は皆でクリスマスパーティをするということになった。
場所は私の部屋。その為、壁にはカラフルなリースやプラスチックの玉が飾り付けてあった。
「ん?どしたの。あらいっち。」
そんな中、荒井くんが何か言いたげなのを察した純麗ちゃんが進行を止める。
「…………いや。改めて、2人には謝ろうと思って。……迷惑かけて、ごめん。」
頭を下げる。
正直なところ、私としては謝られるような立場ではない。
何故なら、私が荒井くんを助けたのは完全な私利私欲だからだ。ただ、純粋に彼が居ないと嫌で、彼が好きだから一緒にいたくて。そんな、身勝手さが理由なのだ。
「そんな、謝らないで。……ほ、ほら。友達を助けたかっただけ…だから。」
「そーそー!うちはおねーちゃんだしね!あっ!この際あらいっちって呼び方変えよーかな!ちさとっち、でどう?」
「どうって…まぁ、良いんじゃない…。」
「マジ?そんじゃ、ちさとっちはうちのことお姉ちゃん♡呼びでいーよ!」
「ぼ、僕は高校生だよ!?そんな呼び方するわけないでしょ!?」
「えー?照れてんのー?ちさとっちー?」
「そういう問題じゃない!!」
荒井くんは叫びながらも、身体を寄せてくる純麗ちゃんを押し返そうとする。
なんとも微笑ましい光景だった。
こんな時、暗い雰囲気を打ち消してしまう純麗ちゃんの立ち振る舞いは流石のひと言だ。
少なくとも、私には出来ない。
と、少しネガティブな気持ちが浮かぶのに気付き、頭を振る。
今日はクリスマス。イエスがどうだとか言うのはよく知らないが、とにかくめでたい日なのだから。
「ねーねー!かえでっちも、ちさとっちのこと名前で呼ばない?」
「わ、私も?」
思わぬ提案に情けない声が出る。
いつか名前を呼べたらと思ってはいたが、いざその瞬間がやって来ると些か緊張が走る。
「そーそー!うちらの絆が深まったってことでさ!」
「………絆って…よくそんな恥ずかしいこと…。」
「そう…だよね!絆が深まった記念に…!」
「山吹までそんなことを…!?」
握りこぶしに力を込める。
先ほど貶してしまったイエスに、ほんの少しの勇気を借りるつもりで口を開いた。
「ち、千里…くん。これからも、よろしく…ね…!」
「おー。いーね!いーね!」
顔がほんのり赤らんでいるような気がする。
照れくさくて、真っ直ぐ千里くんの顔が見れない。
「ほらほら!ちさとっちも!かえでっちのこと名前で呼びなよ!」
「は、はぁ!?なんで、そんなこと…。」
「おねーちゃん命令でーす!ほらはーやーく!」
「ぐっ…。」
随分渋っているようなので、無理にする必要はないと、顔を上げて言おうとする。
が、それが返って仇となった。
「…………こちらこそ、よろしく。………楓…。」
丁度顔を上げた時、千里くんと目が合ってしまったのだ。
彼の顔は私と同じくか、それ以上に赤くなっていた。
その事実が更に体温を上げてしまう。
「あははっ!2人とも顔真っ赤!」
「わ、笑い事じゃないよ!」
「笑い事じゃないから!」
「いやぁー。良いもん見れたー!」
純麗ちゃんはそう言い、目尻を拭う。
全く。彼女には敵いそうもない。




