最初からわかっていた
ギルドマスターに連れられ、領主の屋敷に訪れた。
街で一番大きく、そして一番豪華な屋敷には一流の使用人がいた。
「ようこそおいでなさいました、ノア様」
セバスチャンとでも呼ばれそうな真っ白な髪とヒゲを持った御老体の執事は燕尾服を装い、洗礼された会釈をした。
名前までは知らないはずの領主の者がすでにノアの名前を把握していた。
領内のことならいち早く情報を収集しているのだろう、とルルドは感心していた。
ノアとヒルデはそのことを気にしてもいなかった。
老執事に案内されたのはソファが並べられた応接間。
ソファに座ったのはノア一人で、他の二人はノアの後ろに立ったまま。
老執事がベルを鳴らすとメイドが一人とその後ろに領主を連れて現れた。
「この度は……」
「前置きはいい。俺は貴族じゃない。要件だけ報せてくれたらいい」
「そうか。では単刀直入に言おう。食料を売ってくれないか?」
ノアの提案にすぐさま乗った領主。
手紙の通り、領主の求めているものは食料だった。
「売ってもいいが、現状を教えてくれ。どれだけ不作なのか、今はどの程度の生活水準なのか」
「不作ではあるが、すぐに尽きるというわけではない。昨年分の備蓄もある。だがあればあるだけ助かる」
領主は淡々と領内について語った。
その表情には感情の浮き沈みがなく、まるで事務仕事の一環のように話をした。
それに対し、ノアはあっけらかんと言った。
「そうか。じゃあ今回の取引はなしにしよう」
「ふむ、仕方ないな」
通常では取引成立となりそうな状況だが、ノアは取引自体をしないと宣言した。
「また来る。今度はマシな理由を考えておくんだな」
ノアはソファから立ち上がり、ルルドとヒルデを連れて応接間から出ていった。
残された領主はさも重要ではない取引が駄目になったとばかりに立ち上がり、メイドに連れられその場をあとにした。
ノアが堂々と歩いているなか、そわそわしている者がいた。
「あの、ノア様」
「なんだ?ヒルデ」
「よろしかったのでしょうか?」
「あ?いいんだよ、あれで。ヒルデは街の様子見たか?」
「えーっと、活気のいい街だったかと」
「不作続きの街に見えるか?」
「……みえません」
「そういうことだ。あいつは俺をここに呼ぶことに意味があったんだ」
ノアは廊下を歩きながら、ヒルデに簡単に説明し始めた。
「まず俺とあいつの接点はなんだ?」
「えーっとなんでしょ?」
「森で脅迫し合った仲だ。これだけだとあいつは俺のことを何も知らない」
「そうですね。子供が調子に乗ってるくらいしか思いませんね」
「それはどういう意味だ?まぁいい。俺は予め連絡手段を用意しておいた。それをフルに活用したのが領主だ」
「ペトちゃんですね!」
「そうだ。まずは手紙。これは俺を呼ぶために使った。次にペトへの襲撃、そしてギルドマスター。この三つがポイントだ」
「ペトちゃんを襲ったのは領主だったんですか!?」
「そうだ。もしくはそれに近しい者だな」
ノアはなにもない空間から血の付いた矢を取り出した。
「この矢、冒険者のものにしては品質が良すぎないか?」
「そうですか?」
「冒険者ギルドに売られていた矢はこんなにもいいものはなかった。それにペトの翼を貫いた矢の位置が飛ぶことに問題のない場所だった。これほど精度がよければ頭を狙ったはずだ」
「確かに……不作ならなおさらそんな場所を狙いませんね」
「決定的なのは、詰め所にあった矢とこの矢は同じものだった。これだけ分かれば領主の策謀だとわかる」
「ノア様って頭いいんですね……」
「ヒルデ、あとで説教な」
「なんでですか!?」
屋敷の入り口までたどり着いたノア達に執事は小さな袋を渡した。
「なんだ?」
「そちらに入っているのは、領主様の紋章の入った指輪と金貨10枚です。領主様からのお気持ちです。こちらの指輪があれば街に素通りで入ることができます」
「そうか。これはアレンジを加えてもいいのか?」
「壊れないのであれば……」
「じゃあこの追跡用の魔法は解かせてもらうな」
「……」
ノアは袋と指輪、金貨に込められていた魔法を空間透過によって取り除いた。
空間透過はある指定のもの以外を通さない力だ。
「さすが領主。考えてることがいやらしいな」
「お伝えしておきます」
「おう」
ノアの行動にさも当然とばかりに執事は感情的になにかをすることはなかった。
堂々とするノアの後を追うヒルデとルルド。
ノア達が去ったあと、執事は領主のもとへと向かった。
ある部屋で紙とにらめっこしている領主は扉から入ってきた執事の雰囲気を見て、すぐさま察知した。
「失敗か」
「ええ、すべてお見通しでした」
「そうか。だがそれなりに成果は得た。彼らは非常に理性的で道理をわきまえている。わざわざ敵対する必要はない。領外での監視の必要はないと伝えておけ」
「かしこまりました。あとノア様から伝言が……」
「なんだ?」
「『いやらしい』だそうです」
「………そうか。仕事に戻ってくれ」
「はい、失礼致しました」
表情を崩さない執事が少しだけクスッと笑ったあと、その場をあとにした。
残された領主は業務を続けながら策を練る。
「今後の関係は対等だな。戦力差は絶望的。魔人に魔物に悪魔。勝ち目はないな。友好関係が一番だな」
独り言ちりながら業務に勤しむ領主だった。
ストックがなくなってきたので一日二話に変更します。
楽しみにしていた方、こちらの都合で申し訳ない。




