61.対決クラブ
「ねぇ。かえでっち。ちょっとついてきてくれない?」
そう言われたのはある日の昼休み。
ご飯を食べ終え、あとはゆっくりするだけだった私に、純麗ちゃんはブラウンの瞳を向けて言った。
「うん。いいよ。」
「あんがと!」
どこか固い表情の純麗ちゃんと教室を出る。
向かった先は体育館だった。
「ところで、何か用事?」
「ん。…………前、話したこと覚えてる?部活の仲間と上手くいってないってやつ。」
「あぁ、うん。」
確か彼女は所属するバスケットボール部でうまくいっていないとのことだった。
他の部員が先輩をたてて、試合を行う中、純麗ちゃんは気にもとめずにプレイしてしまい、それが軋轢を生んだのだとか。
「もしかして、部員の人と話し合うの?」
「そ。……でも、ちょっと不安だからついてきてほしくてさ。」
「それなら近くにいるよ。……頑張ってね。」
そうこうしていると体育館へ到着する。
木の匂いが鼻を突き、視界にはモップで磨き上げられた床が広がる。
「……………純麗。こんなとこに呼び出して、何の用?」
不機嫌そうに毛先を弄びながら、女子生徒は突っ立っていた。
「あのさ。話、したくて。」
「話?あんたと?何を?もしかして、今までの行いを反省してるっていうの?」
「…………うん。少し。」
その発言に、女子生徒は瞳を鋭くした。
「少し?少しってなに?あんた、自分が部内で勝手ばっかしてたのに、少ししか反省してないっての?ふざけてる?」
まくし立てながら純麗ちゃんに詰め寄る。
「………ふざけてない。確かに今まで勝手したのは申し訳ないと思ってる。でも、それをやめようとは思えない。」
「じゃ、なんで呼び出したわけ?まさか、わざわざそんなこと言いに来たの?私のこと、馬鹿にしてる?」
「してない!話しに来たの!………うちは、今まで通りプレイしたいけど、それがめーわくになるんなら、その、折り合いをつけたくて…。」
言葉が徐々にすぼんでいく。
それに対して女子生徒は大きなため息をつき、背を向けようとする。
「馬鹿じゃないの。折り合いとか、なんとか……。あんたが空気読めばすむ話じゃん。……私、もう行くから。」
「あ……。」
手を伸ばそうとするが、止まる。
今、彼女を引き留めても言うべき言葉が見つからないのだろう。
だが、せっかく勇気を出した純麗ちゃんの行動を無駄にしたくはない。
私は咄嗟に女子生徒へ話しかける。
「ま、待って!」
部外者の声に驚いたのか、立ち止まり、冷ややかな視線を此方へ向ける。
「なに。」
「そ、その…。貴方はどうしてバスケ部に入ったの…?」
「は?今、関係ある?」
「えーっと…。それは…。」
彼女が帰ってしまう前に、話をつながなければ。
きっと機会を逃してしまえば和解は望めなくなるだろう。
「相手のことを知るって、大切だと思って…。なんで相手がそう考えたのか、なんで相手がそうしたいのか、知らなくちゃ冷静に話し合えないかなって…。………貴方のこと、教えて、くれない…?」
自分でさえ出来ていないというのに、こんな時に私の口はベラベラと回る。
お前が言うなと、返されなかったのは幸運だったのかもしれない。
意外にも女子生徒は冷静に口を開いた。
「いいよ。……それで何か変わるとは思えないけど。」
体育館外からは他の生徒の声がする。
足音と共に聞こえるソレは、別世界のように壁を隔てて行き場なく漂うのだった。




