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俺なにかやっちゃいました?

 あの領主がいる街に店を構えることにしたノアは、ヒルデを連れて街へと訪れていた。

 距離をゼロにすることができるノアにとって散歩と変わらない。

 非常識であることに変わりないが、このことに関してヒルデは慣れきっていた。


 街が近づくにつれ、いつもの列が見えてくる。

 今回は領主からもらった紋章があったため、門番に止められることなく街へと入ることができた。


 護衛には暇そうにしていたと理由でワイドを連れてきている。

 ワイドには森で手に入れた素材を売ってもらい、そのお金で店舗を建てる土地を買う予定だ。


 その間、ノアは領主の元へ挨拶に向かった。

 門まで来たノアだったが、声をかけても反応すらされなかった。


「なぁ、領主に会いに来たんだけど、入っていいか?」

「……」


 ノアが顔色の悪い警備兵に話しかけた。

 しかし、彼らはノアを見ても相手取ることはしなかった。


「領主に会いに来たんだけど?無視ですか、そうですか」

「先触れもしていませんでしたし、気づいてないんでしょうか?」

「さぁな。だからと言ってなにもせずに帰るなんて真似はしない。ここは大人しく正面突破だ」


 子供の戯言、メイドを連れているとはいえ、この街の領主に会いに来る態度ではない。

 そう判断した警備兵たちはまるでノアがいない振る舞いをした。しかしそうも言っていられないことを口走り始めたことに警備兵が気づいた。


「ここは領主様のお屋敷だ。不審者よ、それ以上騒ぐなら詰め所に連れて行くぞ」

「知ってるよ。だから来たんだ。客に対して礼儀がなってないって伝えとくな」


 槍を振りかざしてきた警備兵。

 ノアは視線を合わせず、門に手をかざしてすり抜けていく。


「なっ!?」

「あの執事なら取り合ってもらえるだろ」

「そうですね。あの方はそれなりに優秀ですから」

「だな」


 ノアとヒルデは門を抜けると、屋敷の入口の扉をノックした。

 すると、わずか数秒で扉が開いた。


「いらっしゃいませ、ノア様。本日はどのようなご要件で?」


 扉の先にいたのはあの執事だった。

 執事は門から駆け寄ってくる警備兵を一睨みして牽制した。

 それを見たノアは感嘆した。


「さすがだな」

「あの者たちには強く言っておきますのでご容赦ください」

「あぁ、いいぞ。そうだ、今日は店を構えることにしたから挨拶に来たんだよ」

「左様でしたか。では、こちらで店舗を用意しましょうか?」

「いいや、それはこっちで好きなところに建てるから気にするな。そうだな、俺に用があればその店を訪ねてくれ。まだペトの翼の傷が癒えていないんだ」

「その件につきましては深くお詫び申し上げます」


 執事はノアに深く頭を下げた。

 するとノアには気にした素振りがなかった。


「いいよ、その代わり情報をくれ」

「情報と言いますと?」

「相場だな」

「何をお売りになるのですか?」

「野菜だが?」

「……野菜ですか?」


 ノアの商品に期待していた執事だったが、答えを聞いて残念そうにしていた。


「残念そうにされても困る。うちはカテゴリーでは街だが規模でいったら村だぞ」

「そうでしたか」

「あぁ。だからこれは手土産だ」

「これは!?」


 そう言ってノアが取り出したのは収穫したばかりの野菜だ。

 渡された執事はその野菜の価値の片鱗に気づきつつあった。


「ちゃんと領主に渡しとけよ」

「かしこまりました」

「あと、これは執事……名前がわからん」

「これはこれは、失礼しました。私、シェパードと申します」

「シェパードには別にこれを渡しておく」

「これは?」

「プチトマトだ。健康にいいぞ」

「ありがとうございます」


 小袋に入っているものをシェパードに渡した。

 ノアはシェパードが連れてきたメイドに野菜が詰め込まれた袋を大量に渡した。


「これでこの屋敷にいる者、全員に行き渡るか?」

「いえ、十分すぎます」

「そうか。残りは自由にしてくれ」

「はい」

「じゃあ、領主によろしく言っておいてくれ」

「かしこまりました」

「ではな」


 ノアはシェパードに別れを告げて屋敷を離れていった。

 残されたシェパードは野菜を冷暗所に運ぶように指示をしたあと、言われたとおり領主の元へ向かった。


「失礼します」


 領主の部屋まで来ると、扉をノックして部屋の中に入っていった。

 そこにはベッドで横になっている領主の姿があった。


「誰が来た?」

「ノア様でございます」

「このタイミングでか?」

「はい。どうやら私達のことも知っていたようで、野菜を届けに来ました」

「そうか。そこまでわかっているのか」

「そのようです。こちらは別途渡されたプチトマトでございます」

「ぬっ!?これはまさか紅魔の実か?」


 紅魔の実とは、悪魔の実とも呼ばれる果実のことだ。

 血のような色の果汁を出すことから、嫌悪感を示す者もいるが、その実、魔力を多く含んだ希少な果実と言われている。

 そしてこの紅魔の実は魔力欠乏症に唯一効くとされている。


 この領土全体で蔓延している。

 その病気がまさに魔力欠乏症だ。

 死に至る魔力欠乏症だが、この病にかかることのほうが確率が低い。

 なぜなら街に住んでいれば自然と予防することができるからだ。


「まさか戦争に参戦しないだけでこのような罰が下るとはな」


 領主が所属しているアルテナ帝国では隣国である神聖マキュナ教公国と戦争をしている。

 アルテナ帝国はどのような種族であろうとも平等に扱う平和的国であるが、神聖マキュナ公国はその逆で人族至上主義だ。


 今回、領主はこの戦いに不参加を宣言していた。

 理由は主にノアがいるから。

 罰として街の領民を保護するために使われていた都市核を半数奪われてしまった。


 都市核がなければ隣接する魔樹林から流れてくる魔気に侵食されてしまう。

 魔気を浄化させるための機能を人族は持っているが、それをするには魔力を消費する。

 永遠と消費される魔力によって魔力欠乏症になってしまう。

 魔物と戦う冒険者や騎士には耐性があるが、一般人には対抗する手段が少ない。


 その結果、いま外に出歩いてる者は皆、耐性のあるものだけになっている。


「この量の紅魔の実があれば幾人の命を救うことができるだろうか……」

「領主様、ノア様はこの屋敷いるもの全員を助けられるだけのお野菜を下さりました」

「……野菜?」

「はい、どれもが多量の魔力を含んでおりました」

「なんだと!?」

「しかもその野菜を使った商売を始めるそうです」

「また借りができた」

「左様でございます」


 領主はノアへ恩返しをするべく準備を始めるのだった。


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