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忙し騒がし妖かし達  作者: とんぼ。


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90.おかしい

 地蔵から逃げるように山を下る。


 私はいつの間にか駆け出していた。いち早く、あの地蔵から離れたかった。


 しばらくすると剥き出しになった木の根に座る少女もとい神の姿が見えた。彼女は私の足音に気が付くと顔を上げる。


 「!戻ったか…!神には、会おうたか?」


 彼女の言う神があの地蔵だということは予想がついた。


 私は僅かに唇を震えさせて、話す。


 「あ、会えたんですけど、話は、出来ませんでした…。」


 真っ赤な嘘だ。


 残念ながら地蔵とは会話らしいものは出来てしまった。知りたくないこと、認めたくないことを、聞いてしまった。


 「…………そうか。」


 神は不思議と安心したような、ひとつの感情では言い表せない複雑そうな面持ちになる。


 彼女は知っていたのだろうか。


 私がよう狭間はざまに異変をきたしていたことを。

 

 私のせいで、大里おおさと先生や純麗すみれちゃん、千里ちさとくんに迷惑をかけていたことを。


 直接聞くことは躊躇われた。


 だが、心の奥底で納得してしまった。


 座敷わらしの血を引いているというだけで、都合よく異変のあるよう狭間はざまを見つけられるだろうか。


 ただ勘が良いだけで、可能なのだろうか。


 もし。


 私が異変のあるよう狭間はざまを求めていたのならば説明がつく。


 妖怪退治という口実があれば、私は皆といれる。そのおかげで、今まで皆と仲を深められた。

 だからきっと、これは私の責任なのだろう。


 解決する方法は知っていた。


 神に私の妖力を封じてもらえば良いだけだ。


 だというのに、私は言い出せずにいる。


 手放したくないと、醜い感情が顔を出している。


 何故なら、私から妖怪の血を抜いてしまえば何も残らないから。


 頭が良いわけでもなく、運動ができるわけでもなく、人徳があるわけでもなく。

 だから、縋りたかった。血筋でも、未知の力でも、何だっていい。兎に角、皆のように何か光るものが欲しかった。


 そうでなければきっと、純麗すみれちゃんの横にも、千里ちさとくんの近くにもいられないから。


 2人は私と違って特別だから、私もせめて特別の欠片ぐらいは持っていたい。


 「疲れたじゃろう。今は帰らんとな。」

 「………はい。」


 ひどく優しい神の態度が、胸をうつ。


 私にはきっと、そんな資格はないのに。


 そう思っても、卑怯な自分は真実を告げられずにいる。

 皆といるため、特別を手放さないため、今は黙っていようと心に決めるのだった。


***

 潮儿山ちょうにんやまから帰った翌日。


 今日も変わらず登校日だ。


 すっかり見慣れた雪と共に学校へと行く。


 「おはよー!かえでっち!」


 後ろから衝撃がはしる。


 どうやら純麗すみれちゃんがぶつかってきたようだ。


 肌が引き締まるような寒さにも負けず、彼女は元気が有り余る様子。


 「おはよう純麗すみれちゃん。」

 

 純麗すみれちゃんに変わった様子はない。そのことに安堵してしまう。

 まだ、よう狭間はざまがおかしくなった原因が私だとは気付いていないようだ。


 判断材料がないのだから、当然ではある。


 「いやー。もう2月かぁー。」

 「早いよね。」

 「ねー。あっという間に2年になりそー。」

 「あははっ。確かに。」


 他愛もない話をし続けたいと、心底願う。


 だが、そうもいかない。


 「そーいえばさ。」


 たったひと言に強い警戒心を抱く。


 次に来るであろう話題が、私の心を強く揺さぶる。


 「異変のあるよう狭間はざまって、そろそろきそーじゃない?」

 「…………どうして?」

 「え?だって、ほら。一ヶ月に一回ぐらいのスパンで来るってちさとっちが言ってたから。」


 確かに千里ちさとくんがそんなことを言っていた覚えはある。


 そのことに、ほんの少し恨めしく思った。


 「………まぁ、でもだいたい一ヶ月くらい、ってことじゃないかな。」

 「あー、そっか!ちなみにかえでっちの勘はなんて言ってる?もうそろ、どっかに出現しそーとか、ある?」


 再び嘘を重ねにいく。


 「ううん。特には。」

 「だよねー。まっ!その時になったらまた3人でよーかい退治行こ!」

 「…………うん。」


 私をちっとも疑わない、真っ直ぐな瞳を見ることが出来なかった。


 彼女はきっと、夢にも思わないだろう。


 ここ数ヶ月の異変が、私のせいだなんて。


 『おかしい!おかしい!』

 「!?」


 ふと、例の地蔵の声がし、立ち止まる。


 「?どしたの。かえでっち。」

 「う、ううん。何でもない。」


 周囲には地蔵の姿など無かった。だが、未だ私の耳、いや脳裏には喧しい地蔵の声が響いている。


 『おかしい!おかしい!おかしいオマエは可笑しい!』


 その通りだった。


 己の陳腐な欲のために、嘘を重ねる様はおかしく、そして可笑しい。


 しかし、そう思われようとも引き返したくはなかった。


 私の力を、特別を、失いたくなかった。

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