ノアのこだわりと噛み合わない話
空間を闊歩し、軽々と数日かかる道のりから帰ってきたノア。
あまりにも早い帰宅にマルマとメルメは目を丸くしていた。
ノアの非常識さを理解していたラウラとリノンは「またか」と思い、考えるのをやめた。
ユノンとリラは「はやかったねぇ〜」くらいの軽い感想を述べ、ユウトは帰るまでに必要な鉱石が掘れていないことを嘆いていた。
エルフの集落から行商人を連れてくる任務は未だ果たされていない。
あまりにも早く帰ってきたノアが悪いのである。
ノアもまた微妙に歓迎されなかったことに虚しくなり、一人自室に引きこもった。
単純に自堕落に過ごしたい、そんな欲望を胸にしていただけかもしれない。
ノアが帰宅した数日後、ワイドとアルフェが帰ってきた。
連れてきた行商人は、筋肉ムキムキの熊の獣人サバル、しなやかな尻尾の狐の獣人セプレ、人族のジュメと名乗った。
サバルとセプレは獣のコスプレをしたような姿をしていた。
三人を歓迎するように集まったのは農作業に勤しむエルフたちだった。
ワイドは彼らの歓迎会はエルフたちに任せ、他の者たちはできるだけ接触しないように心がけた。
着いた時間が遅かったため、ワイドは彼らに日を改めて場を設けて話すように提案した。
彼らも旅の疲れを癒やすためにエルフの集落で一晩過ごすことは恒例の行事だったため、これに肯定した。
次の日の昼間、会議場に重鎮を集めての交流が始まった。
ノアを目にすることになったのはその日が初めてだった。
会議室でノアに遭遇したサバルは、ノアの容姿に驚きながら挨拶をすることもなくある質問をした。
「貴方がアルフェ様の主人となった御方か……失礼だが、おいくつだ?」
サバルは初対面ながら聞いたのはノアの年齢だった。
それを誰一人として咎めようとしない。
ノアが気にしない性格であることをこの数週間で把握したからだ。
「俺か?なんでそんなに歳を聞きたがるのか知らねぇが、俺は24だ。誰がなんと言おうと変わらん」
「ガハハ、気を悪くしたらすまんが、それは面白い冗談だ」
「そうだろ?実はな、事実なんだ」
「ガハハ、いいぞ!貫けばそれが真実!信じようとも。でだ、なぜ尊いアルフェ様が貴方の配下なのだ?」
エルフ族と長年付き合いを続けていたサバルからしたら、常識的な疑問だ。
共にいたセプレもジュメも同じ意見だ。
「拾った」
ノアはドライアドに説明したように簡潔にそう告げた。
しかし、そんな言い分で誰が納得しようものか。
「ほう、それは面白いな。面白いが……アルフェ様に関しては赦されるものではないな」
おちゃめなノアの冗談もこれにはサバルも只事ではない雰囲気を纏う。
今までの関係を築いてきたサバルたちからすれば、ノアの言葉は異質そのものだった。
アルフェは集落がゴブリンに襲撃される前はエルフの姫だった。
族長の娘だが、集落は独立した国だ。
ならば族長は王であり、その娘は姫である。
「アルフェ、間違いないだろ?」
ノアは飄々とアルフェに振った。
さすがの本人もこれには軽蔑を示すと思われたが、アルフェはなんでもないように頷いた。
「本人もこう言ってるんだ。間違いない。ところであんたは誰なんだ?この街の支配者は俺なんだが、挨拶もできないのか?」
行商人の三人がただならぬ雰囲気を纏い出した。
しかし、全く気にする様子もないノアは自分がルールだと言わんばかりに、初めてまともなことを言った。
「貴方は……アルフェ様のことをなんだと……!?」
ノアの態度に解せないサバルは会議のためにつくった手作りの机に拳を叩きつけて破損させた。
「あぁ?なにしてんだ!その机……オークたちが頑張って作ったんだぞ!」
「机なんてどうでもいい!今はアルフェ様だ!」
「何言ってやがる!机が最重要だろ!」
悲劇の姫君アルフェVSオークが頑張ってつくった机のどっちが重要な話かという最高にくだらないノアだけの論争が始まった。




