目的と手段を履き違えている
強制送還されてもやもやしたじーじが次の日、再びノアの商店に訪れると、そこには張り付いた笑顔で接客するウグイの姿があった。
「そんなバカな!?」と驚きを隠せないじーじだったが、昨日から敏感になっていた感覚でウグイの現状を把握することができた。
ウグイの周りにいたエルフとメイドはウグイの一つ一つの仕草を観察していた。
少しでも期待していない動きをするとウグイに圧がかかっていた。
あれだけ傲慢だったウグイもノアの配下の手によれば子供と変わらないようだ。
ウグイに助け舟を出すことは自身の首をしめることになる。
ウグイを見て見ぬ振りをしてノアのいる商館に入っていった。
そこには野菜を買い求めた客と野菜で回復した付近の住人がお礼に来ていた。
じーじを見つけたワイドはすぐに駆け寄ると上階に連れて行った。
「あれ、また来たのか?」
ソファでくつろいでいたノアはつまらなそうに呟いた。
「またとはなんじゃ。あれだけのことをしておいて、その口ぶり。なんとかならんかのぅ?」
「ならん。これが平常運転だ。それで今日はどんな用だ?」
「お礼を言いに来たんじゃ」
「お礼?」
「ウグイを助けてくれたことじゃ」
「助けた?」
「そうじゃ。だってウグイはあそこで働かされておるが生きておるじゃろ?」
「そうか?あいつは死にたいって言ってたけどな」
「何したんじゃよ……」
「秘密だ」
のほほんとした態度に油断していたじーじは、改めてノアを観察してその隙のなさに気づけた。
「こやつ、侮れんな」と心に潜め、会話を続ける。
「ウグイに関してじゃが、ノア達を賠償を求めたりなにかを求めることはない」
「そうか」
「あとこれは謝礼じゃ」
「んー?これは?」
じーじが取り出したものは一枚のカードだった。
「これは商人ギルドで発行してる証明書じゃ。これさえあればこの街のどこで商売をしようと問題は起きない」
「へぇ、そいつはすごいや。許可もいらないのか?」
「いらん。優良商会にそんな拘束したところで街を離れられるだけじゃ」
じーじはノアを逃がす気がない。
「それで用は終わりか?」
「いや、終わりじゃない。一つだけ頼みを聞いてくれぬか?」
「なんだ?」
じーじは深刻そうに言う。
「どうかノアの野菜をこの領内に配布してもいいか?」
「野菜を?なんで?」
「魔力欠乏症じゃ」
「あぁ、そっか。それがあったな。いいぞ」
「いいのか?」
「輸送もしてやるよ」
「ええ!?」
「うちのも暇にしてるからな、たまには慈善事業をやらんとな」
「助かる……」
「じゃあじーじにはこの商会にその村や街の顔見知りを連れてきてくれ。俺たちだと信用にかける」
「わかったわい!」
じーじは二つ返事で有力者を集めに行った。
ノアは店にいたエルフと暇そうにしていたメイドと執事を集めて部隊を結成していく。
護衛に見た目が厳ついウルフを連れていかせる。
じーじの準備が整うと、すぐに行動にうつる。
街や村にはノアが転移門をつくって向かわせ、次々と野菜を運び込んだ。
報酬はもちろんいただく、その街や村の工芸品や料理のレシピ、そこにしか生息しない家畜などなど。
急速に領内のものを手に入れた。
本来であれば旅をして少しずつ集めるものなのだが、めんどくさがりなノアは手間暇を省いた。
旅の目的がなくなったことでまた旅を出ることが遠のいてしまったことに覗き見をしていた女神は悔しそうにしていた。
果たしてノアが旅に出かけることがあるのだろうか。
そんなノアの思惑など破壊するかのように、神聖マキュナ教公国はこの国、アルテナ帝国を侵略している。
ノアのもとへらその知らせがたどり着く頃にはノアの平穏は壊れていることだろう。




