63.対決クラブ③
「「は、はぁ、はぁ。」」
2つの激しい息遣いが体育館に広がる。
ひとつは純麗ちゃん。もうひとうは、彼女と同じバスケ部に所属する女子生徒のものだった。
ワンオーワン中。互いに互いのみを見つめる様は、何人たりとも寄せ付けぬ圧があった。
今、ボールを持っているのは純麗ちゃんだ。
だが、彼女は一向にシュートを打たない。というよりも打てないのかもしれない。なにせ、一歩動くごとに相手の女子生徒が素早く前へと立ちふさがるからだ。
だが、決して深追いすることはない。
あくまで前に立ち塞がるだけ。
しかし、それにかまけて先へ行こうとすれば構えた右手が地面で跳ねるボールを叩き、奪うだろう。
ダンッダンッ。
ボールは跳ねる。
「………っ!」
遂に、純麗ちゃんが大きく右へと踏み出す。が、やはり女子生徒はそれを逃さずにドリブルしていたボールを自身のものへとする。
形勢逆転。今度は純麗ちゃんが守る番だ。
女子生徒は先の純麗ちゃんと同様、相手を睨み、シュートの機会を今か今かと待っている。
しばしの膠着状態。
それも、すぐに終わる。
「!フェイント!?」
思わず声が出る。
女子生徒は右へと身体を傾けたかと思うと、倒れる寸前に左足を踏み出し、そちらに走り去っていったのだ。
彼女を追う純麗ちゃん。が、間に合わない。
気付けばシュートを打つ姿勢から、膝を曲げ、その手からはボールが離れていた。
それから2秒後。ブレのない動きでボールはゴールに収まる。
パスッという軽い音がしたかと思うと、重力に従い自由落下するボールが床へと落ちる。
「は、は、はぁ。私の、勝ち…!」
女子生徒の宣言通り、この勝負は彼女の勝利だ。
「はっ、はぁ、はぁ。やっぱ、きみ、すごい…じゃん…!」
純麗ちゃんが汗を流しながらも言葉を続ける。
「うち、さ…ずっと、勿体ないって思ってたの…。きみはもっと上手くプレイできるのに、なんで、抑えてるんだろって……。」
膝に手を当てていた姿勢から、徐々に呼吸を整えつつ体を起こす。
「ね。………全力でやるのは楽しいでしょ?」
女子生徒は驚いたように目を見開き、少し戸惑いながらも口を開く。
「………………………かもね。……………でも、私がバスケする理由は変わらない。……先輩のために、先輩に楽しんでもらって、コートに立ってもらうために、やる。」
「………そっか。」
ワンオーワンを終えてもなお、女子生徒の意思は変わらない。その頑固たるものは、もはや感心の域に達そうとしていた。
だが、この結果に純麗ちゃんはどうするのだろうか。
そう考えていると、先ほどまでの神妙な顔つきを一新して、純麗ちゃんは言う。
「いやぁ。参ったなぁ。……うちもさ、やっぱり全力でゲームしてたいって改めて思ったよ。………でも、それじゃあメーワクかけちゃうんだもんね。………だからさ、考えたんだ。」
真っ直ぐな瞳で女子生徒を捉える。
「うち、これからも全力で試合する。でも、それはうちが勝つためじゃない。………きみとか、先輩とかが全力で、心置きなく、そんでもって楽しく試合できるために。その為に、試合するよ。」
手を差し出す。
和解の意味を持った握手なのだろう。
女子生徒はおずおずとその手を掴む。
「…………簡単に言うけど、大変じゃない?」
「あはっ。だとしても、うちはやるよ。…………またきみの全力みたいし!」
「……そ。」
握手を交わし、見つめ合う二人だけの空間。少しだけ寂しく感じたが、嬉しくもあった。
これは純麗ちゃんが全力で相手とぶつかった結果なのだ。
独りよがりでなく、諦観したものでもない。
そんな過程から得た結果に、第三者ながらひとりで安堵するのだった。




