44.コーヒーブレイク②
カッパに襲われたあと、私は妖の狭間から脱出した。妖の狭間と現実世界はリンクしているので、妖の狭間で学校近くにいれば戻ったときも学校近くに転送されるのだ。
9月。日が暮れるのもやや早くなり、既に空の縁ではオレンジと紺色が境界線を作らずに溶け合っていた。
「…………はぁ。私、やっぱり中途半端だなぁ。」
結局、私一人ではカッパを倒すことはできなかった。人魚の時のように正体不明の何かに助けられなければ、ひとりで成し遂げることはできなかったのだ。
肩を落として校門前から家へ帰る。
「山吹さん。どうかしたんですか。」
声をかけられた。発生源は後ろ。振り向き確認すると担任の大里先生だった。
「……………いえ。何か、あったわけではないんです。」
むしろ何もなかった、何もできなかったと言うべきか。
「そうですか。しかし、顔色が優れないようですよ。」
「先生も、いつも青白いじゃないですか。」
「それは…そうですが、今は貴方のことです。……少し、疲れているのではありませんか。」
「……………疲れてはないですよ。きっと。だって、私、何もしてないです。」
「そうでしょうか。それはきっと、貴方が自分に厳しいからそう思うんですよ。今の貴方は疲れています。ですから、休むべきですよ。」
私が自分に厳しいとは思えなかった。だって、もしそうならば今頃はストイックに勉強なりスポーツなりに打ち込んで、何かしら成果を出しているだろう。
どこまで行っても中途半端。だから、何もできないのだ。
「………………山吹さん。これ、どうぞ。」
先生はそう言って缶を差し出す。赤く染められた缶には小豆の写真が貼り付けられていた。
「お汁粉です。さっき自販機で買ったのであげます。疲れたときは温かい飲み物が効きますからね。」
「……………ありがとうございます。」
「どういたしまして。さっ!一気に飲み干して下さい!」
「え!?い、今ですか!?」
「はい。そうです!さぁ!」
先生に言われるがまま、プルタブを開けて缶を傾ける。アツアツのお汁粉が喉から胃へ伝わるのを感じた。お汁粉の熱が身体に生き渡り、ぽかぽかを越えてアツアツになる。
「どうです?美味しいですか?」
「お、美味しいですけど、暑いです!」
「ふふっ。そうですか。なら良かったです。」
「良かった…ですか?」
「はい。」
頷き、続ける。頬には小さな笑みが。
「体を冷やすと気持ちも冷えてしまいますからね。ですから、体も温かくしなければ。」
「……………ですね。ありがとうございます。先生。」
「いえ。」
先生へお礼をして帰宅する。体は未だ温かい。今の今まで纏わりついていた冷ややかな気持ちも和らぐようだった。




