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染み込んだ上下関係を覆すことは難しい

 サバル達が来て数日、ノアは自堕落に生活をしていた。


 鉱脈が見つかってからというもの、いらない鉱石をポイント還元することによって懐が潤っていた。

 そのおかげでノアは本格的にやることを見失っていた。


 装備に関してはメイドと一緒に出たセプレが鍛冶師を連れてきてくれることになっている。

 それまでの間、ノアはやることがない。


「あー、スローライフってのはこんなに暇なものかね」

「ノア様、散歩にでも行きませんか?」


 ノアがソファに埋まって天井を見上げていると、顔を覗かせたヒルデが散歩に誘った。


「そうだな……よし、行こう」


 ノアはソファから立ち上がると、ヒルデを連れて散歩にでかけた。

 ノアの街は木材と石材が許す限りの家が立ち並んでいる。

 最近は鉱石を魔法で加工して装飾品をつくる技術が伸びている。


 そのせいか机職人のオークも今ではアクセサリー作りにべったりだ。

 それにはサバルとジュメも突き合わされている。

 サバルは熊獣人だからかあまり器用とも言えない。


 人族であるジュメはその点、尖った技術を持っていた。

 行商人であるジュメはそのあたりのセンスがあり、「これは売れそうだ」なんて呟いている。

 サバルとジュメはこの生活に馴染みつつあった。


 行商人としては各集落を尋ねなくてはならないが、この街で罪を犯したのだから、机を完成させないと刑期が終わらない。

 親方であるオークの匙加減よって刑期が伸びていく。


 彼らが行商人としての自覚を思い出すのはサプレが帰ってきてからだろう。


 二人の様子を見届けたノアはヒルデを連れて畑に向かった。

 畑にはエルフ達が毎日通い、ドライアドにお祈りをして切磋琢磨しながら野菜を育てている。


 毎日、熟した野菜が投棄されてしまうことにエルフ達は嘆いていた。

 明らかに供給過多であり、主な要因としては畑を広げすぎたこと。

 そして野菜の成長速度が早すぎること。

 これらを踏まえてエルフ達はノアに相談を持ちかけた。


「ノア様、この野菜たちを売ってもよろしいですか?」

「なんだ、シルフィ。いきなり」

「この畑の現状をご存知ですか?」

「いや?」

「そうですか……着いてきてください」

「わかった」


 ノアは畑の管理人であるシルフィに連れられ、畑から少し外れた森に来ていた。


「ここは?」

「野菜の投棄場所です。熟れすぎて食べられなくなった野菜をここに捨ててるのです」


 シルフィが指さしたところには確かに熟れた野菜がある。

 それ以上に気になったのは色んな野菜を捨てたせいで、成長速度の凄まじさも相まって、野菜の投棄場は多種多様な野菜のジャングルができていた。


「カオスだな」

「はい……捨てるしかなくてここに集めているのですが、見ての通り、その全てが種になってここで成長してしまってます。このままではこの野菜に釣られて多くの魔物が集まってしまいます」

「魔物か……ん?それって悪いことなのか?」

「魔物が寄ってくるのですよ!?」

「俺たちがその雑多な魔物に負けるとでも?」

「いえ、そうですよね。ワイドさんなんてこの前どこから取ってきたのかワイバーンを抱えてきましたよね……」

「え?そうなの?」

「え、ええ?一昨日の食卓に並んでましたよ?」

「めっちゃうまいとは思っていたが、あれがワイバーンの肉なのか。知らんかった」

「ノア様って大物ですよね」

「支配者だからな」

「そういう意味ではないんですけどね……それでどうしましょうか?」


 ノアにとっては気にすることではなかったが、シルフィにとっては一大事。

 ノアはヒルデを交えて話し合い、いい案は思い浮かばなかった。

 そこで暇そうにしていたユノンとリラを誘い、野菜の使い道を話し合うことにした。


「ノア様、いまはリラと大事な触れ合いをですね……」

「夜のレスリングなら、夜にやれ。今はそんなことより重要なことがある」

「リラよりも優先することはありませんが?」

「俺の命令が聞けないっていうのか?」

「ええ、もちろん」

「そうか、ならこのシルクでできたバスローブもいらないってことだな。仕方ない、これはヒルデに使ってもらうか」


 ノアは真っ白なバスローブを取り出し、ヒルデに渡した。


「ヒルデ、明日から風呂上がりにはこれを使うといい」

「?なんですか、これ?」

「知らないのか?プライベートの空間でリラックスできる服だ。あとはパートナーがいる場合は、これを着るだけで悩殺することができる」

「そうなんですか!?」

「あぁ。あとはこのネグリジェだな。好みにもよるが男はこれを着て来られると鼻血を出すほど興奮するぞ」

「わぁ!すごい、柔らかいですね」

「だろう」


 ヒルデはバスローブの触り心地に感動していた。

 しかし、ヒルデの肩にネットリとした雰囲気をまとった手がのしかかった。


「ひぃ!?」


 ヒルデが振り返ると、そこには笑顔のリラの姿があった。


「ヒルデちゃん、それ、私にくれるわよね?」

「ひぃ!?あ、あう、あっ……り、リラ様……」

「ね?」

「あっあっあっ……ど、どうぞ」

「ありがとね。やっぱりヒルデちゃんは頼れるレディよね」

「あわ、あわわわ……い、いえ……」


 リラの威圧に怯んだヒルデは震えた手でバスローブを渡した。

 リラはヒルデの目を覗き込み、ヒルデの頬に手を当てて口パクで「いい子ね」と呟いた。


「はわっ!?あっあっあっ……あっ……の、ノア様……」


 プルプルと震えるヒルデにノアは肩をポンっと叩いた。


「これが搾取される側とする側だ。覚えておけ」


 ノアの現実逃避気味なセリフに感極まり、ヒルデはノアに抱き着いた。


「うううう、ノアさまぁ……」

「よーしよしよし、あとで代わりのものをあげるからなぁ」

「ありがとうごじゃいますぅぅ」

「おう、楽しみにしてろよ」


 ヒルデの悲しみとは正反対に、リラはバスローブとネグリジェを手に入れて大喜びだった。

 その傍らでユノンは気まずそうな顔をしていた。


 ノアの要件を断ったにも関わらず、リラが褒美を奪ってしまったことに。


「ってことでユノン、話聞くよな?」

「……はい」


 異議を申し立てることもできず、ユノンは「はい」と言うことしかできなかった。


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