47.カラオケボックスにて②
荒井千里は同級生の山吹楓とカラオケボックスへ来ていた。どうやらここで妖怪が発生するらしい、という理由だ。
彼は部屋の入室を済ませたあと、山吹の後に続き部屋を出た。妖怪が出る場所を探すためだ。
「こっちかも。」
そう言う彼女はやや小走りに、己の勘が赴く方へと行く。荒井もついて行くが、ふと曲がり角で見知った顔と出会う。
「おや。荒井くん。奇遇ですね。」
そう声をかけてきたのは荒井の通う高校で教師をしている大里人志だった。
「……………どうも。」
荒井は大里が得意ではなかった。無遠慮、とまではいかないが何故か此方に歩み寄るその姿勢が、あまり好きではない。
だがそれはそれとして、こんなところで大里と出会うのは予想外だった。
「先生も、カラオケとかに行くんですね。」
「はい。今日は親戚の方の付き添いです。カラオケに行ってみたいと言われたので。」
「………ふぅん。連れの人は?」
「先に行ってしまいました。カラオケ、楽しみだったみたいです。」
そう言いながら大里は笑う。手には紙袋と入室伝票の挟まったバインダー。別段、嘘をついているわけではなさそうだ。
しかし、彼の持つ紙袋が荒井の目を引いた。そこにはうっすらと黒字で神社、と印刷されていた。その前の文字は読めない。
「神社、行ってたんですか。」
「はい。親戚の方がやってるんです。そこで破魔矢とかお札とか貰いまして。……荒井くんは神社とか行きます?」
「……………まぁ。」
「そうなんですね。それじゃあ、お願い事があるってわけですね。………それとも神様に会いたいか。」
大里の双眸が荒井を捉える。グリーンの瞳は目前の彼の一挙手一投足を見逃さんと、しっかり開いていた。獲物を品定めするようにも思えた視線に荒井はたじろぐ。
「荒井くんは神様に会ってみたいと思います?」
「…………まぁ。」
「へぇ。例えばどんな神様にですか?」
「…………ここらへんでも祀ってある、対価を払えば願いを叶えてくれる神様、です。……まぁ、ただの伝承なんで本当かは知りませんけど。」
「なるほど。願いを叶えてくれる神様、ですか。」
心なしか、周囲が静まった気がした。それは荒井の緊張状態から来るものかどうか、本人に判別はつかない。
「会えるといいですね。それでは、私はこれで。…………良い休日を。」
「はい。」
笑顔で手を振った大里は部屋へと移動する。その後ろ姿を少し眺めた後、荒井は先に行った山吹を追いかけに行くのだった。




