42.もうすぐ合唱祭
「はーい。それじゃあ今日のパート練習はここまでです。」
女子生徒の声でクラスメイトが挨拶を終えて散り散りになる。そろそろ青柳高校の合唱祭だ。その為にも、私のクラスは放課後集まって練習をしていた。
私はメゾソプラノ。無事にパート練習も終わったので帰ることにした。廊下を歩くと他のクラスの歌声が聞こえる。皆、同じように練習をしているようだ。
と。廊下を歩いているとひときわ綺麗で重厚な声が聞こえた。渡り廊下の方だ。
自然と足が進む。そうして東校舎と西校舎の間、渡り廊下へたどり着いて目についたのは1人の男子生徒だった。その生徒は私の姿が目についたのか、歌うのをやめてしまう。
「ご、ごめん。荒井くん。お邪魔しちゃった…?」
謝罪の先、男子生徒もとい荒井くんは肩より上ほどの黒髪を払い、言う。
「別に。丁度休憩しようと思ったところだし。」
「そっか。……それにしても上手だね。」
「まぁね。」
「他のパートの人達とは練習しないの?」
「僕はソロパート任されたから。そこ練習してる。」
「ソロパート!?す、すごいね。」
「別に。」
荒井くんは相変わらずの態度だが、歌が上手いのは確かだ。運動神経もあり、頭も賢い。オマケに歌もうまいとなれば、欠点がつっけんどんな性格だけになる。いや、欠点があるだけ神様は温情なのかもしれない。これで完ぺき超人だったら不平等さを感じずにはいられないだろう。
「君は練習しないわけ?」
「終わったところなんだ。……私、何のパートだと思う?」
「ソプラノじゃない?うるさいし。」
「ひと言余計だなぁ。答えはメゾソプラノ!ソプラノではないよ!残念でした!」
「別に残念でも何でもないけど。」
全くどうして荒井くんの口はすぐに悪口ばかり飛び出てくるのだろうか。いつものことではあるが不思議でならない。
「そういえば合唱祭優勝したクラスには高いアイスが配られるらしいよ!楽しみだよね!」
「あっそう。」
「あっそうって…。楽しみじゃないの?アイス。」
「別に。」
「ふぅん。…………もしかして、日頃から高いアイスクリームが出る家なの…?」
もしそうだとしたら羨ましい。高いアイスクリーム。そもそも、アイスクリーム自体あまり口にしないのだ。ラクトアイスではなく、正真正銘のアイスクリーム。これが重要だ。
返答を待っていると荒井くんは少し眉を寄せたあとに呟いた。
「まさか。……普通の家だよ。高いアイスクリームなんか食べない。」
「そ、そっか。」
予想よりも静かな反論に面食らう。だが、瞬きの間に荒井くんは普段の様子に戻っていた。
「休憩終わり。僕、練習するから。」
「う、うん。頑張ってねソロ!じゃあ!」
「……………。」
思えば私は荒井くんのことを詳しく知らない。同じクラスと言うわけでもないし、友人、と言えるかも分からない関係だし仕方がないのかもしれないが。
それでも、あと一歩踏み出すには少し躊躇ってしまう。そんな臆病風を吹かせながら帰宅するのだった。




