64.もうすぐ生徒会選挙
生徒会執行部の部室。私はその部屋にある椅子に腰掛けていた。
隣には部活仲間の荒井くんが神妙な顔つきをしている。
「……………うん。私はこれでいいと思うよ。」
読んでいた紙から顔を上げて、彼へ告げる。
私達は今、来たる生徒会選挙の用意をしているのだ。
選挙で決める役員になると学校行事等での企画立案を主導できるようになるので、執行部に入っている生徒が選挙へ立候補するというのはおかしな話ではない。
そして今は、書記に立候補する荒井くんが演説にて使う原稿を読んでいた。
「そう。……じゃあ、演説はこれで良いかな。」
「あとは…他の生徒の推薦とか、その人からの応援演説とか…?………その、荒井くん、大丈夫?」
「大丈夫ってどういう意味?」
「だって友達少なそうだし…。」
「失礼だな!君に心配されなくても応援演説してくれる先輩を見つけたよ!」
「そ、そうなんだ…。良かった…。」
ほっと胸をなでおろす。
というのも、荒井くんは他人に対してやや冷たい態度をとる傾向がある。
冷たい、というか、興味がないというか。
以前クラスを訪れたとき、彼の周囲は不思議と静まり返り、人が寄りつかないほどであった。
なので心配をしていたのだが、どうやら杞憂だったらしい。
「誰に応援演説頼んだの?」
「先輩だよ。執行部の。」
「へぇ。物好きもいるんだね。」
「さっきから君、本当に失礼だなぁ!?」
「あははっ。ごめんごめん。」
もし必要なら彼の応援演説をしよう。だなんて考えていたので、あてが外れて少し残念な気持ちだ。
だが、嬉しくもあるかもしれない。
確かに荒井くんは誤解されやすいが、悪い人ではない。むしろ、細やかでささやかな、木漏れ日と形容しても良い優しさは魅力であると思う。
故に、執行部の先輩とやらがそれを理解して、応援演説を引き受けてくれたのなら喜ばしいことだろう。
そのはずだが、心の何処かに小さなさざ波が立つのを感じた。
ざぁざぁと侵食する波。
負けじと頭を振る。
「?い、いきなりどうしたの?」
「ううん!なんでもないよ!それより、選挙頑張ってね!」
「まぁ、言われなくても頑張るけど。」
「そういう時は頑張るね、だけでいいと思うよ!ひと言多いんじゃない!?」
「……………君に言われたくないけどなぁ…。」
そんな彼の言葉を胸に刻む。
きっと荒井くんは私がいても居なくてもその行動を変えることはない。
だから、決して勘違いをしてはいけない。
肝に銘じて、つけ上がる自分を必死に宥めるのだった。




