表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忙し騒がし妖かし達  作者: とんぼ。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
103/117

90-2.いつだってすぐそばにあった

 地蔵の細長い腕が動き出す。刀もまたしなるが、私達には届かない。近づけさせるわけにはいかない。


 隣では先生や千里ちさとくん、純麗すみれちゃんが各々水や炎を生み出し、地蔵へとぶつけている。

 だがそれも、あの長い刀で真っ二つにされてしまう。


 「厄介だな…!」


 千里ちさとくんがじれったい声を出す。


 確かに彼の言うとおり、地蔵の持つあの刀は面倒以外の何物でもない。どうにかしなければ。

 そうだ。動きを止めればいい。そうすれば、刀を振るうことはかなわず、先生達の攻撃だって直撃するはずだ。


 「…私に任せて…『かい』!!」


 手を組み、地蔵の方へと向ける。


 そして唱えた『かい』は相手の動きを止める術だ。


 これならば刀の脅威もなくなるはずだ。と、そう思っていた。


 しかし、無情にも地蔵の動きは止まらない。


 「な、なんで…。『かい』!『かい』!『かい』!!」


 何度唱えても、地蔵の動きは変わらず。


 「落ち着いて下さい。山吹やまぶきさん。」

 「……先生。でも、『かい』が、!」

 

 つい、食いつくように声を荒げると千里ちさとくんが間に入ってきた。


 「落ち着きなよかえで。妖力を使うには集中しなきゃいけないでしょ。……それに、そもそもアイツには『かい』が効かない可能性だってある。兎に角、思い詰める必要はないよ。」

 「………………うん。」


 気遣いを感じさせた彼の言葉が突き刺さる。その優しさが、今は私に追い打ちをかけた。


 第一、あの地蔵が暴れているのは私が原因なのだ。だというのに、ソレを止めることさえ叶わず、役には立たない。


 どうして私はこうなのだろう。


 特別に固執したかと思えば、友人を傷付け、みんなと戦うことさえ出来ない。


 「ごめん。」

 

 小さく呟く。


 謝る資格さえないのに。


 その時、地蔵と対峙している先生が言う。


 「みなさん。このままではジリ貧です。なので、一度撤退して策を練りましょう。」

 「撤退、ですか…?あの地蔵はどうするんです。」

 「私が拘束します。……ただ、今のままでは不可能です。なので、みなさんに頼みがあります。」


 振り向いた先生が真剣な眼差しで私達を見る。


 地蔵は未だ、不気味な笑い声を発していた。


***

 校舎の中、真っ白な廊下を走る。


 廊下の一部に設置してある水道、それが私の目標だった。


 「は、はぁ、はぁ。」


 浅い呼吸をしながら水道の蛇口をひねる。そこからは冷たく清潔な水が流れ出した。

 かと思えばそれは、意志を持つかのように何処かへと移動する。


 水が行く先は校庭だ。


 水を操る先生が校内中の水を使用するために、私と千里ちさとくん、純麗すみれちゃんは分担して校内の水をかき集めている。


 私の担当は今の蛇口で最後だ。あとは校庭に戻って、皆と合流するだけ。


 「……………戻らないと。」


 だが、本当にこのまま戻っても良いのだろうか。


 私はよう狭間はざまの異変の原因を知っている。だというのに、身勝手な理由で現状を保とうとしていた。


 正直、今でも自分の力を封印することなんて考えていない。純麗すみれちゃんが傷ついたというのに。


 何故なら、私の座敷わらしの力を封印してしまえば、ただの群衆に埋もれてしまう。誰もが素通りしてしまうような、なんの個性もない凡人になってしまう。


 それは嫌だった。


 純麗すみれちゃんや、千里ちさとくん、大里おおさと先生のような特別がなければ、皆と居られない。


 皆といる資格が、妖怪の血であり、特別なのだ。


 「………………。」


 迷いの中、校庭を目指す。


 「かえで。そっちは終わった?」

 「!千里ちさとくん…!」


 廊下を曲がった先に千里ちさとくんがいた。自然と私の瞳は彼を映さないように動く。


 「……うん。千里ちさとくんも?」

 「あぁ。早く先生の所に戻ろう。」

 「…………そうだね。」


 千里ちさとくんの後ろを走る。彼の背はいつだって頼もしい。初めて出会った時も妖怪から助けてくれた。

 

 彼は強く、聡明だ。私とは違う。


 「………ねぇ、かえでなにかあったの?」

 「え?」


 振り向かずに続ける。


 「なんか、様子変だから。」

 「……何もないよ。」


 そう答える他なかった。今更、この状況は私が原因だなんて言い出せるはずもない。


 「何もないって…いかにも悩んでますって風なのに、そう言われても。」

 「別に悩んでないよ。気の所為だよ。きっと。」

 「………どうかな。かえでほどじゃないけど僕の勘だって当たるんだ。何かあるなら教えて。」

 「…………………。」


 包まれるような優しい語尾や、その声音で、いっそう息苦しさを増す。


 「…………………。」


 言えっこない。醜い本心を打ち明けることへ恐怖が募るばかり。


 そんな私の様子をみかねたのか、千里ちさとくんは小さく息を吐く。ため息なのだろうか。きっと、彼を困らせてしまっている。


 「……あのさ。かえでは僕が妖怪になりかけた時のこと覚えてる?」


 突然の話題に驚きつつ、頷く。


 「う、うん。」


 確かあれは数週間前。千里ちさとくんが人から妖怪へと変貌した時。その時、私は純麗すみれちゃん達と千里ちさとくんを呼び戻しに行ったのだ。


 「あの時さ。君が僕にも幸せになって欲しいって、僕が大切な人だって、言ってくれて嬉しかった。」

 「………………。」


 彼が何を言わんとしているのか分からない。だが、静かに耳を傾ける。


 「母さんが手を伸ばしてくれたことも、純麗すみれや先生が助けに来てくれたことも、全部嬉しかった。」

 「………………そっか。」

 「だから。あの時の君と似たような事を言うよ。」

 「え?」


 千里ちさとくんは突如振り向く。


 心の準備が出来ていなかったので、走っていた勢いのまま、彼の胸板にぶつかった。


 「………僕にとっても、君は大切な人だから。だから、あんまりひとりで悩んでほしくない。僕に出来ることなら協力するからさ。」

 「…………………………千里ちさとくん……。」


 丁度抱き寄せられるように、脱力した私の身体が千里ちさとくんの腕に支えられる。


 彼の出す音、全てを拾ってしまうほどの至近距離。普段であれば恥ずかしくなり、離れてしまうが今はそれが叶わない。


 「…………ちさと、くん……あのね……。」


 喉から出る言葉はつっかえつっかえだ。目尻に熱が籠もっているような気だってする。


 「わたし……わたしの、せいなの。あの、地蔵が暴れてるのも……。純麗すみれちゃんが、怪我、したのも……。」

 「………どうしてそう思ったの?」

 

 諭すように優しい声だった。不思議と幼い頃、母に慰められた記憶が蘇った。


 「……わたしの……座敷わらしの血の、せいなの。………私の力は、幸運を呼ぶんじゃない。……私にとっての幸運、都合の良い出来事を呼び起こすの。…………だから、」

 「だから、よう狭間はざまに異変が起こった?」

 「うん………。きっと、願ってたんだ。妖怪の力を見せつけられる、そんな、特別な機会が欲しいって………他の人とは違うんだって、思いたかったから……。」

 「………………そう。」


 ふと背中に手が当てられる。


 子供をあやすような穏やかな手つきは一定のリズムで心を鎮めようとしていた。


 「事情は分かった。」


 少し上から柔らかな声が降ってくる。


 「………かえで。君は心配しなくても特別だよ。」

 「…………え、」

 

 見上げた先には僅かに口角を上げた千里ちさとくんの顔。


 「言ったでしょ。君は僕の大切な人だって。だから、特別だよ。………それじゃ駄目?」

 「え、………あ……」

 

 言葉だとは思えないほど、意味のないただの声が意図せず勝手に漏れ出す。


 そんな私に構わず、千里ちさとくんは手を肩に置いて言う。


 「きっと僕だけじゃないし。君の家族も、純麗すみれも、先生も、君のことは大切だと思ってる。だから、君はもう特別だよ。」

 「…………………そう、なのかな……。」

 「でないと一緒に居ないんじゃない。君のことを育てるのも、一緒に教室で過ごすのも、気にかけるのも、大切で特別だからでしょ。」

 「……………………。」

  

 どうしてこれほど簡単なことに気が付かなかったのだろう。


 私は、こんなにも周囲の人間に恵まれていたのだ。こんな私を大切にしてくれている人がたくさん居たのだ。


 それだけで、自分が特別だと分かるだろうに。


 いや、もう特別だとかそういうのはどうだっていい。


 特別でなくても、誰かの大切になれたのならば、それ以上の幸せなんてないだろう。


 「…………ありがとう、千里ちさとくん。」

 「……ん。」

 「皆と合流しよう…!」

 「了解。」


 少し濡れた目尻を拭い、再び校庭を目指す。


 迷いはない。私がすべき事ははっきりしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ