48.カラオケボックスにて③
私の肩には未だ、重しのようにずっしりとした感触が残る。だけでなく、モウスコシモウスコシと子どもの声が聞こえていた。
「なん、とか、振り払わなきゃ…!」
その正体は妖怪である。老婆から幼子へと変化したそれは、私の背にしがみつき、徐々に重さを増していく。
重さに負けぬよう、なんとか壁に手をやり体を支える。そうしていると、足音がこちらに近寄ってきた。
「!荒井くん!」
音ともに現れたのは妖怪退治仲間の荒井くんだった。彼は黒髪を揺らしながら、駆け寄る。
「どういう状況なわけ!?」
「わ、私の背中に妖怪が張り付いてるの!」
「……っ、了解。」
荒井くんは顔を歪めて頷く。その表情には焦りが見られた。このままでは妖怪を倒すことは叶わないだろう。かくなる上は。
「………荒井くん!私ごと炎で妖怪を!」
「馬鹿言わないで!そんなこと考えてるんなら、ほかの案出して!」
「………………ほかの、あん…。」
今の私は足手まとい。だから、せめて確実に妖怪を倒せるようにしたかったが、荒井くんは私ごと妖怪を焼くつもりはないらしい。
ならば、どうしよう。私に出来ることがあるのだろうか。結局のところ、何も出来やしないのではないか。
嫌な考えがぐるぐると頭を巡る。しかし、今はそんなことに気を取られている場合ではない。こういう時にこそ冷静にならなければ。
重くなる肩。なんとか立っていようと踏ん張りながら、頭を回す。視線の先には鏡。それを隔てて背中に乗っている幼子と目が合う。彼女はモウスコシモウスコシと呟くだけ。
「!そうだ…。もしかすると…!『皆』!」
鏡越しに幼子を見つめながらすべての指を組み、唱える。皆は対象の動きをとめる技。この対象は目視で確認していたが、目でおえるのであれば鏡越しでも効果は発揮されるのではないか。
その目論見は当たっていた。皆と唱えた瞬間、背中が軽くなり幼子の高い声も止まった。
「今!!」
私は勢いよく体を振り、背後の妖怪を床へと落とす。それと同時に荒井くんが手をかざした。そこから出るのは赤々とした炎。揺らめきながらも妖怪の体を包み、パチパチと音を立てて燃やしていく。
「あ、ありがとう。荒井くん。………その、迷惑かけてごめん。」
「別に。退治できたし、いいんじゃない。」
「そ、そっか。」
優しさなのか、普段通りの冷たさなのかは分からないが、荒井くんは気にしていない様子だった。
「次は足手まといにならないようにするから!」
「……………あっそう。」
そう言って荒井くんは背を向ける。怒ってはいないだろうが、些か不安が募る。やはり、私はまだまだだ。




