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忙し騒がし妖かし達  作者: とんぼ。


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96.格好良く

 分厚い雲に覆われた空の下。夕暮れ時だというのに、その様相をあらわにしないぼんやりとした一日が終わろうとしていた。


 少年、荒井あらい 千里ちさともまた学校で過ごす一日を終えて下校する最中である。


 昇降口を出て正面にある校庭を突っ切る。


 「荒井あらいくん。入っていきませんか?」

 「?」


 声の方向へと顔を向けると、そこには白いドーム状の物体があった。察するに雪で出来たかまくらだろう。


 中からは教師である大里おおさと 人志ひとしが手を振りながら姿を現す。


 「先生。何してるんですか?」

 「よくぞ聞いてくれました。実は、かまくらの中でお鍋をしているんです。」

 「な、なべ…。」

 「はい。よければ食べていって下さい。」


 よければ、とは言うものの大里おおさとの腕はいつの間にか千里ちさとの背へと回っていた。

 

 千里ちさととしても、丁度小腹が空いていたので満更でもなかったが。


 「おじゃまします。」

 「どうぞ、座ってください。」


 勧められるまま、長方形の木でできた椅子に座る。


 かまくらは案外大きく、並ぐらいの背丈であれば3人ほど入りそうだ。


 中央には角張ったテーブルが置いてあり、上にはぐつぐつと煮えたぎっている鍋が香りを運んでくる。


 「お餅も入っているんですよ。さっ、どうぞどうぞ。」

 

 お椀を手渡される。


 具材は一般的な鍋同様、豚肉や白菜が入っていた。


 「いただきます。」


 小さくお辞儀をしてそれらを運ぶ。


 温かな食材は喉を通り、胃袋、そして全身を内から温めていく。


 「どうです?」

 「…………美味しいです。」

 「それはよかった。」


 大里おおさともまた手にしていた自身のお椀で食事をする。


 そんな様子を横目に、千里ちさとは熱を帯びる指先を見てふと溜息を漏らした。


 「何か悩み事ですか。」

 「…………………そう、ですね…。」

 

 答えあぐねる千里ちさと。だが、大里おおさとは決して急かしはしない。彼はのんびりとした調子で静かに鍋の汁をすする。


 奥底に沈殿したものを、なんとか言葉にしようとねにねるが、一向にまとまらない。


 だが遂に気持ちがはやり、心の内を吐き出すことにした。


 「その…。実は…告白を、されたんです。」

 「ほぅ。」


 大里おおさとの目が光る。


 鍋をつついていた手を止め、真剣な眼差しで目前の生徒を見た。


 「それで、返事はどうしたんです?」

 「…………返事は、して、ないです…。誤魔化した、というか。」

 「それはどうしてですか?」

 

 責め立てるような口調でなく、純粋な疑問として優しく問う。


 「自信がないからです。……相手から貰ったもの、全部返せるような自信がないんです。」


 僅かな沈黙。


 のち大里おおさとはテーブルにお椀を置いて言う。


 「自信がない…ですか。そのことをお相手には伝えましたか。」

 「伝えては、ないです。」

 「なら、まずはそこからです。」

 「え?」


 良いですか、と前置きをしながら大里おおさとは人差し指をたてて左右に振る。さながら教師が教壇に立っているような雰囲気だ。実際に彼は教師であるわけだが。


 「貴方がそのお相手をどう思っていようと、口にしなければ伝わりません。……自信がない。それは結構です。しかし、貴方の内情など自ら表現しなければ理解は出来ません。」

 「…………それは、そうですけど…でも…。」


 追いすがるように千里ちさとは言葉を濁す。


 そして、ほんの少し、小さな声が漏れた。


 「か、かっこ悪いじゃないですか…。」

 「……………。」


 大里おおさとは驚き目を見開く。彼にとっては予想外の答えであった。


 「…………今までかっこ悪い姿をちょっと見せましたけど…でも、出来るならあまり見せたくないっていうか……やっぱり格好つけたい、というか…。」

 「……ふふっ。なるほど。」


 頬を緩ませて笑いかける。


 「荒井あらいくん。少なくとも私は、物事を曖昧にして逃げてしまう方が格好悪いと思いますよ。決断すべきときは決断を、行動すべきときは行動を。それさえすれば、自ずと格好もつきますから。」

 「……………簡単に言いますね。」

 「言うは易し、ですから。…そうです。不安でしたらコレを。」

 「?」


 懐から取り出したのは手触りのよい、紫色のお守りであった。表には金字で刺繍が施されている。


 「お守り…ですか。…ありがとうございます。色々ご利益ありそうですね。」

 「ふっ。以前、山吹やまぶきさんにも言われました。」

 「か、かえでに…ですか。そう…ですか。」


 途端に動きがぎくしゃくと不自然になった。


 隠しきれぬ動揺を察した大里おおさとは少し魔が差し、口角を上げる。


 「おや。かえでさんと何かありましたか…?あぁ。もしや、先の話は…。」

 「ぼ、僕はこれで失礼します!!お守り、ありがとうございました!!」

 「まだお餅が沢山ありますよ?食べていかないのですか。」


 大里おおさとは意地が悪く、空いた千里ちさとのお椀に次の餅を投入しようとしていた。


 「っ、た、食べたい…です、けど…いえ!今日は失礼します!!」

 「残念。では、私はひとり寂しく鍋を囲むとします。……あぁ。侘びしい侘びしい…。」

 「そんなこと言われても…僕、失礼しますから!あ、純麗すみれでも呼んできますから!それじゃあ!」


 走り去る背中を見送り、大里おおさとは椅子に座り直す。


 少し虐めすぎたかと思いつつも、生徒の淡い想いを垣間見ることが出来たので、心なしか満足気であった。


 

 

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