91.妖力トレーニング④
妖怪になってしまう神を止める。
私はそう決意した。
考えがないわけではない。確証はないが、これからそれは得られればいい。
想いを胸にしていると、神が口を開く。
「妾はこれでも神だ。妖怪になる時、他の妖怪を従えるやもしれん。」
「……なるほど。でも、大丈夫です。きっと、何とかします…!」
妖怪が何体立ちはだかろうとも、私は必ず神を妖怪にはさせない。今ある自我を失い、ただ暴れ回るだけの存在になるだなんてあんまりだ。
「待っててくださいね。きっと、方法を見つけ出して来ますから!」
そう言って神社をあとにする。
向かったのは自宅。ここで、試したいことがあるのだ。
玄関から2階へ上がり、自室に。
私の部屋には背丈ほどの姿見がある。その前に立ち、映る自分を見た。
「…………ふぅ。」
心を落ち着かせ、指を組む。
「………『皆』。」
鏡越しに、自分に向けて『皆』を発動させた。
効果は瞬時に現れる。
爪先から踵に至るまで、今この瞬間、自由が効かなくなる。私の意思では身体が動かないのだ。
しかし、呼吸は出来る。
瞬きは出来ず、呼吸は可能。そして意識もある。
私は確かな結果を頭に刻む。
暫くすると身体の自由が戻ってきた。
「……よし。次。……『皆』。」
一拍おき、再び『皆』を発動。だが、先と同じくではない。
次は下半身に集中して、唱えたのだ。
その効果はしっかりと現れる。
足が動かない代わりに、上半身は思うがまま動かせた。
「これなら……。」
暫く待ち、全身に開放感が漲る。
これでひとつの仮説がたてられた。
私の『皆』が部分的に作用できるのならば、それは妖力や神力でも同様なのではないか。
つまり、『皆』を使って、神力の流れを止めることが出来るかもしれない、ということだ。
もしそれが可能であれば、神が神力を使い果たして妖怪に成り果てることもない。
仮説を確かめるためにも、再び腕を伸ばして指を組み合わせる。
「『皆』。」
次に意識するは妖力。私の血とともに流れる不可視の力。
それらは見えずとも、いつも私の側にあり、両親やそのまた両親、先祖代々と受け継がれるモノ。
「…………………。」
音が聞こえた。
穏やかな川のように、ちろちろと静かに水が流れる音。
いつしかその川は音だけでなく、私の視界に重なるように染み込んでくる。
目前にあるのは姿見とそれに映る自分自身。だが、今はそれだけではない。
白い紙に垂らした墨汁が乾いたように、視界には確かに川が見えた。
絶えず動く川。普段よりも情報量の多い視界に頭がくらくらしてくる。
しかし、正気を保つようにはやる心臓を鎮める。どうにか、妖力の流れを止める為に。
「…………………!」
その時、重く鈍い身体が解き放たれたかのような感覚になる。
それすなわち、『皆』の発動がうまくいったのだ。
これで私の仮説は確実な真実となった。
妖力のみを対象にした『皆』の発動は可能。であれば、自ずと減りゆく神力のみを止めることだって可能なはず。
「これなら…うまくいく!」
あとはタイミングだ。
今の神が代替わりしたあと。その瞬間に神力の流れを止め、妖怪化を防げばいい。あとは、その時を待つのみだ。




