41.練習試合
9月だというのに暑苦しい湿度を孕んだ空気と共に、私は学校の建物内を歩く。今日は休日だったが、忘れ物をしてしまったので取りに来たのだ。
教室を出て、家へ帰ろうとする。昇降口に差しかかった時。やけに体育館の方が騒がしいことに気付く。
「?なにかやってるのかな。」
ふと気になり、体育館へと移動した。青柳高校の2つある体育館のうち、大きい方つまりは第1体育館。喧騒の元はそこらしかった。
体育館の出入り口には見慣れない緑色のジャージ。恐らく他校のものだろう。他校生徒がいる、ということは練習試合でもやっているのか。
気になり、体育館を覗く。するとそこではバスケの試合をしているようだった。ボールが床に跳ねる音、バスケットシューズが擦れる音、応援の声、さまざまな音が耳に届く。
「あっ。純麗ちゃん…!」
視線の先には友人の純麗ちゃんがいた。半袖から伸びる腕はリズム良くボールを床へと打ちつける。
ひとり、ふたりとディフェンスを躱してゴール前。真ん前ではない。スリーポイントラインの前だ。そして構える。勿論、手を伸ばして邪魔立てされるが、相手選手が彼女を妨害する前に純麗ちゃんの手からボールは離れていた。
素早い攻防。唖然とする間に、ポスッという呆気ない音が聞こえた。
純麗ちゃんのスリーポイントは見事に入ったのだ。
「すごいなぁ。やっぱり。」
試合はそれからも順調で青柳高校の勝利だった。得点源はほぼ純麗ちゃんと言っても良い。私がすごい訳では無いが、なんだか誇らしかった。
練習試合はこれで終いらしく、片付けを済ませた相手校の生徒が体育館から出ていく。純麗ちゃん達は片付けらしい。
流石に声をかけるわけにはいかないのでこの場を去ろうとした。しかし、つんざくような声が私の足をその場に縫い付ける。
「あのさぁ!空気読めないわけ!?」
女子生徒の声。他校生徒はほとんど出ていったので、恐らく青柳高校の生徒だろう。
「今日、本当は先輩が出るはずだったのに、あんたが目立つから出れなかったんだよ!?」
「…………それは、ごめん。」
謝罪した生徒はまさしく純麗ちゃんであった。彼女はその上手さ故にやっかみをかけられているようだ。
「ごめん、じゃないよ!先輩をたてることすらできないわけ!?私達はちゃんと遠慮してんだよ?そこはさ、空気読みなよ!今までの先輩だってそうしてきたんだからさ!」
なるほど。先輩を多く試合に出す為に、下級生は試合の場では力を出すのを見極めていたらしい。それも、代々。
「………申し訳ないとは、思うよ。でも、全力を出さないなんてうちには出来ない。」
「はぁ!?舐めてんの!?」
「ナメてないよ。ナメてないからこそ、うちは全力で試合したい。相手選手にも、うちのチームの先輩にだって負けたくないし、全力を見せたい。」
「………………。」
女子生徒は黙る。正直、彼女の言っていることも分からなくはない。代々そうしてきたというのなら、それを引き継ごうと意識するのはおかしな話ではない。別段、彼女達に悪意があるわけではないのだ。
しかし、私はやはり全力の純麗ちゃんを見るのが好きだ。すべてを出しきって、すっきりとした表情を見せる彼女が好きだ。なので、女子生徒の言い分すべてを肯定することはできない。
「そこ!片付けサボらない!!」
顧問と思わしき女教師の声が響く。そのひと声で純麗ちゃん達は片付けに戻ったようだった。
私も忘れ物は取り戻したので家に帰ることにした。




