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忙し騒がし妖かし達  作者: とんぼ。


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56/81

52-5.ひとつの区切り

 式神が再び、私目掛けてやって来る。


 「山吹やまぶき!しゃがんで!」


 荒井あらいくんの声がした。そのとおりに膝を曲げる。すると、彼が生み出した炎が式神目掛けて放射された。しかし、身軽な式神はそれを難なく避ける。

 そして、変わらず牙を剥き出しにして私の腕を食いちぎろうとする。


 「………っ、か、」


 恐怖に駆られど、『かい』を発動する為に手を式神へ向ける。目は決して閉じない。

 動きを止める技、『かい』は一度試したが避けられてしまった。恐らく、今回も。


 私の技を避けた後は、また腕や肩を攻撃されてしまうだろう。来たる痛みに備え唇を噛む。


 だが、その心配はなかった。


 不意に、式神が私達の斜め後ろへ視線をやったのだ。どうしたのか。そう思った時、式神に小石が投げられたのに気付いた。


 「わんちゃん!こっちだよ!来るならうちの方に来な!!」


 その声は私が知っているものだった。大切な友人の声。少しでも長く生きてほしいと願う人の声。


 「純麗すみれちゃん!!」


 オレンジ色の髪を揺らす少女、即ち純麗すみれちゃんはブラウンの瞳に私を映す。


 「…………ごめん。かえでっち。うち、やっぱりもう少し生きたい。」

 「!うん!私、手伝うから!だから、一緒に戦おう!」

 「もち!」


 どうして純麗すみれちゃんが考えを変えたのかは分からない。その理由にほんのちょっと私が関わっていたらいいなと思ったが、それは自意識過剰かもしれない。

 だとしても。彼女が生きるという選択肢を得られたのは嬉しかった。


 「うちがコイツを引きつけるから、任せて!」


 純麗すみれちゃんは上着を脱ぎ、腕をまくる。そしてまた、式神へ石を投げつけた。

 煽りを受けた式神は当然、純麗すみれちゃんの方へと走る。当の彼女は背を向けながらも首をひねり後ろを見ながら走り始めた。


 式神が純麗すみれちゃんの白い首に噛みつこうとする時、彼女は姿勢を低くして咄嗟に避ける。その反動で式神は純麗すみれちゃんの首ではなく太い木に噛みつくこととなった。


 「かえでっち!あらいっち!今!」

 「うん!『かい』!」

 「ん。」


 私は手で輪っかを作り唱える。これで式神の動きは止まるはず。


 小さく返事をした荒井あらいくんは炎を生み出し、式神へ狙いを定めた。今度は外さない。止まった式神に赤く猛々しい炎が放射された。


 「ぐっ、が、ぁ、」


 うめきをあげ、式神は炎に包まれる。


 パチパチと音が鳴った。


 炎は揺れる。内包した式神をそのままに、ゆらゆらと。そして。


 もとより何もなかったかのように、式神は塵すら残さずに消えていった。


 「たお、した…?」


 体の力が抜ける。


 倒したのだ。式神を。


 「ほぉ。試練を乗り越えたか…。」


 つかつかと歩きながら神は白い髪を撫でる。彼女は純麗すみれちゃんに近づき、懐から取り出した何かを渡す。


 「ほれ。約束のものじゃ。」

 「?これは…?」

 「封魔石ふうませきじゃ。名の通り、妖力を封じ込めるものよ。」


 遠くから渡された石を見ると純麗すみれちゃんが触れた途端にきらきらと白く光っているのが見えた。

 菱形のそれが、純麗すみれちゃんの力を吸い込んだようである。


 「お主が触れた時点で封魔石ふうませきの効果は発動しておる。」

 「じゃあ、うちの体は…。」

 「そうさな。もう有り余る妖力に害されることもない。………それと、必要ならば封じた妖力を取り出すことも出来る。封魔石(ふう

ませき)は言わば、外付けの妖力として働くのじゃ。」

 「………………ありがとうございます。」


 純麗すみれちゃんは神へお辞儀する。だが、当の神は興味なさげに欠伸をした。


 「ふわぁ。妾はただ試練を課しただけ。………用が済んだのならとく帰れ。もう飽きたのでな。」


 随分飽き性な神だったが、今は感謝だった。これで純麗すみれちゃんの体は何ともなくなるのだ。


 「…………かえでっち。あらいっち。その、ありがとう。」

 「ううん。お礼を言われるほどのことじゃないよ。だって、私の我儘だったから。」


 結果として純麗すみれちゃんは生きたいと言ってくれたが、それまでは私の我儘で神の試練を受けていた。なので、改めてお礼を言われるとこそばゆい。

 そんな私とは違い、荒井あらいくんは毅然とした態度で言う。


 「別に。僕も神の力に興味あっただけだし。」

 「…………荒井あらいくんってこんな時も素直じゃないんだね。」

 「あはっ。ねー。」


 純麗すみれちゃんと顔を合わせる。


 彼女の顔は憑き物が落ちたかのようにすっきりとしていて、以前よりも素敵に思えた。


 体の芯に迫るほどの冷たい乾いた風が赤く染まった木の葉を運ぶ。10月はまだまだ続く。

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