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忙し騒がし妖かし達  作者: とんぼ。


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41/80

41.練習試合

 9月だというのに暑苦しい湿度を孕んだ空気と共に、私は学校の建物内を歩く。今日は休日だったが、忘れ物をしてしまったので取りに来たのだ。

 教室を出て、家へ帰ろうとする。昇降口に差しかかった時。やけに体育館の方が騒がしいことに気付く。


 「?なにかやってるのかな。」


 ふと気になり、体育館へと移動した。青柳あおやなぎ高校の2つある体育館のうち、大きい方つまりは第1体育館。喧騒の元はそこらしかった。

 体育館の出入り口には見慣れない緑色のジャージ。恐らく他校のものだろう。他校生徒がいる、ということは練習試合でもやっているのか。


 気になり、体育館を覗く。するとそこではバスケの試合をしているようだった。ボールが床に跳ねる音、バスケットシューズが擦れる音、応援の声、さまざまな音が耳に届く。


 「あっ。純麗すみれちゃん…!」


 視線の先には友人の純麗すみれちゃんがいた。半袖から伸びる腕はリズム良くボールを床へと打ちつける。

 ひとり、ふたりとディフェンスを躱してゴール前。真ん前ではない。スリーポイントラインの前だ。そして構える。勿論、手を伸ばして邪魔立てされるが、相手選手が彼女を妨害する前に純麗すみれちゃんの手からボールは離れていた。


 素早い攻防。唖然とする間に、ポスッという呆気ない音が聞こえた。

 純麗すみれちゃんのスリーポイントは見事に入ったのだ。


 「すごいなぁ。やっぱり。」


 試合はそれからも順調で青柳あおやなぎ高校の勝利だった。得点源はほぼ純麗すみれちゃんと言っても良い。私がすごい訳では無いが、なんだか誇らしかった。

 練習試合はこれで終いらしく、片付けを済ませた相手校の生徒が体育館から出ていく。純麗すみれちゃん達は片付けらしい。


 流石に声をかけるわけにはいかないのでこの場を去ろうとした。しかし、つんざくような声が私の足をその場に縫い付ける。


 「あのさぁ!空気読めないわけ!?」


 女子生徒の声。他校生徒はほとんど出ていったので、恐らく青柳あおやなぎ高校の生徒だろう。


 「今日、本当は先輩が出るはずだったのに、あんたが目立つから出れなかったんだよ!?」

 「…………それは、ごめん。」


 謝罪した生徒はまさしく純麗すみれちゃんであった。彼女はその上手さ故にやっかみをかけられているようだ。


 「ごめん、じゃないよ!先輩をたてることすらできないわけ!?私達はちゃんと遠慮してんだよ?そこはさ、空気読みなよ!今までの先輩だってそうしてきたんだからさ!」

 

 なるほど。先輩を多く試合に出す為に、下級生は試合の場では力を出すのを見極めていたらしい。それも、代々。


 「………申し訳ないとは、思うよ。でも、全力を出さないなんてうちには出来ない。」

 「はぁ!?舐めてんの!?」

 「ナメてないよ。ナメてないからこそ、うちは全力で試合したい。相手選手にも、うちのチームの先輩にだって負けたくないし、全力を見せたい。」

 「………………。」


 女子生徒は黙る。正直、彼女の言っていることも分からなくはない。代々そうしてきたというのなら、それを引き継ごうと意識するのはおかしな話ではない。別段、彼女達に悪意があるわけではないのだ。

 しかし、私はやはり全力の純麗すみれちゃんを見るのが好きだ。すべてを出しきって、すっきりとした表情を見せる彼女が好きだ。なので、女子生徒の言い分すべてを肯定することはできない。   


 「そこ!片付けサボらない!!」


 顧問と思わしき女教師の声が響く。そのひと声で純麗すみれちゃん達は片付けに戻ったようだった。

 私も忘れ物は取り戻したので家に帰ることにした。

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