67.酉の市にて③
「ゼニトリゼニトリ。」
意味を持つのか持たないのか定かでない、機械的な声が反復される。
「山吹!妖怪の姿は見えた!?」
焦る荒井くんの言葉に答える。
「う、ううん。見えなかった…。」
僅かながらも流れる血。
頬に手を当てながら拭うと、痛みが走った。
「あらいっち!なんか作戦とかない?」
純麗ちゃんの問いに荒井くんは首を振る。
「………今のところはない。…とにかく、相手のことを知らないと。どんな能力を持ってるのか、どんな生態なのか。」
彼の言葉を頼りに、整理する。
私は状況を理解できぬまま、恐らく妖怪に攻撃された。
動きは早く、音もしなかった。強いて言うならば、ゼニトリゼニトリという声は聞こえたが。
声。それはゼニトリゼニトリだけでなく、ヒマダヒマダというものもあった。
何故その2つなのか。ヒマダヒマダという言葉がどうしてゼニトリゼニトリへと変わったのか。何かトリガーがあるのかもしれない。
「姿が見えないなら、やみくもにこーげきするしかないよね!?あらいっち!もっかい炎だすよ!」
「………今はそれしかないか。」
2人は呼吸を合わせて再び炎を生み出す。
妖怪のみを燃やし尽くすソレは猛々しく揺れて、境内へと広がる。
その瞬間。また件の声が耳に届いた。
「ゼニトリゼニトリ。」
「!また、」
顔を上げる。
反応は間に合わない。
だが、確かに瞳に映った。
鳥のような生き物が、鋸で出来た翼を私へ向ける。
咄嗟に身体を捻ったが、避けきることは出来ない。
「っ!」
頬の次は耳が熱を帯びる。その次に来るのは痛み。
触らずとも分かった。今度は耳を攻撃されたのだ。
「!かえでっち!また攻撃された!?」
「う、うん……。」
「…………一体何故……。まさか僕たちの炎に反応して…?」
荒井くんの呟きに純麗ちゃんは大きく手を叩いて反応する。
「それじゃあ、うちらが炎出しておびき寄せるってのは?で、かえでっちの『皆』で動きを止めるの!」
「動きは止められるけど…倒せないよ。私は攻撃するような手段持ってないし…。」
オマケにあの様子では2人の炎は効いていない可能性もある。
だとすると、私達が鳥のような妖怪を攻撃する手段はもはやない。
手詰まりとも思えた状況。
しかし、荒井くんは人さし指と親指で顎に触れながら、考え込んだ様子で口を開く。
「いや。攻撃する手段はある。………岬ヶ崎の炎の出力を上げるんだ。……一か八か、だけど。」
「うちの…?あらいっちのは?」
「…………………僕のじゃ無理。……妖怪の血が濃いわけじゃないから。とにかく、ものは試しだ。」
何処か影をまとった表情は一瞬にして霧散した。
あとは彼の言葉通り、挑戦してみる他はないだろう。
「よし。じゃあ、そうしよう。」
「出力あげるってことは、そんだけしゅーちゅーすんだよね…。よし!任せて!!」
頼もしい返事に、頷いて準備をする。
再び妖怪と相まみえる時が刻一刻と近付く。




