69.生徒会選挙
今日はいよいよ生徒会選挙。
私は立候補するわけではないので体育館にて座り、候補者たちの話を聞いていた。
とりたて興味があるわけではない。
壇上にあがり、熱を上げて話す人々は私とは何処か遠くて、夢の膜を隔てて存在するようなものだ。
だが、その不透明な膜を打ち破り、ぼうっとする頭を覚醒させるような出来事が起きた。
とは言っても、トラブルだとかそんなハプニングじみたものではない。
ただ、知り合いが壇上に上がっただけだ。
「この度書記に立候補致しました、1年 荒井千里です。」
お辞儀を終え、マイクを持ちながら自己紹介をする。
今、前にいる彼は普段よりも幾分か大きく見えた。
スラスラと言葉が次々やって来る。
何故立候補したのか。当選した暁にはどのような事をするのか。
原稿1枚なく話すその姿は感心さえした。
だが同時に少し遠くに行ってしまったようで寂しかった。
「……………………。」
じっと黙り込み聞いていると、あっという間に終わる。
あとは指定された教室へ移動して投票だ。
投票から開票までは何事もなく、スムーズに行われた。
自分の教室に戻り、投票結果の放送を聞く。
どうやら荒井くんは当選したようだ。書記、といっても当選は当選。素晴らしいことだと思う。きっと素直に祝わなければならないのだと思う。
けれど。
いつか感じたさざ波が、こんどはひときわ大きくうねる。
なぜだか分からない。
理由すら分からないざわめきは不安と気持ち悪さを感じさせた。
「かえでっち?どしたの?」
帰り道。
ぼんやりとしたまま歩いていると、隣にいた純麗ちゃんから声をかけられた。
「え?ど、どうって…。」
「なーんか変な感じだったから。なぁに?悩み事ならうちが聞くよ?」
弾けるような明るい笑顔を受け、自身の内を晒すに躊躇いを覚えた。
「……………悩みってほどじゃないよ。」
「ぜーったいうっそだぁ!そんな暗い顔してたら、悩んでるよーにしか見えないって!あっ!分かった!もしかして恋の悩みとか!?そーいうの!?」
「こ、こい!?」
思わぬ問いかけに大声が出る。
恋。
特定の人間に魅力を感じて強く惹かれること。
私は荒井くんに恋をしているのだろうか。彼が好きなのだろうか。
「………………恋かどうかは、分からない。」
「ふーん。でも否定はしないんだ。」
「…………少なくとも、好きなところはある…から…。」
「へー!どんなとこ!?どんなとこ!?」
「え、どんなとこって…。案外器用なところ、とか…。見かけより優しいところ、とか。でも、虫とかお化けは苦手なところ…とか…。」
話しているうちに体温が上がっていくのを実感した。
自分でもつっかえずにこれほど言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
「だ、大好きじゃん!その人のこと!それ、やっぱり恋だよ!恋!」
「え!?そ、そうなのかなぁ!?」
「そーだよ!……うーん。でもかえでっちの身近な人で、その条件って…誰だろ…。………あっ。もしかしてあらいっち?」
「!!そ、れは…その、」
彼女から荒井くんの名が出た瞬間、心臓が跳ねる。
純麗ちゃんは口が軽いなんてことはないが、それでも好意を持つであろう相手を知られるのはやや抵抗があった。
「ふーん。へぇ〜。かえでっちがあらいっちをねぇ。なるほどなるほど〜。」
ニヤニヤとやけに楽しそうに笑う。
「いやぁ~。うち、おーえんしちゃうよ!任せて!かえでっち!」
「ま、まだ好きって決まったわけじゃ…。」
「デートとかバンバンしちゃお!デート!!」
「す、純麗ちゃん!話しを……!」
すっかり応援モードへ入った純麗ちゃんは腕をブンブンと回しやる気を見せる。
私は咄嗟に言い訳がましいことばかりを言ってしまった。
自分の気持ちを定かにしてしまうのは、未だ恐ろしいのだ。




