99.物陰より見守り
2月も終わろうという日。休日でもある今日、岬ヶ崎 純麗は足を弾ませてショッピングモールへ来ていた。
買い物が目的、というわけではない。
「お、おはよう千里くん。」
「おはよう楓。」
純麗のいる位置から離れた所に、彼女のターゲット即ち荒井千里と山吹楓がいる。
そう。今日この日は、2人のデートだったのだ。
無論、邪魔だてするつもりはない。ただ、興味が湧き出てしまったのだ。どうにかして、2人のデートを見守りたかったのだ。
「……それじゃ、行こう。」
「う、うん。」
相変わらずぎこちない2人の様子に、純麗は柱の陰から歯噛みする。
「くっ。かえでっち!どーせなら手繋いじゃえ!ちさとっちからでもいいから…!」
2人の手が触れるか触れないかの距離まで近付くが、純麗の呟きに反して手が繋がれることはない。
「それで…楓はどこか行きたいところある?」
「……うん。…その…服、見たいなぁって。」
「分かった。じゃあこっちだ。」
純麗は腰を屈めて2人が服を見る様子を眺めていた。
楓が折りたたまれている服のタグを確認しながら言う。
「…………千里くんは、どういう服が好きとか、ある?」
「え?そうだね…僕は動きやすい服が好きかな。何かあったらすぐ走りたいし。」
千里の答えに純麗は思わず大声を出しかけた。
「違うでしょちさとっち…!!今のは、彼女にどーいう服着てほしーかってことでしょーが!!」
全く女心が分からないものだ。我が弟ながら遺憾である。という風に、純麗はひとりでに腕を振り回す。
「そ、そっか。」
楓はそれっきり物色に戻ってしまう。
それから2人はテナント内をぐるりと回り、時間を潰した。
何事もなく、純麗が肩透かしを食らっていた時。2人の直ぐ側を店員が通りがかる。
艶のある髪を巻き、フリルのついた服を着た女性だった。
それを見た楓が視線を店員に送りつつおずおずと口を開く。
「綺麗な店員さんだったね。……私も、あぁいう風になれたらなぁ。」
「……別に今のままでもいいと思うけど。……僕は、今の楓が好きだし。」
「?千里くん。何か言った?」
「べ、別に…なんでもない。」
もごつく千里。純麗は再び喉から大声が飛び出してしまうところであった。
「なんで聞いてないのかえでっち!ちさとっちが渾身の口説き文句言ってたのに!ちょー頑張って振り絞ってたのに……!!」
純麗は溺れかけの虫のように一人でばたつく。歯痒さが限界まで達していたのだ。
「あとで2人にはお説教だね!うちがアドバイスしなきゃ…!」
今日一日二人を見守ることを決めて、純麗は気合を入れるのだった。




