表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忙し騒がし妖かし達  作者: とんぼ。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/117

97.通心

 熱を出した翌日。身体の怠さは嘘のように霧散し、快調であった。


 いつも通り、ではなくかなり早めに学校へ行く。


 心の準備の為でもある。


 今日、千里ちさとくんに会ったら伝えるのだ。自分の気持ちを。そして、その答えを。真っ向から、逃げずに。


 「……………ふぅ。」


 小さく息を吐き、廊下を歩く。


 教室はもうじきだが、それよりも考えるべき事がある。


 千里ちさとくんと話すタイミングだ。


 休み時間か、昼休みか、はたまた放課後か。

 兎に角、しっかり話せるような時間が良い。なおかつ、周囲は静かであればあるほど良い。下手なハプニングなど以ての外だからだ。


 「………どうしようか、な、…あ、」


 なのだが。


 その以ての外のハプニングが今、目前に現れた。


 言い換えるならば、心の準備が整わぬ内千里ちさとくんと出会ってしまったのだ。


 「あ、」


 何やら相手も予想外だったようで、小さくたった一音のみ音を漏らして立ち止まる。


 「………………。」

 「………………。」


 なんて声をかけるべきか。ひと言目はまずどうするか。考えあぐねている間、ひたすらに互いを見つめ合う時間が発生する。


 だが、考えてみれば第一声は決まっていた。


 「ち、千里ちさとくん。昨日は、ありがとう。家まで運んでくれて。」

 「…………いや。別に大変じゃなかったし。」

 

 なんだか懐かしいほど素っ気ない千里ちさとくんの様子が、可笑しく感じてしまう。

 

 そっぽを向いた彼は忙しなく毛先を弄び始めた。


 「それで…ね。昨日、言ったこと覚えてる…?す、好きって、言ったこと、なんだけど…。」


 今、ここで言う他ない。覚悟を決めて話を切り出す。幸い、朝早くの学校は静まり返っており、周囲に人影はない。


 「………………覚えてる。」

 「そっか。それで…その…昨日言った好きっていうのは…その………友達として、とかじゃないの。………い、異性として…というか、ら、ライクじゃなくて…ラブ?っていうか…。」


 覚悟は決めたものの、言葉はつっかえながらしどろもどろ。しっかり相手に伝わっているのか怪しい。


 一度切り替えるためにも、顔を思い切り叩いていようとしたその時。


 千里ちさとくんが口を開く。


 「かえで。」

 「は、はい!」

 

 咄嗟に返事をしてしまった。


 いつの間にか、彼が間近に迫っている。


 声と共に、私の両肩に重みを感じた。紛うことなき千里ちさとくんの両手だ。


 「………………千里ちさとくん?」


 私の名を呼んだあと、しばらくそのまま千里ちさとくんは黙りこくってしまった。てっきり何か話そうとしたのだと思ったが、もしや彼もまた言葉を探すのに手間取っているのだろうか。


 そうして待っていると、ようやく声が続いた。


 「……………かえでの気持ちは、嬉しい。」

 「…う、うん。」


 その一言で、やはり私は今日振られ直されるのだと実感した。だが、逃げることはしない。


 「…けど、僕には自信がない。………なるべく、君の前で格好つけていたいけど、出来る気がしないんだ。」

 「え?」

 

 思わぬ解答により、漏れた驚き。にも関わらず、千里ちさとくんは止まらない。


 「自信も、勇気もない。幻滅されて、離れられるかもしれないって、そんな嫌な考えばかり浮かぶ。だから、それならいっそ、付き合う必要もないかもしれないなんて、思ってた。だから、」

 「……………ごめん!少し待って!」

 「?うん。」


 状況が理解できないので、手を突きだして止まってもらう。


 私の思い違いでなければ、今、彼が語っている話から察するに、


 「つまり…千里ちさとくんは私のこと好きでいてくれてるってことなの?」

 「だ、だからそう言ってるでしょ!」

 「言ってないよ!!自信がないとか勇気がないとかしか、言ってない!数秒前の言葉思い出してよ!」

 「……………言われればそうかも…。」

 「そうだよ!!」


 変に声を張ったので、妙な疲れがやって来た。


 しかし、頭が冷えて感じるのは喜びだった。

 

 千里ちさとくんは、私を好きでいてくれたのだ。好きな人が自分を好きでいてくれるというのは、奇跡に近しい出来事である。そして何より、喜びだ。


 「ご、ごめんね。その、さっきの話、続けて。」

 「………君が中断させたから忘れた。」

 「…じゃあ、私が話していい?」

 「どうぞ。」


 今の想いを、喜びを、伝えよう。そう思った。


 「……私は、さっきも言ったけど千里ちさとくんが好き。自信がなかろうが、勇気がなかろうが、大好き。幻滅するとか、そんなの有り得ないよ。だって、今まで色んなところを見せてもらったんだもん。」


 意地を張って冷たく接する所や、たまに見せる優しさ。母親を幸せにしたいと願う姿。そのどれもが、私にとって大切な記憶で、大好きな姿だ。


 「だから、今日は答えを聞きに来たの。千里ちさとくんの口から、ちゃんと聞きたい。」

 「………………僕は……。」


 よろけるように、千里ちさとくんは視線を下げて一歩下がる。しかし倒れ込むことはなく、踏みとどまって顔を上げる。


 「僕も、君が好きだよ。僕みたいなのと、わざわざ関わって、物好きだって思ってた。けど、そんな物好きに救われた。一緒にいて、楽しかった。」

 「…………千里ちさとくん…。」

 「!?」


 思わず駆け寄り、抱きついてしまった。これ以上、言葉で表す事ができなかったのだ。自ずと身体が動くまま任せる他なかった。


 「好きだよ!私も、好き!」

 「……………僕も。好きだよ。」


 そのまましばらく抱き合う。


 このまま生徒が来なければ、とも思ったがそういうわけにはいかないだろう。


 身体を離して向かい合う。


 「それじゃあ、今日からよろしくね。友達として…じゃなくて、恋人として…!」

 「……………ん。」

 「じゃあ、私、教室行くね!」

 「うん。その、また。」

 

 遠くから他の生徒の声がした。今日も授業が面倒だとか、そんな会話だ。


 それを耳にしながら、私は千里ちさとくんへ手を振る。


 足は不思議と軽く、天にも登る心持ちだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ