93.微熱 37.4℃
地蔵を倒した翌日。普段通りの登校日。
変わったところと言えば、少し前に見知った人の後ろ姿があることぐらい。
その人は荒井千里。私と同じく妖怪の血を引く少年だ。
友人であり、仲間でもある。
が、私にとってはそれだけではない。
彼はいわゆる想い人だ。
しかし、いやだからこそ。今、彼に話しかけるのは躊躇してしまう。
というのも、昨日、告げられた千里くんの言葉が原因だ。
彼は言った。
私が大切な人なのだと。
その大切という意味は、私と同じだろうか。
出来ることなら長い時間を2人で歩んでいきたい、そんな気持ちの大切だろうか。そうであれば嬉しいが自惚れてはならない。
答え合わせをするのは躊躇われた。
だというのに。
こんな時に限って、先の信号は赤。
私は千里くんと鉢合わせになる他なかった。
「お、おはよう千里くん。」
ぎこちない調子で手を振る。なるべく自然に、彼を意識してしまわぬように。
「おはよう。………どうかした?風邪?」
「え!?風邪!?なんで!?」
「いや。顔真っ赤だから。」
予想外の指摘を受けて、身体のバランスを崩す。
よろけた拍子に、千里くんの手が伸びる。
「ふらふらだし…やっぱり風邪じゃない?」
「ま、まさかぁ。その…これは…寒いから!そう!寒いから!だから、走れば大丈夫!うん!」
至近距離にあった顔から離れるように、信号が青になった瞬間、走り出す。
道路は除雪されており、横断歩道の白線は所々薄れながらもしっかりと主張をしている。
信号を渡りきってもなお、私は小走りで進む。
「楓。凍ってるし危ないんじゃ…」
「へ、へいきっ、あっ!?」
「…………ほら。言わんこっちゃない…。」
転ぶ寸前、身体の向きを変えて脇の雪へと倒れ込んだ。
それにより顔を強打することはなかった。
「大丈夫?」
やや呆れを含んだ溜息と共に、手を差し伸べられる。
「う、うん。だいじょう、」
恥ずかしさとやはり寒さで上がる体温。しかし、ここにきてそれはさらに上昇した。
突然、伸びてきた手が私の額に向かったのだ。
「やっぱり風邪だと思う。おでこ熱いし。……?楓?」
私はもう限界だった。
「楓?楓!?」
煩い心臓の音と千里くんの声。
その2つを耳にしながら、怠い身体が確かに脱力するのを感じた。
私の意識はここまでだった。




