52-2.神の御前
純麗ちゃんの寿命を伸ばすため、私は荒井くんと神様を探していた。願いを叶えてくれる神様。それは、ここらへんの地域で祭ってるらしい。だが、神様は神様。労せずに会えるとは思えなかった。
「…………会えるのかな。神様に。」
「さぁね。正直、君の幸運頼りだよ。でも、今までだってその力で何とかなったんだから、大丈夫じゃない。」
「………………そっか。そう、だよね……。」
自信はない。しかし、だからといって行動しないわけには行かない。私達は早速、件の神様が祀られている神社へと向かう。
「そういえば。荒井くんはどうして純麗ちゃんの寿命について知っていたの?」
山奥の神社を目指す最中。山道を歩きながら、疑問をぶつける。
荒井くんは以前も、純麗ちゃんの事を一方的に知っていると言っていた。それが、なんだか少し気になった。
「……………別に。たまたまだよ。」
「そ、そっか。」
深掘りする気にはなれなかった。純麗ちゃんにも言われたが、私達は出会って1年もしていない。深い仲ではないのだ。だから、これ以上踏み込むのは良くないのかもしれない。
「あのさ。君はどうして、そんなに岬ヶ崎を気にしてるわけ?本人だって、寿命のことは気にしてないって言ってたのに。」
「……………それは……友達、だから。………私、純麗ちゃんのバスケする姿とか、お弁当見せてくれる時とか、好きなの。……物事に全力で、楽しそうで、そんな姿をずっと見てたくて…だから、純麗ちゃんの寿命が短いのは諦めるなんて、嫌だ。」
「ふぅん。そう。」
それっきり、荒井くんは黙りこくった。ただ、彼の態度は肯定も否定もない。受け入れてくれるだけのものだった。
いつもなら冷たく感じたが、今はそれで良かった。私はどうあっても、純麗ちゃんの寿命を伸ばす。その意思を曲げることはしたくないから。
そうして、私達は境内へと入る。
「今更だけど、神様って何処にいるのかな。……妖怪みたいに妖の狭間にいたり?」
「…………そうだね。僕の予想じゃ、神と妖怪の違いはそれほどない。だから、妖の狭間にいると思うよ。」
「そ、そっか。」
背筋を伸ばす。神が妖の狭間にいるというのなら、話しは早い。私の勘に従って、神様の居場所を探せばいいと言うだけだ。
神経を研ぎ澄まし、心を落ち着かせる。そして、ただ願う。神に会いたいと。居場所を知りたいと。
「!こっち!」
視線が不自然に揺れる。その方向に、私の望むものがあるはずだ。
神社、本殿の裏手へと回り、手を輪っか状にする。
「『在』!」
すると周囲の音が静まる。それは妖の狭間に入った合図であった。
といっても、風景に変化はない。特筆すべきは、普通の人間の姿がなくなること、それだけだ。つまりは、今、この空間にいるのは妖怪または妖怪の血を引く人間。なので、私の目の前に現れた人らしき人物も、そのどちらか、というわけである。
「………………貴方、は…。」
突如、目の前に現れた人を見る。今まで出会った妖怪のような異形ではない。つまり、私や荒井くん、純麗ちゃんのような妖怪の血を引く人間。または、神様。そのどちらか。
「ほぅ。懐かしき気配を辿ってみれば…。これはまた…。」
肌から髪、瞳に至るまで真っ白な美しい少女は見た目にそぐわず、古風な喋り方だ。
透き通るような、純潔さをふんだんに感じさせる容貌に圧倒されていると、隣にいた荒井くんの声が聞こえた。
「貴方が、願いを叶えてくれるっていう神様?」
「いかにも。………して、お主らはなにゆえ妾を探しておった?」
神の視線が注がれる。そうだ。気圧されている場合ではない。私は、純麗ちゃんの寿命を延ばすためにやって来たのだから。
「え、えっと、妖怪の血を引く友達の寿命を延ばしたいんです!その子、妖怪の血が濃すぎて、体が耐えられないみたいで…。」
「ほぅ。そやつの名は?」
「岬ヶ崎純麗っていいます!私の、大切な友達なんです!」
「岬ヶ崎…。ふむ……。」
小さな腕を組み、神は考える素振りをする。そういえば、願いを叶えるとは聞くがやはり代償が必要なのだろうか。だとしたら、私は何を差し出せるのだろう。
私の寿命、半分くらいであれば差し出せるが、それは神の判断となるはず。一体、目の前の彼女は何を要求するのか。じっと、沈黙に流されるまま、待つ。
「ふっ。そう身構えるな。確かに願いを叶えるのに代価は貰うが…物騒なものではない。」
「じゃ、何を要求するんですか。」
荒井くんは神様が相手であっても毅然とした態度だ。
「そうさな…試練を乗り越えてもらおう。」
「試練…?」
「あぁ。難しくはないぞ。」
そう言って神様は指を擦り、音を鳴らす。パチッという音共に現れるは犬のような狼のような白い獣。
「妾の式神じゃ。まぁ妖怪とそう変わらん。お主らには此奴を倒してもらおう。」
神様の言葉をきっかけに、式神が吠える。
純麗ちゃんを救うため、試練が始まった。




