77.あいさつ運動②
今日は学校。
朝早く登校し、教室へ鞄を置く。
普段よりも早く登校したのは、生徒会執行部で行うあいさつ運動のためだ。
といっても、ひとりで行うわけではない。同じ執行部で1組の生徒と共に行う。
「おはよう!」
1組の生徒へ挨拶をすると、相手も同様に挨拶を返す。
「おはよう山吹さん。」
「……………。」
「?どうかした?」
「ううん!なんでもないよ!」
僅かな違和感が脳をかする。
私は本当にこの人とこれからあいさつ運動をするのだろうか。
もっと、別の、他の人とするべきではないか。
そんな考えに対し、即座に頭を振る。相手に失礼だ。
気を取り直し、校門前に立つ。
「おはようございます!」
「おはようございます!」
隣に立つ生徒は真面目に挨拶をする。
「……………。」
何も変なところはない。
だというのに。私の目蓋の隅には、誰だか判別のつかない少年が、キビキビと挨拶する姿を見せていた。
「おはよー!かえでっちー!」
チグハグな状態に動揺していると、友人の純麗ちゃんが元気にやって来た。
「おはよう純麗ちゃん。」
「今日、あいさつ運動だったんだねー。」
「うん。」
「…………ん?」
話の途中。突然、純麗ちゃんが首を傾げる。
「んー?かえでっち。なんか、今日。忘れ物したかも。」
「え?忘れ物?……課題とか?」
「うぅん。違う…と思う。なぁーんだろ。頭がむずむずする。」
正直なところ、今の私は彼女と同じだ。
手の届かぬ頭の裏側にでも大切なものが転がってしまった気がしている。
だが、その大切なものが何かすら分からない。なんとも奇妙で気持ちの悪い感覚だ。
『おはようございます!』
少し爽やかな声が直ぐ側でした。
1組の生徒ではない。誰かだ。
いつも素直でなくて、それでも小さなことに気を配って、たまに深い優しさを見せる誰かだ。
「………………あ、」
「あ?」
口から無意味な言葉が溢れる。
純麗ちゃんはそれをヒントにするべく、拾った。
「あらい、くん……。」
「あらいくん…?」
「そう!そうだよ、荒井くん!」
彼女の肩をつかむ。
思い出した。私は純麗ちゃんだけと妖怪退治をしていたのではない。荒井くんともまた、一緒に妖怪を退治していたのだ。
言葉が厳しくとも、いつも、彼に助けてもらっていた。
「荒井くんだよ!どうして忘れてたのかな…。私達の、友達!」
「あらいくん…あらいくん…。」
純麗ちゃんの顔を見る。
彼女は必死に記憶を辿っているようだ。どうか思い出してくれと、強く見つめる。
「!あらいっち!そーだ!うちら、一緒に焼き肉とか行ったよね!」
「うん!そう!」
冷水を浴びせられたように、ぼんやりとしていた頭がすっきり晴れる。
私達はやはり、荒井くんを忘れていたようだ。
いや。もしかすると私達だけではないのかもしれない。私達以外の全てが、彼を忘れてしまった可能性もある。
だが、このままにしておくことは嫌だ。
何が起こっているのか調べなければ。そう思い、次にすべき事を考える。




