50.衣替え
10月にも入り、涼しさが寒々しさへと変わる頃。私はブレザーへ袖を通して今日もまた学校に来ていた。青柳高校は特に校則が厳しいわけではなく、制服もリボンやネクタイを自由に変えれたりする。なので、廊下を歩く生徒の首元はそれぞれ違っていた。
「………さ、寒い。」
換気のためか、窓が開けっ放しになっている。外から来るからっ風は枯れ葉と寒気を校舎へ流し込む。
「本当にさむいですねぇ。」
横からした声の主は担任である大里先生であった。彼は分厚いセーターを着て肩をさすっている。
「先生、いつにも増して顔色悪いですね…。」
「えぇ。実は私、寒がりでして。この気温だと顔も唇も真っ青になります。」
「た、大変ですね。」
少し早い気がしたセーターも、寒がりであるなら納得がいく。それにしても、先生は普段から体調が悪そうなので心配だったが。
そうして廊下を並び歩いていると、大里先生が生徒に呼び止められる。
「先生!あの、今日の練習なんですけど…。」
「はい。どうされました?」
そっと聞き耳を立てる。どうやら生徒はサッカー部のようで、顧問である大里先生に休む旨を伝えているようだった。
「分かりました。今日はゆっくり休んでください。それでは。」
「はい!失礼します!」
生徒が去っていくのを見送り、ふと呟く。
「先生って、サッカー部の顧問なんですね。」
「そうですよ。………意外そうですね。」
「ま、まぁ…。……先生、サッカー出来るんですか?」
「勿論です。未経験でしたが勉強しましたから。」
「未経験でも顧問に割り当てられるんですね。」
「はい。それはもう、大変ですよ。」
困ったように笑う先生からは、計り知れない苦労の一端を感じさせた。本当に、大変そうだ。入学式の時から思ったが、教師という職業は中々苦労も多いようだ。
そこまでして他人の面倒を見る気力は私にはない。なれるかどうかは置いておいて、私が教師を目指すことはないだろうと思う。
「それでは私は職員室によりますので。………山吹さん。体調には気をつけてけ下さいね。いざって時に困りますから。」
「はい。」
そう言って先生と別れる。それにしても不思議な物言いだ。いざって時、だなんてそんなの日常生活ではそうそうない。試験だとか、行事とかであればまだ分かるが。
なんて事を考えながら肩をすぼめる。窓から入る風は冷たく、乾いていた。




