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6.邪神、働かされてるみたい

薄暗い牢獄の前に立ち、リリアは鉄格子の奥で縮こまっている少女を見つめていた。


セシリアという名のその少女は、怯えた表情で冷たい床に座り込み、時折小さな声で何事かをつぶやいている。


つい先ほどまで、狂ったように強大な魔獣を切り刻んでいた姿とは到底結びつかない。


リリアは杖の柄を強く握りしめた。


あの異常な体術と、魔獣の弱点を的確に突く判断力。


魔力による強化もなしに、中級の化け物を単独で倒すなど、常識では考えられない。


凡人の域を超え、戦い方そのものが研ぎ澄まされた刃そのものだった。


しかし、今の彼女から感じるのは、ただのひ弱な村娘の気配だけだ。


多重人格障害という仮説を立てたものの、それだけで説明がつくのか疑問が残る。


リリアは視線を外し、隣で腕を組んで思案しているゼルト・エルグランへ向き直った。


「ギルド長。彼女の処遇について、提案があります」


リリアの真剣な声に、ゼルトは眉をひそめてこちらを見る。


「提案だと?この小娘をどうにかして生かす道を探ろうというのか、リリア」


ゼルトの言葉には警戒の色が混じっている。


ギルド内で騒ぎを起こし、危険な魔獣を呼び出した罪は重い。


通常であれば、即座に処罰の対象となる。


リリアは静かに頷き、言葉を紡いだ。


「はい。彼女のあの力……異常な戦闘能力は、事実として存在します。今、ギルド周辺では魔獣の活動が活発化しており、防衛の戦力が不足していることはご存じの通りです」


リリアは言葉を区切り、ゼルトの反応を窺う。


彼は黙って続きを促した。


「彼女の中にもう一つの人格、あるいは隠された才能があるのだとすれば、それをギルドのために使わせるべきです。あの戦力があれば、多くの冒険者の命を救えます」


「馬鹿なことを言うな。あんな得体の知れない力を、統制の取れない状態で実戦に投入しろと言うのか?味方に牙を剥いたらどうする」


ゼルトが厳しい声で反論する。


ギルドの責任者として当然の懸念だった。


「そのための実戦テストです」


リリアは引き下がらない。


「私を監視役として同行させてください。彼女に特別な討伐任務を与え、その異常な力が自分の意思で引き出せるのか、そして制御可能なのかを確かめます。もし危険だと判断すれば、私が即座に魔法で行動を封じます」


先ほどの戦いでは彼女を取り逃がしたが、今は対策を立てる時間がある。


リリアの言葉には、強い決意が込められていた。


ゼルトは深く息を吐き、牢獄の中のセシリアをもう一度見た。


震えながらこちらを見上げる大きな瞳には、恐怖しか浮かんでいない。


「……借金の額は確かだったな」


ゼルトがポツリと漏らす。


「はい。彼女が冒険者になった動機は、両親の治療費で膨らんだ借金の返済です。その弱みを握れば、ギルドの指示に従わせることは可能だと考えます」


リリアがすかさず補足する。


ゼルトは数秒間沈黙し、やがて重々しく口を開いた。


「いいだろう。このまま処罰しても、ギルドにとって何の利益にもならない。あの怪物を倒した力が本物なら、利用する価値はある」


ゼルトは牢獄に近づき、鉄格子越しにセシリアを見下ろした。


「おい、小娘。セシリアと言ったな」


ギルド長の低く響く声に、セシリアはビクッと肩を跳ねさせた。


「は、はいっ!」


「お前がやった昨日の騒動は、本来なら厳罰に処される。だが、お前の体に強い力を秘めていることは確かだ。だから、一度だけ機会を与えてやる」


ゼルトの言葉に、セシリアの顔に驚きと戸惑いが広がる。


「本当に、ですか……?」


「ただし、タダではない。お前にはこれから、ある特別な討伐任務を受けてもらう。リリアがお前の監視役として同行する。そこで、昨日見せたあの力を再び証明しろ。それができれば、冒険者としての活動を正式に認め、処罰も免除してやる」


ゼルトの冷徹な宣告が牢獄内に響く。


「証明できなかった場合、あるいは逃亡を企てた場合は……その場でリリアが対処する。分かったな」


セシリアは真っ青な顔で何度も頷いた。


「わ、わかりました……やります。ギルド長様の指示に従います」


声は震えていたが、選択の余地などないことは理解している。


その時、セシリアの心の中で、傲慢な響きを持つ別の声が響いた。


(ふん、そういうこと。都合よく利用しようってわけね)


星乃は脳内で状況を冷静に分析していた。


(討伐任務……つまり、また戦えってこと。監視役がこの魔法使い一人なら、いくらでもやりようはある)


星乃にとって、戦闘は望むところだった。


むしろ、このまま牢獄に繋がれているより、外に出て自由に動ける方が何倍も好都合だ。


『ま、邪神様……どうしましょう……私、戦うなんてそんなに得意ではありません……』


セシリアの弱い心が悲鳴を上げる。


(安心しなさい。戦うのは私よ。あんたはただ、ギルドの連中の前で大人しく言うことを聞いていればいい。私の力を少しだけ見せて、連中を納得させてやるわ)


星乃の自信に満ちた言葉に、セシリアは少しだけ安堵し、静かに目を閉じた。

【作者から、ひとつだけお願いです】


少しでも、

「何かが残った」

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