60.焼き芋
11月。日差しがあれど寒さを感じる季節。
私は今日も学校だった。学生なのだから当然だ。
肌を刺す寒さに負けぬよう、制服のジャケットの上からカーディガンを羽織る。
枯れ葉を運ぶからっ風を顔に受けながら、放課後を過ごしていると、教室の窓から煙が見えた。
「か、火事…!?」
もくもくとあがる灰色を見上げ、急いで教室を出る。
よくよく考えれば騒ぎになっていないのだから、火事というのは杞憂だが、それでも走る。
「は、はぁ、はぁ、はぁ。」
校庭の角。紅葉やイチョウが風に攫われた後の枯れ木の下。そこが煙の発生源だった。
辿り着き、煙の元をみる。
「せ、先生…?何してるんですか…?」
しゃがみ込みパタパタとうちわをあおぐのは担任の大里先生だ。
「見てのとおり焼き芋ですよ。焼き芋。」
「えぇ…。どうして学校で…?」
「それは勿論、写真を撮るためです。」
「食べるためじゃないんですね…。」
得意げな先生の首には黒いカメラがかかっていた。
写真が好きといっても、焼き芋を撮りたいがために学校で落ち葉を燃やしているのは中々不思議なものだ。
「山吹さん。焼き芋食べます?」
「うーん。私は、大丈夫です。」
そう言うと、いつからいたのか先生の影から出てきた荒井くんが口を挟む。
「じゃあ僕が山吹の分も食べます。」
「あ、荒井くんまで焼き芋してたの…。」
「別に。先生に誘われたから仕方なく。」
なんて涼しい顔をしているが、手元にはバターと蜂蜜があった。
「……………すごい楽しみにしてるみたいだけど…。」
「まぁまぁ良いではありませんか。年頃の子供はよく食べ、よく寝るのが大切ですよ。」
「ほら。大里先生もそう言ってる。」
「先生!荒井くんを甘やかさないで下さい!」
当の荒井くんは銀色のアルミホイルから焼き芋を取り出して木のスプーンで器用にバターを塗り込んでいた。
ひと口、またひと口と食べすすめ、枯れ葉で焼かれる芋が2,3個消えていく。
「そうだ。荒井くん。マシュマロもありますよ。食べます?偶然にも余っていまして。」
「………………しょうがないから食べます。どうしてもって言うなら。」
「食べたいって素直に言いなよ!………先生!荒井くん、お腹いっぱいらしいです!」
「そうなんですか。……それは残念。」
「ち、違います。山吹が勝手言ってるだけです!僕はまだまだ食べれます!」
「さっきどうしてもって言ってたくせに……。」
先生は荒井くんの回答を聞き、にこやかにマシュマロを焼いていく。
串に刺さったマシュマロがこんがりした頃、それを手渡して、先生は完成したマシュマロや燃え尽きた枯れ葉の残骸の写真を撮るのだった。




