1.最強プレイヤー、生放送中!
「では早速、今日もゲームの生放送の時間ですよ!今日はみんな、何のゲームの生放送見たいかな?えっ、スカイボン?新バージョンで色々実装されたの!?やったー!」
わざとらしく大げさに喜んでみせる。
もちろん、事前にリサーチ済みだ。
「よかった!あたし、このゲーム大好きなんですよ!もう何百回もクリアしてるし、目隠しでもいけちゃうかも?では早速、私の超すごい無傷クリアを見せちゃいましょう!みんな、瞬き厳禁だよ!」
コメント欄が期待と歓声の言葉で埋め尽くされるのを確認し、手元のスイッチを操作する。
カチッという音と共にマイクをオフにした瞬間、顔から表情がすっと抜け落ちた。
「はー……いつまで続くんだろう、これ」
狭く薄暗い部屋の中、壁際に鎮座する巨大なカプセル型の機械を見つめる。
会社から支給されたフルダイブマシンだ。
私は月宮星乃、今年で二十一歳。
たまたま手を出したゲームの生放送で、声とトップ級のプレイスキルが評価されて、今の事務所と契約できた。
最初はこれで稼げると思った。
でも、現実は甘くなかった。
毎日毎日、過酷な長時間の配信を強要される日々。
プライベートなんてあったもんじゃない。
ふと額に手を当てると、異常な熱さを感じた。
「熱い……今日は流石にヤバいかも」
休むべきだ。
体が悲鳴を上げている。
手首の脈拍も乱れているし、視界の端が時々ちかちかと点滅している。
「けど、契約の配信時間を満たさないと、とんでもない額の罰金取られるし……」
払えるわけがない。
やらなきゃ、やるしかないのだ。
深呼吸をして、無理やり体を動かす。
重い足取りでフルダイブマシンに近づき、ゆっくりと中に横たわる。
通信が接続され、視界に配信画面のインターフェースが浮かび上がる。
マイクをオンにし、再び声のトーンを限界まで上げる。
「みんなお待たせー!それじゃあ、アップデートデータのダウンロードも終わったみたいだし、早速スカイボンの新しい世界に飛び込んじゃうよー!」
明るく振る舞いながら、ニューゲームのボタンを視線で選択する。
システムが起動し、ゲームスタートする。
「よーし、いくぞ……」
その瞬間だった。
「う、うむ……っ」
視界がぐにゃりと歪んだ。
強烈なめまいが脳を揺さぶり、意識が急速に遠のいていく。
抗う間もなく、深い闇の中に落ちていった。
...
...
...
ガタゴト、ガタゴト。
規則的な揺れと、木が軋む音。
「おい、君、大丈夫かい」
低く落ち着いた男の声が耳に届き、ゆっくりと目を開ける。
視界に入ってきたのは、木製の質素な天井だった。
周囲を見回すと、狭い空間に荷物が積まれている。
窓の外には見知らぬ景色が流れていた。
ここは、馬車の荷台だ。
「……ん」
不思議なことに、さっきまで感じていた酷い熱も、体の重さも、すっかり消え去っていた。
一瞬にして元気になったような感覚だ。
(何百回もクリアしてた、スカイボンのスタートシーンだね、これ。でも、おかしいな……)
いつもなら、チュートリアルのフィールドから始まるはずだ。
馬車の中から始まるなんて、今まで一度もなかった。
もしかして、うっかり寝てしまっていた間に無意識にスキップしたかな?
向かい側に座っていた男が、呆れたような、それでいて少し心配そうな視線を向けてくる。
日焼けした肌に、使い込まれた革鎧を着た、いかにも冒険者といった風貌の男だ。
「君のような弱い女も冒険者テストに参加するか。やれやれ、最近は物騒だな」
男がため息交じりに言葉を紡ぐ。
「ああ、そうね」
適当に相槌を打つ。
男は少し身を乗り出し、真剣な表情で続ける。
「まあ、みんな事情があるとは言え、冒険者っていうのは、うまい仕事ではないぞ。うっかりしたら、命がなくなる。諦めるなら、今のうちだ」
聞いたことのないセリフだ。
男の表情や声のトーン、装備の質感まで、以前のバージョンとは比べ物にならないほどリアルになっている。
(これが新バージョンの追加コンテンツか。グラフィックもNPCの反応も、すごく進化してるじゃん。でも、今はとにかく早く終わらせたい)
体調が良くなったとはいえ、早くログアウトして現実でぐっすり眠りたい。
「忠告ありがとう。でも、大丈夫。さっさと終わらせるから」
私は小さく笑って見せた。
早くこの最速とやらをクリアして、ベッドに飛び込もう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
まずは5話まで読んでいただけると嬉しいです。
5話あたりから、物語が少しずつ動き始めます。
「続きが気になる」と思った方は、ぜひブクマしてお付き合いください!




