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2.最速クリアだからどいて!

馬車から降りた私は、記憶にある通りの道を一直線に進み、冒険者ギルドの建物の前に到着した。


道中、何度か見知らぬ人たちに声をかけられたけれど、全部無視する。


今の私には最速クリア以外、目に入らない。


ギルドの重厚な木の扉の前に立ち、私は少し斜め上、いつもカメラを設定している架空の空間に向かって、とびきりの笑顔を作った。


「みんな!お待たせ!ここからいよいよ本格的なスタートだよ!」


明るく弾んだ声を出して、私は架空の視聴者たちに語りかける。


「これからNPCたちの長い会話イベントがあるんだけど、そんなの全部スキップして、秒でクリアしちゃうわよ!瞬き厳禁だからね!」


そう宣言すると同時に、私は思い切り足を振り上げ、ギルドの扉を蹴り開けた。


バンッ!という大きな音が響き渡り、ギルド内の喧騒がピタリと止む。


中の冒険者たちや職員が一斉にこちらを振り返った。


「おい!小娘!お前、ここで何してるんだよ!」


入り口近くで秩序を守っていたらしい鎧姿の騎士が、血相を変えて私を止めに近づいてくる。


剣の柄に手をかけ、威圧的な態度で手を伸ばしてくる。


(はいはい、このモブ騎士の動きも何百回も見たわよ)


私は彼の動きの予備動作を見切り、彼の手が私に触れる寸前、体をわずかに捻ってジャスト回避を発動させた。


彼の腕は空を切り、体勢を崩して前のめりに倒れ込む。


「どいてどいて!こっちが超急ぎなのよ!」


私は騎士を飛び越え、迷うことなくギルドの奥へと突進した。


私の狙いはただ一つ。


ギルドの最奥、淡い光を放つ魔法陣の前に立っているローブ姿の魔法使い、リリアだ。


彼女が持つアイテムがないと、この先のショートカットが成立しない。


私が一直線に迫ってくるのを見て、リリアは目を丸くして後ずさった。


「あ、あんたは急に何を……!?」


彼女は明らかに慌てふためき、顔を青ざめさせている。


以前のバージョンでは、ただ突っ立って定型文を話すだけだったのに、今の彼女は完全に怯えた表情を見せ、後ずさりながら杖を私に向けた。


(おかしいわね……NPCがそこまで進化して、プレイヤーの奇行にリアルタイムで反応するようになったの?すごい技術だけど、今は邪魔よ)


リリアの杖の先端に熱が集まり、火球術の詠唱が始まる。


(まずい、新規アカウントの初期ステータスでまともに火球を食らったら、絶対に気絶する!)


私は立ち止まらず、左右に交差するようにステップを踏んでジャンプを繰り返し、彼女の狙いを絞らせない。


「ちょ、速っ……!」


リリアが杖の狙いを定まらせず、戸惑いの声を上げる。


私は一定の距離まで近づいたところで、地面を強く蹴り、一気にジャンプで加速して彼女の懐に飛び込んだ。


「きゃああ!?」


彼女の悲鳴が響く。


周囲にいた冒険者たちがようやく事態を把握し、一斉に武器を抜いた。


「そ、総員!リリア様を守れ!」


誰かが叫ぶが、もう遅い。


私はリリアが火球を放とうとしている手を下から勢いよく叩き上げ、軌道をそらした。


放たれた火球は天井に向かって飛び去り、大きな音を立てて爆発する。


「安心してよ、痛くしないから」


私は余裕の笑みを浮かべて彼女に囁く。


「い、いやっ!?」


リリアは完全に殺されると思い込んだらしく、恐怖で顔を引き攣らせて一瞬身を引いた。


その隙を逃さず、私は彼女のローブのポケットに手を突っ込み、中にあった冷たい感触の石を掴み出した。


「これ、頂戴するよ、リリアちゃん」


「あ、あああ!?私の、テスト用の魔法石が!」


リリアが半狂乱になって叫ぶ。


彼女の手から奪い取ったこの石こそ、新人冒険者向けの上級ステージへ直接飛ぶためのキーアイテムだ。


私は一瞬の迷いもなく、奪った魔法石を握りしめ、彼女の後ろで待機状態になっていた魔法陣へ飛び込んだ。


視界が白い光に包まれ、空間が転送される感覚が体を包む。


...


...


...


「ど、どういうこと……!?」


リリアはその場にへたり込み、誰もいなくなった魔法陣を見つめることしかできなかった。


ギルド内は静まり返っていた。


騎士たちは武器を構えたまま硬直し、冒険者たちは何が起きたのか理解できずに顔を見合わせている。


リリアは荒い息を吐きながら、立ち上がろうと床に手をついた。


約二十秒後。


魔法陣が再び強い光を放った。


光が収まると、そこには先ほど飛び込んでいった謎の女が立っていた。


彼女は手にした何かを、床へ無造作に放り投げる。


ドサッ、という重い音が響く。


それは、黒い血に塗れた巨大な魔獣の首だった。


「みんな!ステージクリアだよ、なんか20秒くらいかかったみたいよね…ちょっと遅くなったか」


謎の女は溜息をついて手を叩く。


「な!?なんだと?」


冒険者の一人が声を裏返らせた。


目の前の謎の女は、この化け物を倒すためにわざわざリリアを襲い、魔法陣へ飛び込んだのか。


そして、たった二十秒でこれを仕留めたというのか。


常軌を逸している。


理解の範疇を超えた事態に、誰も声を出すことができない。


だが、謎の女の行動はそこで終わらなかった。


彼女は立ち止まることなく、しゃがみ込んで魔法陣の縁に手を触れる。


奪った魔法石の魔力を使い、床に刻まれた術式を高速で書き換え始めた。


頭が混乱の渦にあるリリアは、呆然とつぶやく。


「な、なに?どういうこと?一体、何があったの……?」


しかし、謎の女の手元を見た瞬間、リリアの顔色から一気に血の気が引いた。


彼女が書き換えている術式。


それはギルドが封印している場所への座標を示している。


「待ちなさい!それは……!」


リリアが叫んで止めに入ろうとする。


だが、謎の女は作業を終えると立ち上がり、再び誰もいない空に向かって明るい微笑みを浮かべた。


「みんな!これからは隠しステージ、ギルドの地下に囚われた中級の魔獣も、三分間でクリアするからね!しっかり見ててよ!」


狂気すら孕んだ無邪気な声が、凍りついたギルド内に反響した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

まずは5話まで読んでいただけると嬉しいです。

5話あたりから、物語が少しずつ動き始めます。

「続きが気になる」と思った方は、ぜひブクマしてお付き合いください!

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