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最近のサイコパスの流行は生首を集めることだってさ。乗るしかねぇ、このビックウェーブに!

 森を駆けるのはエルフの特権。

 しかし、狩りにおいてウルフから逃れるのはエルフであっても難しい。

 逃げるエルフの前に臭いを嗅ぎ付けて追ってきたウルフ。


「く、くるなぁ!エアショット!」


 風の弾丸がウルフに襲いかかる。

 しかし、ウルフは前斜めへ反れることで容易に避けた。

 がら空きの脇腹に突進すると、エルフはくの字になりながら草木にまみれて倒れる。

 首に鋭い牙を突き立てるウルフだったが、仲間が到着すると、歯形だけつけてエルフから離れた。


「ウォンっ!」

「グギャッギャッ!」


 ウルフの頭を撫でて褒めるハイゴブリン。

 その手には大木すらもなぎ倒す斧があった。


「やめ……ぐああああ!?」


 腕を根元から切り落とされた男の悲鳴が森へと木霊する。


「いやだ、いたいいたいいたいぃ!?もうやべぇてぇ!?あがっいっ、あっあっ、ぐぅぅああっ!?ああああ」


 今度は反対の手、次は左足、最後に右足。

 四肢を切り落とされた男エルフをハイゴブリン達は、袋に入れて持ち運ぶ。

 次の獲物を探して。


 ハイゴブリン達を見送ったノアはひとり、鼻歌を歌いながら切り株に座って、ハイゴブリン達を待っていた。


 そこへ一人の女性がやってきた。


「ん?来ないんじゃなかったのか?」


 その女性はマルマを抱っこしていて、マルマもまたその女性に甘えるように抱きついていた。


「仲がよろしいようで。それでどうしてきたんだ?」

「男達がどうなったのか、見に来ました」

「ふーん、そうか。けど、その末路は見れないぞ。今は鬼ごっこの最中だからよ。ほら、聞こえるだろ?」


「ぐああああ」と、木霊する男エルフの声が聞こえた。


「ほらね?」


 ノアは森の方を指差して笑った。


「……」

「こうなることは予測していただろうに。そんな顔するなよ」


 ノアはアルフェに笑いかけた。


「まぁ、次は……お前達の番……もくるかもしれないから。今後の立場も考えとかないとな?」


 ノアは脅迫気味にそう言った。

 強ばる顔、女エルフもまた、ノアにとっては厄介者に変わりない。

 同じような末路もあり得ると、ノアは示唆した。


「ノア様、いじめるのよくない」


 マルマはアルフェから離れてノアの腕をとった。


「いじめじゃない。これは事実を言っただけだ」

「んぇ?」

「とぼけてもだめ。わかってるだろ?」

「……わかってる」

「なら、いい」


 ノアの言葉に惚けるマルマだったが、ノアの真意に気付いていたマルマは頷いた。


「それで、どうする?あんたは俺達側につくのか、それとも……あっち?」


 ノアが指したのは自分自身、そして森。


「選ぶのなら、はやい方がいい。気が変わるのもはやいかもしれないからな」


 ノアはアルフェの目を見て言った。

 アルフェもまた、ノアの目を睨み付ける。


「いい目だ。見つめるだけか?言うことはないのか?」


 ノアの問いに、アルフェは地べたに座り込み、土下座をした。


「服従いたします」

「服従はいらん。共生しろ」


 アルフェの覚悟を、ノアはすっとんきょうに否定した。


「きょう、せい?」

「そうだ。俺達は互いに助け合って生きている。そこに奴隷はいらない。いるのは共に生きる友だ」

「とも……」

「それなら、お前達も気軽になれるだろ?共に生きようじゃないか。エルフの姫よ」


 ノアは手を差しのべた。

 取るのは自由とするノアに、エルフの姫はどう応えるのか。


「こちらから手を差しのべられたら、どうする?」


 なかなか手を取らないアルフェに戸惑うノアはマルマに不安をぶちまけた。


「あ、あれ、もしかしてマルマ、握手って風習ないの?」

「ノア様な……」

「ないの!?」

「ないわけない」

「くっそ、騙したな。ドライフルーツ全部食べてやるっ!」


 悪戯に成功したマルマはほくそ笑みを浮かべたが、ノアの仕返しにポカポカと叩いて応戦する。


「むぅ!だめ、やだ!たべちゃ、だめ!」

「意地悪するやつがだめなの!ほーら、なくなっちゃうぞ」

「やだ、だめなの!ごめん、ごめんなさいぃ!」


 ノアが食べるとマルマは目に涙を溜めた。

 それでも食べるのをやめないノア。

 マルマが謝ると、ノアは「しょうがないなぁ」と言って残りのドライフルーツを渡した。


「これあげるから、もう泣くなよ?」

「むぅ……ノア様のいじわる……」

「ははっ、悪かったよ……で、どうする?」


 ノアは膝の上にマルマを乗せ、ドライフルーツを食べさせながら、もう一度アルフェに問う。

 ノアとマルマの姿を段々と微笑ましく思えていったアルフェには、恐怖というものがいつの間にかなくなっていた。

 それをわかっていたからこそ続けたノアは策士だが、マルマに泣かれてしまったのは予想外の出来事であった。


「アルフェ・スプラ・フェリアはスプラの名を棄て、ノア様の傘下に下ります」


 アルフェは跪くと、ノアにそう宣言した。


「かたっくるしいなぁ。普通に握手でいいんだよ、握手で、ほら」


 ノアはそう軽々と言い、また手を差しのべた。

 すると、アルフェはその手を受け取り、朗らかに笑った。


 あの後、ハイゴブリン達が捕まえられたのは27名だった。

 そのうち半数は捕まえる際に生き絶えてしまった。

 逃げ延びたのはわずか一名。

 アルフェに確認すると、その者は男達の中でも権力を一番有していた男だったそうだ。


 男がどこへ逃げたのか、予測がつかず捜索はすぐに打ち切られた。


 ただ一人だけはその者がどこにいるのか知っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ここまで来ればもう大丈夫だろ」


 男は川辺に座り込んで、水を飲む。

 数日ぶりのきれいな水だ。

 森の中でできるだけ息を殺し、草木から水分を取り、ようやく集落の近くにある場所にまで逃げ帰ることができていた。


「くそっ!あいつら……俺が絶対に復讐してやるからな!」


 男は川に石を投げつけてストレスを発散した。

 川の水に石でできた波ができる。

 その波になにかが写っていることに男は気付いた。


「復讐か。それは楽しみだ」

「誰だ!」


 背後から男の声がした。

 振り向くと、そこには居もしないはずの男が立っていた。


「俺か?俺はノアって言うんだ。知らなかったのか?」

「な、なんで、なんでお前がここに!?」


 ノアは彼の仲間を殺した黒幕。

 逃げ延びたことができたのは彼自身ただ一人だということも彼はこのとき知りもしなかった。


「いやぁ、一応逃げ延びたからご褒美をあげようかと思ってね」

「なんだと!?」

「これなんだけど、もらってくれるかな?」


 ノアはなにもない場所からある袋を取り出した。

 袋には血の跡がついており、おそらく肉かなにかだろうと予測した男は、ノアから奪い取るように受け取り、中身を覗き込んだ。


「ぎぃやあああ!?なんで、なんなんだ、これぇ!?」


 そこには袋いっぱいに入ったエルフの頭があった。

 数は27個。


「これはね、君の仲間だったものさ。ちょうどひとりだけ生き延びちゃったから、数が合わなくてね。君のでコンプリートさ」

「うぐはっ!?」


 ノアは男の胸に手を翳して、不可視の攻撃で胸をえぐりとった。

 その瞬間、男はノアから天国へと逃げることに成功した。


「これで、頭は28個。おめでとう、これが俺からの褒美のお言葉さ」


 そしてノアは男エルフの身体を跡形もなく消し去ると、鼻歌を歌いながら去っていった。


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