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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第8話 据え膳食わぬは男の… それ、いまでも通じますか?

志乃は川沿いの遊歩道を離れ、駅裏へと続く少し暗い道に入った。

その堂々たる動きに紘一は苦笑を漏らした。

きっと送る必要はないだろう。

そんな気がしてしまう。

少し歩くと街灯の間隔が急に広くなりはじめた。

さっきまで賑やかだった黒壁の灯りが、もう懐かしく感じられてしまう。

まだ夜に差し掛かったばかりの時間帯。

人の流れは駅の方へ向かっている。

仕事帰りらしいスーツ姿。

観光帰りのカップル。

居酒屋へ急ぐ若者たち。

すれ違い、避けるようにスッと脇道にそれる。

そのまま一筋通りをずらすと空気が変わった。

灯りが途切れる。

暗さを感じるのは閉じたままの店の存在だろう。

テナント募集の貼り紙も目立つ。

以前は飲み屋だったのだろう小さな店舗が気に掛かった。

何処かで時間から取り残された、そんな空気が残っている。

店があったまま、家主を失ったそこには、禍の傷跡がくっきりと残っている。

いまは静かなまま、時間も空気も止めるようにシャッターを下ろしている。

街に人は戻ってきているのに…夜だけはまだ少しまだ少し慎重だった。

紘一はカメラを取り出し、風化していくような光景を撮った。

志乃は紘一がカメラを手にしたときに足を止めた。

少し端による。

さっきまで感じていた黒壁の賑わいももう遠い。

もう少し遅い時間なら…営業時間が短いだけなのだろうと思えたのに…

新しい習慣に順応した人に合わせて飲食店も形態を変えている。

でも、観光地のこの時間帯の静けさは…物寂しさを訴えてくるようだ。

パンデミックが終わったと言われてから、もう随分経つ。

それでも夜の街は、完全には元へ戻り切れていなかった。

以前なら深夜まで開いていた居酒屋もあっただろうに…

営業していたとしても早く灯りを落としているだろう。

人の通りはあっても、どこか慎重になっている。

大丈夫…そう思っているのに、何処かで怯えている。

その怯えが…別の何かを引き寄せてしまうのに…

紘一はカメラ越しの世界を見詰めた。

フレームの中に志乃が顔を入れる。

「静かだね」

ポツリと零した言葉に合わせるように紘一はシャッターを切った。

「なぁ…そこの店の方を向いて立ってくれない?」

「…いいけど」

志乃は時間から取り残されたような居酒屋の前で足を止めた。

その店舗の2階を見上げた。

何処か憂いを滲ませた表情で閉まったままの店舗へと視線を落とした。


街全体が、一度覚えた静けさをまだ引きずっている。

そんな印象が残っていた。

数分歩いたところで、志乃がふと立ち止まった。

「もう少し、飲みませんか?」

振り返らずに言う。

その声が残されていたかのように、歩みを進めた紘一に届いた。

そして緊張しているのか足元の影だけが揺れていた。

それを電灯の悪戯とするのも在りだ。

でも、それを志乃の不安に感じてしまう。

知人の前で強がっていた…その事実に紘一は少し笑ってしまう。

「さっき…結構、飲んだよね」

「まだ一杯くらいなら」

その声音は誘っているというより、何かを確かめるみたいだった。

紘一はポケットに手を入れたまま歩幅を合わせる。

「いいよ」

それだけ答える。

本当は気になっていた。

なぜ声をかけられたのか。

見知らぬ土地で、年上の男に。

黒壁の町並みのせいにしても、出来すぎている。

その出来過ぎに乗るように街角で何枚かモデルをしてもらった。

志乃が足を止め、ホテルを指さしてから、民家を改装したようなバーを指さした、

木製の扉を押すと、カランと古いベルが鳴った。

カウンターだけの店。

地元客らしい男が一人、入れ違いに帰っていく。

「いいかな?」

「もちろんです。どうぞ」

店主は、静かに言葉を返してくる。

ゆっくりとした所作で一番奥のカウンター席を手で示した。

その席にふたりは座った。

志乃は琥珀色のウイスキーを頼み、紘一はハイボールにした。

氷が溶ける音だけがやけに響く。

しばらくして、紘一は率直に聞いた。

「で、なんで声かけたの?」

志乃はグラスを見つめたまま、小さく笑った。

「安全そうだったから」

「それだけ?」

「うん。旅先で知らない男に声かける理由なんて、それで十分でしょ」

「それ、男が言うやつ? 褒め言葉ならいいけど」

「褒めてますよ」

そこに添えられた笑みがその言葉の内容を否定している。

一口飲んでから、志乃は続けた。

「それに…黒い影が見えたから」

紘一の手が止まる。

「黒い影?」

志乃は、悪戯っ子のようにクスッと笑う。

「あの橋のたもとでずっとあなたを見ていたよ」

その声色は軽い。

軽いのに、目だけが笑っていなかった。

「だから、この人に付いていれば大丈夫かなって」

「普通逆じゃない?」

「あっ、そうかも」

グラスの中で氷が溶ける。

紘一は何も言えなかった。

海老名で見た黒猫。

助手席の白黒写真。

売店のニュース。

全部が脳裏をかすめる。

そのまま、遊ぶように志乃は言葉をこぼす。

言葉も意図もわからないけれど、昔から何となく守ってくれる存在だと。

それで失敗したことはいままでにない。

「信じます?」

「信じないよ」

「考えもしないんだ」

「理屈でわからないことは沢山ある。科学が万能だとも思わない」

「それなのに?」

「文字で説明できないことは…」

「信じない、と」

「その代わり現実は認めるけどね」


気付けばグラスの氷はほとんど溶けていた。

バーを出る頃には、夜風が少し冷たくなっていた。

志乃のホテルは駅裏を抜けた先、外資系のホテルだった。

すでにロビーには誰もいない。

フロントだけが明かりを残している。

「ありがとう」

「どういたしまして」

紘一が背を向けようとした瞬間だった。

カクンと膝を折る形で志乃がふらついた。

「おい」

「ごめん、酔っていたみたい」

紘一は苦笑した。


エレベーターの中で、二人とも何も話さなかった。

というよりも志乃がフラフラとしている。

カードキーを預かり、部屋番号を確認してから志乃を誘導する。

セミダブルベッドを収めただけの部屋。

カウンターテーブルの上にはノートパソコン。

その横に何冊かの本。

ノートの上に転がっているペン類が誰かを呼び込む予定が無かったことを示している。

「大丈夫か?」

「もちろん…全然平気だよ」

壁に手をかけて一応自立しながらぎこちの無い笑顔を見せる。

酔いで少し赤くなった頬を見せながら、彼女はベッドに腰を下ろした。

靴を脱ぐと、そのまま後ろへ倒れ込む。

ベッドのスプリングが小さく軋み、紘一は反射的に志乃の手首をつかんだ。

が、その勢いのまま、ベッドに手をついた。

白いシーツに黒髪が広がった。

志乃の手が紘一の首に回された。

紘一は志乃との十数センチの距離を保ったまま苦笑する。

「じゃあ、おやすみ」

小さな声が落ちた。

「…帰るの?」

「酔いすぎ」

志乃は紘一を見つめたまま、少しだけ口元を緩めていた。

「おじさんをおちょくり過ぎ」

「だめだった?」

志乃は腕に力を入れて微笑んだ。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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