野菜の魔力
領主の屋敷から出ると、先程の警備兵が深くお辞儀をしてきた。
「大変申し訳ございませんでした!」
「……わかればいいよ。それにしても執事もだったが、お前たちも顔色悪いな」
「はっ、こ、これは魔気を浄化するために魔力を使用しすぎた副作用です……」
「魔気?なんだ、それ」
ノアはこの世界に最近来たばかりで地域特有の病気を知らなかった。
無知なノアに対して咳払いをしてヒルデが注目を集めて説明を始めた。
「魔気というのは空気中に漂う魔力のことですよ。人族にとっては害悪なものなので、この環境下では衰弱してしまうのですよ」
「ふーん、それって治すことできるのか?」
「魔力を補給するか、魔気に耐性をもつ。あとは都市核で魔気を遮断するかですね」
「つまり、ここには都市核がないのか?」
「そこが謎ですが、領主に考えがあるか、もしくは領主の上の存在に奪われてしまったかですね」
「なるほどな。俺がなにかできるわけでもないしな。とりあえずこれでも食って元気だせ」
ノアは何もない場所に手をかざし、そこからプチトマトが入った袋を取り出した。
その袋を警備兵に渡した。
「これは……?」
「プチトマトだ。うちの畑で育てたやつでな。ドライアドの話では魔力が潤沢に含まれてるらしい。その病気も少しは改善するはずだ」
「いいのですか!?」
「そんなに驚くことか?まぁいいや。俺達はこれで商いを始めるつもりだ。何かの縁だ。買いに来たらおまけでもつけてやるよ」
そう言ってノアは警備兵に別れを告げた。
ヒルデを連れ、ワイドがいると思われる商人ギルドへ訪れた。
そこにはやはり顔色の悪い人が多くいた。
「ここもか」
「ですね。ワイドはどこでしょうか?」
「んー、あっちだな」
「よくわかりますね」
「なんとなくだよ」
ノアはワイドの位置を把握すると人混みを抜けていく。
その先には廊下があり、たくさんの部屋が立ち並んでいた。
通路に来るまでに受付があったが、知り合いがいることを伝えると快く行かせてくれた。
ノアとヒルデは貴族にも見えれば金持ちにも見える。
ノアは先頭を歩いていくと、ある部屋の前で止まった。
「ヒルデ、そこ危ないぞ」
「え?」
ノアがヒルデの腕を引っ張ると、ヒルデがいた場所に鎧の男が壁を突き破って飛んできた。
「うぐぅ!?」
さらにその先の壁も突き破った鎧の男は唸り声をして倒れた。
ヒルデがそわそわしていると、ノアは鎧の男が出てきた部屋へと入っていった。
そこには応接するワイドと一人の高級そうな服を着た恰幅のいい男がいた。
男の後ろには先程の男と同じ鎧を纏った男がいた。
その男はワイドを睨みつけて身構えていた。
「ワイド、買う土地は決まったか?」
「おや、ノア様ですか。お早いですね。まだ決まっていませんよ。少々取り込み中でして……」
「なにか問題でもあったか?」
「はい、この身勝手な商人が私達が作っている野菜、畑ごと引き渡せと申してまして」
「なんだそれ、んなもの無理に決まってるだろ」
「ですよね。何度言っても聞かないのですよ、まったく困ったものです」
ワイドはちらちらと商人を見て煽った。
商人は怒鳴りつけた。
「誰だ貴様は!?それはいい、畑を寄越さないとはいい度胸だな!この私に対して!」
「猿がうきゃうきゃと元気ですね。畑はいくら払っても売ることはできませんので、お帰りください」
「なんだと!?」
さっき来たばかりのノアからしたら、理由もなく畑を買おうとしている。
ノアは商人を無視してワイドを連れて行こうとする。
「暇つぶしはそれくらいにして土地を買いに行こうぜ。魔物の素材は売れたんだろ?」
「ええ。少し騒ぎにはなりましたが、十分な資金は手に入れました」
「それならよかった。こいつが土地を売ってくれるわけでもないんだろ?」
「商品を提示したときに絡んできただけですね。ノア様が来るまで暇でしたので、相手をしていたのですが、いつの間にか面倒なことになってて助かりました」
ワイドもまた商人に興味は持っておらず、ノアに着いていくように立ち上がった。
「どこへ行く!」
「こいつ言葉下手くそだから無視でいいぞ」
「ええ、そうですね」
ワイドを捕らえるためにまだ元気な鎧の男が腕を掴もうとするが、既のところで見てない壁に指をぶつけて突き指した。
「うっ、なんだこれは!?ウグイ様、出られません!」
「なにぃ!?」
お猿さん達が大騒ぎを始めたが、構ってる暇はない。
そそくさと部屋を出ていくとワイドに注目が集まった。
「ワイド、なんかしたのか?」
「何もしていませんよ。おそらく私が持ってきた野菜の魔力に惹かれたのでしょう」
「魔力欠乏症か。厄介なタイミングで来てしまったな」
「ホントですね。あの面倒な商人の相手をしてましたが、土地を売ってくれる場所も聞けましたのでそこに行きましょう」
ワイドに案内されて向かったのは商人ギルドの受付だ。
「あら、ご知り合いには会えたようですね」
「あぁ。店をやるんだが、いい土地はないか?」
「そうですね……ここなんかどうでしょうか?」
受付嬢にカウンターの上に地図を置き、中央にある場所を示した。
「ここなら建物がありそうだが?」
「建物を含めてとなりますね」
「土地だけでいい。廃墟があってもいいぞ。壊せばいいからな」
「でしたら、ここなんてどうでしょうか?昔、貴族が住んでいた屋敷ですが、もう数十年も放置されてます」
示した場所は中央から離れた外壁に近い。
「ここなら結構な広さがありそうだな」
「ええ、領主様のお屋敷に並ぶほどの大きさがありますから」
「よし、ここにしよう」
「結構なお値段がしますが……長年放置されたこともあり、本来の価値の十分の一になってます」
「なおさら買えそうだな」
「貴族様のお屋敷でしたので、身分証はございますか?」
「冒険者ギルドのやつと、あとはこれだな」
「こ、これは!?少々お待ち下さい!」
「ん?あぁ」
ノアが出したのは領主から貰った紋章だ。
それを見た受付嬢は、ノアに一言いって奥へと向かった。




