32.死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!
舌打ちの音が、静まり返った森の入り口に響いた。
山賊の頭は、暗く沈んだ森の奥を睨みつけながら、手にした長剣の柄を強く握りしめた。
返事はない。
ただ、風に揺れる木々の音と、足元に転がる七人の仲間の死体が、彼らの神経を逆撫でしている。
「頭!俺らにも森に入らせてくれ!やられた奴らの仇を討たなきゃ気が収まらねえ!」
血の気の多い手下の一人が、荒々しい声で怒鳴る。
その手には松明が握られており、いつでも火を放てる状態だった。
「駄目だ!あいつはずる賢い。どこからやってきたかわからないが、あのスピードは尋常じゃない。下級ランクの暗殺者かもしれん」
頭は手下を鋭く制止した。
相手が少数であっても、地の利を活かしたゲリラ戦に持ち込まれれば被害は拡大する。
「でもよ、このまま本気で森を燃やしたら、煙が目立っちまう!流石に都市から冒険者のお偉いさんたちが本気で調査にやって来るぞ!」
別の手下が焦燥感を隠せずに叫ぶ。
辺境の村一つを消し去る程度なら隠蔽もできるが、大規模な山火事となれば騎士団やギルドの介入は避けられない。
頭はギリッと奥歯を噛み締めた。
「畜生!時間がない。もう節約する場合じゃねえ。アイテムを使え!一気に村を落として、宝を探り出せ!」
「おー!」
頭の号令に応え、山賊たちは懐から黒い火薬玉や魔力障壁を破るための魔石を取り出した。
数分後。
激しい爆発音と閃光が、ペトラ村の入り口を覆い尽くした。
村人たちが急ごしらえで作った木の柵と農具の防御線は、人数の暴力とアイテムの力であっけなく崩れ去った。
「ひぃっ……!」
トマスが腰を抜かし、地面にへたり込む。
マーサも悲鳴を上げてその場にしゃがみ込んだ。
「そんな……!せっかく、一生楽に暮らせるだけの金を手に入れたっていうのに……!」
金貨を握りしめた男が、絶望に顔を歪める。
村の広場に雪崩れ込んできた山賊たちを前に、彼らは完全に孤立していた。
誰も助けには来ない。
隣の仲の良かった村の者も、顔なじみの馬車の御者も、金貨の噂を聞いて山賊の襲撃を知った途端、全員が関わりを恐れて逃げ出していた。
自分たちの強欲が招いた結果が、今、圧倒的な暴力となって彼らに牙を剥いている。
「さあ、宝物を出せ!」
頭が長剣を突きつけ、冷酷な笑みを浮かべた。
「大人しく隠し場所を吐くなら、命くらいは許してやる。もし抗えば……全員、肉の塊に変えてやるぞ。うん?」
頭が脅し文句を口にした直後。
足元の土が、小刻みに揺れ始めた。
ズン。
ズン。
激しい振動が、村の広場から森の奥にかけて連続して響く。
「じ、地震!?」
手下の一人が足元をふらつかせ、松明を取り落としそうになる。
だが、頭の顔色は一瞬で白く染まっていた。
「いや……これは……」
頭の額から冷や汗が流れ落ちる。
長年辺境で命のやり取りをしてきた下級剣士の直感が、最悪の事態を告げていた。
「まさか……!?」
その瞬間。
鬱蒼と茂る森の奥深くから、空気を切り裂くような甲高い悲鳴が響き渡った。
「きゃああああああああああああああああ!死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!!」
それは、若い少女の悲鳴だった。




