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14.邪神様、実は超すごい!?

ルミナ都市の西側に延びる街道は、背の高い草が生い茂る平原に囲まれていた。


朝の冷たい空気が残る中、六人のパーティは草むらに潜む魔獣を次々とあぶり出し、確実に仕留めていく。


「そこだ、ガラン!」


ハルトが赤い槍で草むらを指し示す。


ガランが即座に大盾を構えて突進し、隠れていた四本足の魔獣を弾き飛ばした。


体勢を崩したところを、レオンの剣とミュラの火球が同時に襲い掛かり、魔獣は悲鳴を上げて絶命する。


「よし、これで終わりだね」


ハルトが槍を地面に突き立て、目を閉じる。


周囲の空気の流れと、微かな魔力の気配を探る。


勇者としての優れた知覚能力だ。


数秒後、ハルトは目を開き、朗らかな笑顔を見せた。


「オレの感知範囲に魔獣の気配はない。周辺の排除は完了したよ。これで、瘴気が再び集まって次の魔獣が湧くまでは、しばらく安全だ」


「さすがは勇者様、素晴らしい索敵です」


リリアが杖を下ろし、安堵の息をつく。


ガランやレオンも武器を収め、互いの無事を喜び合った。


昨日の暗緑の森での連携に加え、ハルトという圧倒的な戦力が加わったことで、戦闘は驚くほどスムーズに運んでいた。


セシリアも弩弓を下げて、安堵の息を吐き出した。


ここまでの道中、セシリアの中にいる邪神は一言も発していない。


セシリアは自分の力だけで、前衛の邪魔にならないよう必死に立ち回っていたのだ。


リリアは杖を短く持ち直し、少し離れた位置に立つセシリアへと視線を向けた。


「セシリア。結局、今回の実戦でもまだあの謎の力の引き出し方がわからないのですか?」


リリアの問いかけに、セシリアは肩をびくっと震わせた。


「す、すみません……私、何もできなくて……」


セシリアは俯いて謝る。


そのやり取りを聞いていたハルトが、首を傾げた。


「謎の力?リリア、それはどういうことだい?」


「そうですよ、ハルト様。この子は二重人格を持っているんです。そして、そのもう一人の人格は……ボロボロの短剣一つで、中級の魔狼を一人で、しかも無傷で殺したのです」


リリアの言葉に、場が静まり返った。


「なんだと!?本当かい、それは!?」


いつも余裕の笑みを浮かべていたハルトの顔から、一瞬で表情が消え失せた。


「ええ、本当です。私と、ギルドにいた多くの冒険者がこの目で見ていました」


リリアは事実を淡々と告げる。


「あれは中級の中でもかなり上位で、凶暴な魔獣でした。彼女のもう一人の人格は、私から魔法石を奪い取り、私の描いた魔法陣をその場で改ざんして、ギルドの地下にある魔獣牢獄から魔獣をギルドに転送させて、5分で殺したんです」


ガランもレオンも、当時の光景を思い出して顔を青ざめさせ、無言で頷いている。


ハルトは信じられないという顔で、セシリアの小さな体をじっと見つめた。


「……少し、調べさせてもらってもいいかな」


ハルトはセシリアに近づき、彼女の肩にそっと手を置いた。


「あ、はい……」


セシリアが緊張で身を硬くする中、ハルトの手から温かい魔力が流れ込み、セシリアの全身を巡っていく。


魔力の回路、筋肉の質、生命力の総量。


すべてがハルトの感知能力によって丸裸にされる。


数分後、ハルトは手を離し、大きなため息をついた。


「おかしいな。どう見ても、魔力の通っていない、普通の凡人ランクだ。肉体も鍛えられてはいるが、一般人の域を出ていない。この体で、中級の魔狼を一人で無傷で殺したなど……」


ハルトは長い沈黙に陥った。


彼の頭の中で、様々な仮説が浮かんでは消えていく。


身体強化魔法、魔法具の補助、高度な幻術。


しかし、そのどれもが、この凡人の肉体には当てはまらない。


やがて、ハルトはゆっくりと口を開いた。


「正直に言おう。例え炎の神の加護を得たオレであっても、この凡人の肉体に入った状態で、中級の魔獣を無傷で倒すことは絶対にできそうにない」


「なんですって!?」


リリアが驚愕の声を上げる。


「ええ!?」


セシリアも目を丸くした。


「オレはその時の戦闘の状況を見ていないから、確実なことは言えない。だが、もしリリアの言うことがすべて本当だとしたら……セシリア、君の体の奥には、オレの想像を遥かに超える、高位の力が潜んでいる」


ハルトの目は真剣そのものだった。


「その力は、放置しておけば危険かもしれない。だが、正しく制御できれば、世界を救う力になる。セシリア、討伐が終わったら、ぜひ帝国騎士団に入ってもらいたい。オレたちが責任を持って、君の力を調べるよ」


勇者からの直々の勧誘。


周囲の冒険者たちがどよめき、ガランやレオンも興奮した顔でセシリアを見ている。


しかし、セシリアの思考は別の部分に囚われていた。


(邪神様は……炎の神よりも、さらに高位の存在だということ!?)


自分を脅し、無理やり体を奪った邪悪な存在。


ハルトの光の力で祓ってもらおうと考えていた存在。


それが、実はハルトですら及ばない、途方もない力を持っていたのだとしたら。


(私は…どうすればいい…?)

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