76.オフィス街にて③
「だれか、わた、し…。」
その誰かが誰なのか。
その誰かを助けたいのか、助けてもらいたいのか。
何もわからぬまま、ずきずき痛む頭を抱えてしゃがむ。
閉じたはずの瞼の裏には忌々しい光が主張を続けている。
早く過ぎろ。早く終われと、輝く光に祈っても、願いは一向に受け入れられない。
「っ、……。」
脳みそを無造作にかき混ぜられるような痛み。
痛い。
ただ、痛い。
「だ、れか…、っ!?」
空気に溶けてなくなるはずだった私の言葉。それに応えるかのように、穏やかな水が流れる音が響く。
不思議と痛みはなくなった。腹立たしいほど眩い光も。
「、あら、」
瞳を開ける。そこに、誰かがいると思ったからだ。そこに、探していた誰かがいつものように立っていると思ったからだ。
だが。私の勘は外れてしまった。
「大丈夫ですか。山吹さん。」
目前に立っていたのは求めていた誰かでなく、何故か担任の大里先生である。
「先生…?どうして、ここに。」
ここは妖の狭間。妖怪の血を引く人間でなければ立ち入ることはない。それも、トラブルがなければの話だが。
「!あっ!純麗ちゃんは!純麗ちゃんを、見ませんでしたか!?」
しかし、先生への疑問の前に、思い出す。
奇妙な光に襲われた時、隣に純麗ちゃんもいたはずだ。
彼女は平気だろうか。私のように、謎の光や痛みに襲われてしまっていないだろうか。
「岬ヶ崎さんも無事です。」
「そう、なんですね。良かった。」
肩の力を抜く。
口ぶりからして、妙な光は先生が対処してくれたようだ。
正体は分からなかったが、恐らく妖怪なのだろう。
「…………あの。先生。ここにいるってことは、先生は妖怪の血を引いてるんですか。」
「いえ。妖怪とは少し違うんです。正確には神様の血を引いていまして。」
「神様!?凄いですね…。」
「日常生活では役に立ちませんがね。」
そうは言うが、神の血を引くというのは特別のなかでも特別ではないか。
本人は謙遜なのか、あまり気にしてはいないように見える。
「先生。もしかして、なんですけど。今までも、私達のこと助けてくれてました?」
思えば、妖怪に襲われた時、不可思議な現象が起こっていた。
突然、敵対していた妖怪が姿を消したり、奇妙にも周囲が水浸しになっていたり。
「はい。とはいっても、いつも貴方たちを見守ることは出来ませんでしたが。」
「そんな。助けてくれて、ありがとうございます。」
これほど周囲に妖怪や神の血を引く人間が存在したとは夢にも思わなかった。
だが、私は幸運だ。純麗ちゃんも大里先生も友好的で、協力してくれるのだから。
「そういえば山吹さん。今日は荒井くんと一緒ではないのですか。」
「……………?」
先生はおかしな事をいう。
「荒井さん…ですか。……知り合いにそんな人いませんけど…。」
「……………………なるほど。」
いくら頭を捻っても、荒井という人物の情報は出てこない。
知り合いが多いというわけではないので、忘れたという可能性は低い。つまりは、先生の勘違いということだ。
「……………帰りましょうか。山吹さん。」
「?はい。」
先生は俯き、言う。
何故か顔に影を落とした先生は、悲しげな雰囲気を発していた。




