68.酉の市にて④
「まずは僕が妖怪をおびき寄せる。」
そう言った荒井くんは、早速手のひらを出して炎を放出した。
私と純麗ちゃんは妖怪が出るまで待機だ。それから動きを止めたり、とどめを刺したりと各々の役割をこなす。
「……………。」
ごうごう燃える炎に当てられた荒井くんの雰囲気は何処か寂しげであった。
それが何故か。私が知る由もない。しかし、いつか知れたら。そんなことを思い、妖怪が現れるのを待つ。
しばらくすると何度目かの機械的な声。
「ゼニトリゼニトリ。」
「!来る…!」
身構える。
ゼニトリゼニトリというこの無機質な声こそ、妖怪が攻撃してくる合図なのだ。
目を見開き、全身の神経を飛来する妖怪へと注ぐ。
「!」
ひゅう、と風が吹く。
耳にかかっていた髪が前へ前へと押し出される。
その瞬間に、確かに私の瞳は鳥のような生き物を映した。
翼は鋸のような物で出来ており、そこには私の血が僅かにだが付着している。
「!『皆』!!」
指を組み、飛来する妖怪へと向ける。
そして唱えた『皆』。
「ゼ……。」
空中でピッタリ動きが止まると同時に、声も止む。
「純麗ちゃん!」
「うん!まっかせて!!」
封魔石を握りしめる純麗ちゃんの声。
彼女は宣言通り、貯めに貯めた炎を手のひらから吐き出す。
赤々とした炎の中心、内炎は青く、そして内芯はもはや水色にまでなっていた。
「す、すごい…。」
圧巻の炎に息を呑む。
そうしてやや時間が過ぎると、炎は消え、内部にいたはずの妖怪も姿がなかった。恐らく倒したのだろう。
「ふー。一件落着ってやつかな?かえでっち。よーかいの気配する?」
「ううん。もうしないよ。純麗ちゃんの炎で倒せたみたい。」
「えへっ。そっか。なら良かった!じゃー帰ろ!」
元気に純麗ちゃんは腕を伸ばす。
「そーいえばあらいっち。あらいっちはよーかいの血薄いって言ってたけど、何のよーかいの血入ってんの?かえでっちは座敷わらしでしょ?ちなみにうちは狐!」
中指と薬指、それから親指の先をくっつけて狐のポーズをとる。
「………………僕は酒呑童子の血が入ってる。まぁ、母さんは人間だから濃くないよ。」
「そうなんだ。」
思えば荒井くんの家族について初めて知った気がする。
彼自身、身の上話が好きではないのか、あまり話してくれない。
知らなかったことを知れて嬉しい反面、少し不思議に思う。
狐と酒呑童子。全く違う妖怪だというのに、妖力を使って出力できるモノ、つまり炎が出せる能力は同じなのか。
もしかすると当人たちが気づいていないだけで、他の能力もあるのだろうか。
なんて考えていると、歩くスピードが落ちていたらしい。
「?かえでっちー?どーしたの?」
「う、ううん。なんでもないよ。帰ろう。」
「うん!」
私にとって未知というのは数え切れないほどある。
だが、それもいつか既知へとなればいい。
いつか。
そんな悠長なことを思い、2人と共に妖の狭間を出るのだった。




