98.二人一緒に
早朝もあっという間に過ぎ、ホームルームの時間間際となる。
私は席についてただただ喜びを噛み締めていた。
何せ、千里くんと想いが通じ合ったのだ。奇跡に近しい出来事に対し、しばしの間放心するのは仕方がないだろう。
「おはよー!かえでっち!」
そうこうしていると、朝練を終えたのか純麗ちゃんが元気な挨拶をしてきた。
「おはよう純麗ちゃん。」
「……んー?もしかして、なんかいーことあった?」
純麗ちゃんはそう言いながら、私の顔を覗き込む。
それほど気が緩んでいたのか、どうなのか分からないがバレてしまったのならば白状しよう。
「う、うん。…その、実はね…千里くんと付き合うことになったの。」
声を潜めて報告する。
それもこれも、純麗ちゃんのお陰だ。
彼女のお陰で、千里くんとしっかり向き合い話せたのだ。
「えー!?マジ!?良かったじゃん!!」
飛び跳ねてしまうぐらいの驚きを見せて、続ける。
「いやー。今日はめでたいねぇ!うちがジュースでもご馳走しようか?」
「だ、大丈夫だよ。それに…純麗ちゃんのお陰でもあるから…。」
「そーなの?」
「そうなの。」
小首を傾げる彼女に頷くと、その時丁度、教室の扉が開く。
担任である大里先生が軽く挨拶をして教壇へ立った。
朝のホームルームが始まる。
純麗ちゃんとの会話は途中になってしまったが、また話せばいい。
そう思い、前を向く。
***
放課後。
いつも通り、用事のない私は帰る支度を済ませて教室を出ようとした。
普段と違うのは千里くんと帰る約束をした、ということだ。
想いが通じて初めての下校。緊張しないだなんてのは有り得ない。そもそも、下校前から身体はガチガチだ。
というのも、どうやって声をかけるべきか悩ましいのだ。
平静を装い、千里くんを迎えに行くか。それとも、教室で大人しく待つか。
「……………どうしよう…。」
「んー?どしたのかえでっち。帰んないの?」
机の前で立ち尽くしていると純麗ちゃんがひょっこり顔を出す。
「え、えっと…その…千里くんと帰る約束、したんだけど…待つべきか、私が教室に行くべきか迷ってて……。」
「なるほどなるほど。そゆことね。なら話は早いじゃん!」
「?え?……!?ちょっと純麗ちゃん!?」
突然腕を引っ張られる。
慌てて鞄を握り、純麗ちゃんに従うと辿り着いた先は千里くんのクラスだった。
とても嫌な予感がする。
純麗ちゃんを止める前に、彼女は持ち前の大声で叫ぶ。
「ちさとっちー!カワイイ彼女が迎えに来たよー!」
「す、純麗ちゃん!!」
「ほらほら!早く若いお二人で帰りなよ!そんじゃ!」
「そんじゃって……。」
私の言葉も聞かずに純麗ちゃんは手をひらひらと振って消えてしまった。
茹でダコのように赤くなったのを自覚しながら、教室の入り口で動揺していると千里くんが鞄を肩にかけてやって来た。
「ち、千里くん。……その、一緒に、帰ろう。」
「…………ん。」
不思議と彼の顔は色がなく、これといって変わった様子はなかった。私だけが恥ずかしがっているようで、なんだか悔しい。
昇降口を出て、並び歩く。
「………千里くん、平気そうだね。……その、さっきの…。」
マトモに顔を見れず呟く。
「……そう見えるなら良かった。」
「え?それってどういう……。」
「別に。何でもない。気にすることはないから。」
「そう言われたら気になるよ…。あっ。もしかして、格好つけてたの?」
以前の彼の話を思い出す。
千里くんは言っていた。幻滅されたくないと。つまりは、私の前で格好つけてくれているのかもしれない。思い上がりでなければいいが、もし予想が当たっているのならば嬉しい。
「わ、悪い!?好きな人の前では格好つけたいだろ!?」
「好きな人って…急にそう言われるとこそばゆいよ…!」
「こんなことで照れないでくれるかな!?僕も恥ずかしくなってくる!!」
二人して顔を赤くさせながら帰り道を歩く。
今日はヤケに早く家に着いてしまったような気がした。




